2021年4月の「高年齢者雇用安定法」改正により、事業主には労働者の70歳までの就業機会を確保する措置を講ずる努力義務が課せられています。この要請に応えようとするときに利用できるのが「65歳超雇用推進助成金」です。この助成金には3つのコースがありますが、中でも“高年齢者のキャリアアップ助成金”として利用しやすい「高年齢者無期雇用転換コース」について、その活用ポイントご説明します(但し、同一労働者で「キャリアアップ助成金(正社員化コース、障害者正社員コース)」との併給はできません)。
シニア活躍のため“高年齢者向けキャリアアップ助成金”「65歳超雇用推進助成金(高齢者無期雇用転換コース)」の活用を

「高年齢者雇用推進助成金制度」の内容とは

1)制度の概要と特徴

「高年齢者雇用推進助成金」は、次の3コースが用意されています。
3つのコースの比較

2)「高年齢者無期転換コース」のすすめ

本コースでは、50歳以上かつ定年年齢未満で、有期労働契約が通算5年を超えていない労働者が対象です。今後、この年齢層の有期契約労働者が増加する会社では、予め「無期雇用転換計画書」を提出しておけば、毎年定期的に無期転換をさせた都度本助成金を受給申請できます。一申請支給年度一適用事業所あたり最大10名×48万円=480万円まで助成金が受給可能です。

通算契約期間が5年を経過する前に、無期転換したい労働者かどうかを早めに見極めることは会社にとって有意義であり、かつ早期に無期転換させた労働者のモチベーションアップにつながります。また、無期転換が全員に義務づけられるわけではないため、事業主又は労働者が無期転換を望まない場合は、転換させる義務はありません。さらに、「キャリアアップ助成金(正社員コース)」の場合は、賃金の3%引き上げが要件のひとつになっていますが、本助成金では賃金引き上げは要件になっていません。このようなことからも、会社のニーズに合致するポイントの多い助成金と言えるのではないでしょうか。

「高年齢者無期転換コース」の利用手順

「高年齢者無期転換コース」を利用するには、以下の手順で申請等を行います。

1)要件に該当する対象労働者の確認

「無期転換日において入社6ヵ月以上から5年以内」で、「50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者(雇用保険被保険者であること)」が支給申請の対象となります。その他の要件として、「転換日において64歳以上でないこと」、「派遣労働者は対象でないこと」等があります。

2)「高年齢者雇用等推進者」を選任

「高年齢者雇用安定法」11条および「高年齢者雇用安定法施行規則」5条において定める「高年齢者雇用等推進者」を選任します。

3)「高年齢者雇用管理」に関する措置

次の8つの措置の中から、1つ以上実施していることが必要です。

●職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施
●作業施設・方法の改善
●健康管理
●安全衛生の配慮
●職域の拡大
●知識、経験等を活用できる配置、処理の推進
●賃金体系の見直し
●勤務時間制度の弾力化

上記8つのうち、事業主が導入しやすい措置の例は「健康管理、安全衛生の配慮」で、「各種がん検診、歯周症疾患検診、骨粗鬆症検診等のうち一つを労働者が選択して受診し、事業主が半額負担する」というものがあります。これを50歳以上の正社員等すべての労働者を対象として就業規則に規定する必要がありますが、検診料の負担はそれ程大きくありません。

4)有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する制度の規定化

「労働協約」又は「就業規則」その他これに準ずるもの(当該事業所において周知されているものに限る)に、「無期転換制度を」規定します(転換の実施時期が明示され、かつ平成25年4月1日以降に契約に係る期間が通算5年以内の者を無期雇用労働者に転換するものに限る)

5)無期転換に関する規定の制定と計画書の策定

「無期雇用転換計画の開始日から起算して6ヵ月前の日から3ヵ月前の日」までに、計画書を雇用保険適用事務所毎に作成し、主たる事業所又は当該計画の実施に係る適用事業所の所在する都道府県を担当する「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構」(以下、「機構」とします)の都道府県支部に提出します。

また、計画実施期間1年毎に、事業主都合により1度も転換を実施しなかった場合は、契約は失効します(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「申請の手引き」より)。
高年齢者無期転換計画書

6)支給申請

転換後6ヵ月分(勤務した日数が11日未満の月は除く)の賃金を支給した日の翌日から起算して2ヵ月以内に、申請書類を当該計画書を提出した機構の都道府県支部に提出します。支給決定した助成金は、支給決定日から概ね2~3週間後、事業主が指定する金融機関の口座へ振込まれます。


「高年齢者無期転換コース」は、高齢者のキャリアップ助成金といった位置付けで利用すれば、会社、労働者双方にとってメリットがある助成金の一つです。是非、これからの高年齢者の雇用促進のため積極的にご活用下さい。


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