厚生労働省指針が示す身体的な攻撃・精神的な攻撃などのパワーハラスメント(パワハラ)における6類型の1つとして「過少な要求」があります。厚生労働省資料の中では、「過少な要求」とは『業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと』としています。そこで今回は、なぜ「過小な要求」が起こるのかを掘り下げていきます。
厚労省指針のパワハラ類型「過少な要求」が発生する原因と解決ポイントを解説

パワハラに該当する「過少な要求」とはどのようなケースか?

厚生労働省の資料の中で、“パワハラに該当すると考えられる例”、“パワハラに該当しないと考えられる例”として、次のような例をあげています。

【該当すると考えられる例】
●管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
●気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない。

【該当しないと考えられる例】
●労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する。

「過少な要求」の原因:業務内容などを軽減した理由が「上司などの主観的な意思」

厚生労働省資料が示す“パワハラに該当すると考えられる例”に当てはまるような場合は、当然パワハラと判断されることが考えられます。しかし、最初から「退職させる」、「嫌がらせ」などを目的としているのではなく、「経営が苦しい」、「職務を果たしていない」、「職場の人間関係を悪化させている」などのさまざまな事実が重なって、結果的にそのようなパワハラに至った可能性もあります。さらに、パワハラ行為者の中には、自分の言動がパワハラに当たることに気づいてさえいない人もいるかもしれません。

一般的に、業務経験を積み重ねれば、知識・技術などの能力が向上します。そして能力が向上することで、「効率良く仕事ができ、より多くの仕事をこなせる」、「より責任ある仕事を任される」のが順当です。それに反比例して、業務量や業務内容などをあえて軽減する際には、「なぜ軽減する必要があるのか」という根拠を示さなくてはなりません。

評価制度・昇格(降格)制度などに基づき「業務内容などを軽減した」という客観的な根拠があれば、対象となる従業員にそのことを説明できます。しかし、客観的な根拠が明確でなければ、職場が抱える問題を解決する上で、同じ職場の上司・同僚などの主観的な意思に委ねざるを得ない状況となり、「退職させる」、「嫌がらせ」といった言動につながってしまうことが考えられます。

「過少な要求」の解決:「打ち明けられる場面」をつくる

一方、厚生労働省資料が示す“該当しないと考えられる例”のように、業務量・責任などを軽減することが必要な場合もあります。「知識・技術などの能力に対し、仕事が合っていない」ということだけでなく、「病気や人間関係などが原因で、能力を発揮できない」といったことも考えられます。

従業員自身も「自らの能力に、今の仕事は合っていないのではないか……」、「病気により、職務の責任を果たすことが難しくなっている」、「上司に嫌われてしまい、仕事に集中できない」など、何かしらの自覚を持っているものです。しかし、自分が困っていることについて上司や相談できる相手に打ち明けることができなければ、会社としては根本となる問題を把握できず、それらを解決する方法を見出すこともできないのです。

ぜひ、日頃から面談などを実施して「打ち明けられる場面」をつくっていきましょう。面談を実施する人が当事者の直属の上司では打ち明けにくい、ということも考えられますので、その場合は人事担当者、心理系の有資格者、その従業員と経験年数が近い先輩社員など、本音を打ち明けやすい相手を想定しておくとよいかもしれません。

会社として、従業員が困っていることを早い段階で掴み、それに寄り添うことで、解決する方法も定まっていきます。内容によってはシンプルに解決できないこともあるかもしれませんが、少なくとも「なぜ軽減する必要があるのか」という客観的な根拠を明確にすることができるでしょう。

行為者が「過少な要求」に至った理由を会社として究明することが重要

そもそも、『業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと』は、基本的に誰かが得をするものではありません。本来、十分な能力や経験がある従業員であれば、それに応じた仕事を任せた方が、会社にとっても、すべての従業員にとっても良いわけです。

行為者が部下等に対して「過小な要求」というパワハラをするに至った背景や理由を会社が正確に把握しなければ、改善策を講じることもできず、また同じようなことが起きてしまいます。さらに、行為者だけに責任を負わせるのではなく、行為者に対しても「打ち明けられる場面」をつくることで、会社として根本的な究明することが大切です。


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