2022年4月1日に「改正女性活躍推進法」が施行され、101人以上300人以下の中小企業にも、行動計画の策定や届出、情報公開が義務化されました。しかし、同年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)が閣議決定され、男女間の賃金格差の解消に向けて、同年7月8日より、大企業を対象に「男女間の賃金格差の開示」が義務付けられることとなりました。具体的には、常時301人以上の事業主を対象として、「男女の賃金の差異」の公表が義務付けられたのです。では、具体的にどのような手順で情報を公開することになったのかを見ていきましょう。
「男女間の賃金格差の開示」が大企業を対象に義務化。“会社の実情”の上手な開示方法や、賃金格差解消に効果的な取組みとは

そもそも「男女の賃金の差異」とは?

「男女の賃金の差異」とは、文字どおり“男女間の賃金の格差”のことです。

しかし、「男女間の賃金格差の開示」が義務化されるとはいえ、ただ数字を公表すれば良いわけではなく、「全労働者」、「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」の3区分すべてにおいて、男女の賃金の差異を公表する必要があります。

公表の時期については、“2022年7月8日の制度施行後、最初に終了する事業年度の実績”を、“その次の事業年度が開始されてから概ね3ヵ月以内”に公表するスケジュールとなっています。例えば、「2022年7月末に事業年度が終了する場合」は、「概ね2022年10月末までに公表」となり、「2023年3月末に事業年度が終了する場合」であれば、「概ね2023年6月末までに公表」となります。

ここで、数字の算出における用語の定義をお話しします。まず「労働者」についてですが、「正規雇用労働者」とは、期間の定めがなくフルタイムで勤務している者を指します。一方の「非正規雇用労働者」は、正規雇用労働者よりも1週間の所定労働時間が短いパートタイム労働者と、有期雇用労働者のことです。そして、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」を合わせたものが「全労働者」となります。ちなみに、派遣労働者は派遣元の事業主にて算出するので、派遣先では算出対象外です。

また、労働者である人員数の数え方については、「男女で異なる方法を用いないこと」、「一貫性のある方法を採用すること」に留意します。人員数の算出方法としては、例えば“事業年度内の給与支払日における12ヵ月分の労働者数を平均した数”を用いる方法などがあります。

次に、賃金の考え方ですが、これは「労働基準法」第11条に規定している「賃金」のことを指しています。つまり、「賃金」や「給与」、「手当」、「賞与」などの名称にかかわらず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを含みます。ただし、退職手当と通勤手当については対象外となっています。

この賃金の総額と人員数を男女別に計算して、男性労働者の賃金の平均額および女性労働者の賃金の平均額の割合を示したものが、「男女の賃金の差異」となります。

しかし先述のように、単に数字を公表しただけでは、男女の賃金の差異が大きい場合に「この会社は男女で賃金に差を設けているんだ」と誤解されかねません。それを避けるためには、どのように自社の実情をPRすればよいのでしょうか。

数字だけでは伝えきれない“会社の実情”を正しくPRする方法

男女の賃金の差異は、「数字が小さければ良い」、「大きければとダメ」と簡単に判断できるものではありません。しかし、数字を見た人はそのように判断してしまう可能性があるため、自社の実情を正しく知ってもらうにあたっては、「説明欄」の活用が効果的です。説明欄で、自社の実情を説明したり、より詳細な情報を追加したりすることができるのです。

例えば、男女の賃金の差異が大きい理由として、「女性の新卒採用強化の取組みを行った結果、新卒の女性労働者が多数入社したことで、低賃金の女性労働者数が増加した」と説明すれば、「この会社は女性活躍推進に力を入れているのだ」と理解してもらいやすくなります。また、その後に時系列で男女の賃金の差異を公表し、差異が改善できていることをアピールできれば、「女性の活躍が進んでいる会社である」と説明することもできます。

では、根本的な問題として、どのように男女の賃金格差を埋めていけばよいのでしょうか。

「男女の賃金格差」を解消するために企業が行うべき取組みとは

男女の賃金格差を埋めていくためには、まずその原因を探ることが必要となります。

一般的に、賃金格差には「男女の平均勤続年数」や「管理職の比率」の違いが影響していることが多いです。また、雇用者に占める女性の割合は4割を超えていますが、その半分以上は非正規雇用労働者です。加えて、管理職以上の女性の割合は1割程度になっています。

これらの原因の一つとして、第一子の出産を機に、一度退職する女性が多いことが挙げられます。子育てがひと段落してから再び就職活動をした場合でも、非正規で採用されることが多いために、男女の賃金格差が広がっているのです。

したがって、男女の賃金格差を埋めるためには、“出産や育児があっても可能な限り長く働き続けることができる職場環境の構築”や、“女性管理職を育成する取組み”が不可欠となります。併せて、改正された「育児・介護休業法」に則り、男性の育児休業を促進することで、女性労働者の負担を軽くすることも大切です。

このように、男女の賃金の差異を解消するためには、総合的な取組みが必要になるため、ぜひお近くの社会保険労務士にご相談されることをお勧めします。

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