前回の記事(※)では、「仕組み」と「従業員へのメッセージ」という二つの側面から人事制度の定義やあり方、目的などを解説しました。今回はより踏み込んで「どの様に人事制度を構築していくべきなのか」という問いに答えていきたいと思います。ただし今回も、一般的な制度設計の方法だけではなく、より深淵に存在する人事制度の“対立構造”との向き合い方についても解説したいと思います。まずは本記事では、一般的な人事制度の進め方から解説させていただきます。

「人事制度」の目的とは? 仕組みと従業員へのメッセージという二つの側面から解説

一般的な「人事制度設計」の進め方とは

前回、人事制度には2つの解釈があると解説させていただきました。1つは狭義に「等級・評価・報酬の3制度」を人事制度と捉える見方。もう1つは広義に、「人材マネジメントのためのあらゆる制度」を人事制度と捉える考え方です。

今回は、狭義の人事制度の設計方法について解説させていただきます。まず、人事制度には、「職能主義型」と「職務主義型」が存在します。

「職能主義型」の人事制度とは、担う職務そのものよりも「個人の能力等」に焦点を当てて、等級や報酬を決定する考え方です。一方で「職務主義型」というのは、個人の能力等は無関係に「担う職務の価値」に焦点を当てて、等級や報酬を決定していきます。例えば、給与計算をする仕事があったときに、仕事に就く人が「その職務について多くの知識・スキル・経験を持っていたら高い給与を与えよう」と考えるのが職能主義。一方で「担う仕事としては決まったものだから、どんな人がこの仕事に就いても年450万円固定で払おう」とするのが職務主義です。
これはどちらが良いというわけでは無く、ビジネスや人材マネジメントのあり方によって適不適が変わります。基本的には、下記のような組織が「職能主義」に適しているでしょう。

・中長期的に人材を内部で育成・雇用し続ける組織
・職種を横断するような異動が必要な組織
・職務内容が流動的な組織


また、組織に必要なポストが無くとも、能力の高まりに応じて昇格させることが出来るため、長期的なモチベーションの維持にも役立ちます。しかしその反面、人件費の高騰や年功序列を招きやすくなります。

もう一方の「職務主義」に適合するのは、下記のような組織です。

・人材の流動性が高い組織
・1つの職種の中で育成・活躍することを基本とする組織
・職務内容が比較的固定的・明確な組織


また、組織に必要なポスト数と人材の数は基本的に一致するため、人件費の抑制にもつながります。しかし、職務・ポスト管理の労力が大きく、また上位ポストが無ければ昇格できないため長期的なモチベーション維持が困難な場合があります。

実際の制度設計においては、ある程度はそれぞれの要素を組合わせることが可能です。しかし、具体的な制度設計に入る前に、どちらに軸足を置いた制度としていくかの方針を関係者で合意しておくことが重要です。職能主義型か職務主義型か。どちらの人事制度を構築するかによって大きくこの後の方法が変わるのですが、今回はより汎用性が高い職能主義型の人事制度を中心に解説させていただきます。

ただし、近年「ジョブ型」の人事制度が増加している事にも鑑みて、職務主義型ないし「ジョブ型」の人事制度との対比も最後に行います(職務主義型と「ジョブ型」を峻別している事には理由があり後述致します)。

「職能主義型」の人事制度構築に向けた8つのステップ

「職能主義型」の人事制度構築に向けて、現状分析や方針策定の後に行うべきステップは、以下のように大きく分けて8つあります。今回は各社で最も興味をお持ちかと思われる等級・評価制度((1)〜(5))の構築について詳述させていただきます。なお制度設計の方針や現状制度が抱える課題などによっても検討の内容や順番は変わってきます。

(1)キャリアパスの策定
(2)等級段階・定義・基準の策定
(3)評価体系の策定
(4)評価基準・ロジックの策定
(5)評価プロセス・評価票の策定
(6)報酬体系・水準の策定
(7)給与・賞与等のテーブルや原資管理方法策定
(8)制度移行方針の策定


まず(1)の「キャリアパスの策定」とは、今後のビジネスや組織のあり方、従業員のモチベーション等を鑑みたときに、どの様な種類のキャリアパスを準備するのかを明確にすることです。例えば、職種であったり、マネジメント系/専門系であったり様々な分け方・切り口が存在します。

次の(2)「等級段階・定義・基準の策定」では、それぞれのキャリアパスにおいて何段階のステップを設けるかを策定します。これは成長のステップや組織階層などを考慮に入れながら最適な段階を検討していきます。その上で、それぞれの段階(等級段階)ごとの定義や基準を具体化していくことで等級制度を策定していくのです。

評価制度に該当する(3)「評価体系の策定」とは、そもそも何をどの様な手段で評価するかを決定することです。「何を」というのは、例えば人の能力なのか、行動なのか、成果なのかなどです。そして評価の対象となるものに対して、全社共通の基準なのか、目標の達成度なのか、実績なのか、何で測定するかを決めていきます。ただし、これらの検討にあたってはそもそもの評価の目的を整理する必要があります。一般的には、人材の成長促進、モチベーションの向上、組織目標と個人目標の連動、処遇の決定などが目的とされますが、どれに力点を置くかによって、評価のあるべき姿が大きく異なります。多くの企業ではすべての目的を実現するために、能力・行動を基準に基づき評価し、成果は目標達成度で評価し、それらの結果を報酬に繋げる形が採られているように思います。

仮にそうした評価体系であった場合に、(4)「評価基準・ロジックの策定」のステップでは、具体的にどの様な目線で評価し、その結果をどの様に報酬に繋げていくかのロジックを策定することになります。そして最後の(5)「評価プロセス・評価票の策定」においては、期初・期中・期末において具体的にどの様な運用としていくのか、誰が誰を評価するのか、どの様な内容を評価票に記載してもらうのか等を具体的に決めていきます。ここまでが一般的な「職能主義型」の人事制度(等級・評価制度)を構築する際の大まかな流れです。

「職能主義型」と「職務主義型」の人事制度の違いとは何か

では「職務主義型」の人事制度の場合はどこが異なってくるのでしょうか。それは、前段の等級制度の構築で大きな違いがあります。職能主義型が主にキャリアという個人側の視点から入ったのに対して、職務主義型はポスト(仕事)の視点になります。

具体的には、各ポストの価値を職務評価により測り、それを序列化して等級の段階とします。また職務評価の際には職務記述書を作成することが通常の方法です。ではこの職務主義型人事と、世間の「ジョブ型」とは何が異なるのでしょうか。世間の「ジョブ型」も実は多様なタイプが存在します。近年の人事制度に関する「ジョブ型」で比較的多いのが、以下の5パターンです。

(1)ポストごとに職務評価を行い、序列化して等級を構築した制度(厳密な意味での職務主義型人事)
(2)ポストより大きなくくりの単位(役割やミッション等)で職務の大きさを序列化して等級を構築した制度(厳格な職務評価を行わない場合が多い)
(3)職能主義型の人事制度や上記(2)の制度を職種などで複線化・細分化して等級を構築した制度(または職種などで報酬水準等を変える制度)
(4)報酬に関して職能の要素を薄めて職務の要素を強くした制度
例:職能給の一部を役割給や役職手当に移行・能力等による昇給を廃止/縮小
(5)報酬について、マーケットプライス(外部市場価値)との連動性を高めた制度
例:各等級の報酬水準をベンチマークデータに基づき設定


(1)〜(5)に関しては組み合わせの場合もあります。これ以外にも、職務記述書を作成して職務の明確化を行うことや、成果報酬(変動賞与)の割合を増やすこと、個別契約的に労働条件を定める制度の導入を「ジョブ型」導入と呼ぶ企業もあります。こうした多種多様な「ジョブ型」が存在するため、ニュースを見るときは「どのタイプのジョブ型なのか」を深掘りしてみるのも良いかもしれません。

次回の記事では、こうした人事制度設計に潜む“哲学的問い”について解説させていただきます。
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