ハラスメント防止を通じて誰もが働きやすい職場環境をつくることは、会社の生産性向上につながります。しかし実際は、うまくいくことばかりではありません。特に、中間管理職の方は、さまざまな葛藤を抱え、その問題と向き合わなければなりません。今回は、中間管理職の方が抱える「板挟み」にスポットを当て、ハラスメントに関する悩みを解消するポイントを解説します。
ハラスメントに関して中間管理職が抱える「3つの板挟み」とは。解消のポイントを詳しく解説!

【板挟み:1】「ルール」とハラスメントの“板挟み”

「ハラスメントをしてはいけない」、「ハラスメントにより懲戒処分を受けてはならない」など、職場のルールを遵守する意識が強いと、成果を上げてない部下に対し「どのように指導したらよいか」という“板挟み”を感じる場面もあるのではないでしょうか。

【解消のポイント】ハラスメント加害者となることを必要以上に警戒しない! 部下が働きやすい職場環境づくりに徹する

まず、「ハラスメントをしてはいけない」を目的にしないことが大切です。これを目的にしてしまうと、ハラスメントか否かということばかりに意識が集中し、部下に対して実のある指導ができなくなります。上司が毅然とした態度で行う指導は必要なことです。

必要な指導をした上で、「部下の仕事ぶりに変化があったのか」、「変化がなければ、どのようなアプローチをしたらよいか」などを考察し、部下が能力を最大限に発揮するために働きやすい職場環境を追求し続けることが重要です。

「部下の仕事ぶりが改善されない、だから指導をどんどん強めていく」というような悪循環に陥らないよう留意すれば、何がハラスメントであるかということは一般的な理解に留めておけば十分でしょう。ハラスメント加害者となることを必要以上に警戒しないことです。

【板挟み:2】「会社」とハラスメントとの“板挟み”

私的な人間関係によるものなどを除けば、ハラスメントの多くは会社内における役職・役割が原因で起きてしまいます。強い使命感を持つ中間管理職ほど、「こんなに強い指導はしたくない」、「でも……会社のために」という“板挟み”を感じるのではないでしょうか。

【解消のポイント】ひとりで悩みを抱え込まない! 早い段階で、会社と悩みを共有する

ハラスメントが発生した際に、「会社がハラスメントと認めてくれない」、あるいは「会社の懲戒処分に納得できない」など、被害者や加害者の不満を社内で解決するのが困難な場合は、ADR(裁判外紛争解決手続)などにより、社外において解決を図る方策もあります。その際は、民法などに規定される以下のような責任を、会社が負うかが主な争点となります。
ADR(裁判外紛争解決手続)において問われる会社の責任
ハラスメントなど職場でのトラブルでは、会社は「中間管理職を含めた従業員の行動」について、使用者としての責任(使用者責任)を問われます。また、加害者に対して懲戒処分が行き過ぎたものと判断されれば、会社による就業規則の運用(不法行為)が問われるかもしれませんし、労務管理の不備(安全配慮義務)が問われることも考えられます。

つまり会社には、就業規則に懲戒処分などの規定を明確に定め、従業員に対し「ハラスメントをしてはならない」と周知するなどの措置を講じるだけでなく、「すべての従業員が働きやすい環境」をつくることが義務づけられており、その義務を遂行できなければ、さまざまな責任を問われることになるのです。

一人ひとりの部下が働きやすい職場環境づくりを担うことは、中間管理職の大事な役割ですが、中間管理職も従業員のひとりです。「すべての従業員が働きやすい職場環境をつくる義務」を会社が果たさないのであれば、中間管理職も“ハラスメントの被害者”といえるでしょう。

また、中間管理職がひとりで悩みを抱え込んでしまうと、会社がその現況を把握できずに前記のような法律上の責任を負うことにもなりかねません。中間管理者が早い段階で、その悩みや問題を会社と共有できるよう報告・相談することが、会社のリスク軽減に大きな役割を果たすのです。

【板挟み:3】「部下」とハラスメントとの“板挟み”

「部下へ強い指導が必要」と思う場面でも、部下が中間管理職などに対抗する手段として「ハラスメントを受けた」と訴えてくるのではないかという懸念により、思うような指導になかなか踏み切れないという“板挟み”も考えられます。

【解消のポイント】部下を頼りにすること! 早い段階で「部下が嫌と思うこと」を察知する

中間管理職が主従関係の意識を強く持ちすぎると、部下を頼りにすることに抵抗感を覚え、指導することばかりに意識が傾きます。その結果、部下とのコミュニケーションが一方的となり、部下は我慢を強いられ、部下にとって不快と感じる事実ばかりが積み重なっていきます。

ひとつの言動がハラスメントに該当することもありますが、多くの場合、部下にとって「不快と感じるさまざまな事実の積み重ね」によりハラスメントが起こります。そのため、事実が積み重なる前に、問題を解決することが重要です。

仕事における大切な場面であれば、部下を頼りにする場面を積極的につくってみましょう。部下の意見が頼りなく感じるかもしれませんが、「この部分を取り入れよう」、「こういう見方があることに気づいた」などと、部下に伝えることが大切です。仮に、部下が上司に対して不満を持っていたとしても、業務上で自分の存在価値が認められたと実感できれば、それが自信や喜びにつながるかもしれません。

立場上、部下は上司に対して嫌なことがあっても「嫌!」とは言いにくいものです。部下を頼りにするような場面をつくり、時には上司として“隙を見せる”ことも方法のひとつでしょう。部下の本音を引き出して、考え方や価値観などを知ることで「部下が不快と感じること」の察知につながります。それは、中間管理職として大事な役割である、「一人ひとりの部下が働きやすい職場環境をつくる」ための大きな手掛かりにもなるのです。

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