ウェルビーイング(Well-being)という言葉が、人事界隈でも話題です。数年前から、外資系企業の人事担当者を中心に重要性が語られていましたが、最近では、日本企業内でも「ウェルビーイング」について話す機会が増えていると感じます。本シリーズでは、これからますます注目されるであろう、「ウェルビーイング」と「ウェルビーイング経営」を解説していきます。
Well-being(ウェルビーイング)経営って何者?

ウェルビーイング(Well-being)とは何なのか?

ウェルビーイング(Well-being)が本格的に流行ってきたと感じます。
世界の 検索のトレンドをチェックできる「Googleトレンド」でも、ウェルビーイングは2020年ころから検索数が増え、年々右肩上がりに増加してきています。論文などの文献検索である「Google Scholar」では、2016年に発表されたウェルビーイングに関する日本語の文献数(※)は204件であるのに対し、2020年は400件、2021年は467件とこの5年間で2倍以上に伸びていることがわかります。

人事関係者と話していても、この1~2年でウェルビーイングが話題になる機会が増えました。企業によっては、人事部門や経営企画部門に「ウェルビーイング担当」を置き始めているところもあるようです。

この雰囲気は、2010年代前半に勃興した「ダイバーシティ黎明期」に近い感覚を覚えます。ウェルビーイングが広まりつつある背景に、働き方改革や新型コロナウィルス影響、健康経営が一服してきたことがあるでしょう。また、SDGsの達成期限2030年まで10年を切り、本格的にSDGsに取り組む企業が増えてきたことも要因ではないでしょうか。先行していたグローバル企業や外資系企業では、ウェルビーイングは一般的になってきており、やっと日本企業でもその重要性が理解されてきました。世界のトレンドから、いつもワンテンポ遅れるのが日本の会社かもしれません。

ところで、ウェルビーイングとは何なのでしょうか。周囲の人にウェルビーイングの話をすると、「よくわからない」、「健康っていう意味だよね?」、「幸せのことでしょう」などの反応がかえってきます。ウェルビーイングには様々な解釈がありますが、最も正式な定義に近いのはポジティブ心理学の創始者である、ペンシルバニア大学心理学部のマーティン・セリグマン教授によるものだと考えます。

セリグマン教授の書籍『ポジティブ心理学の挑戦』ディスカバリー・トゥエンティワン,2014年にて、以下のようにやや曖昧な定義づけをしています。

「ウェルビーイングとは、幸せの構成概念であり、さらにウェルビーイングは測定可能ないくつかの要素で構成される。各要素がウェルビーイングと関係しているものの、ウェルビーイングを決定する要素はひとつもない」

どうでしょう。よく理解できない定義ではないでしょうか。
ウェルビーイングの構成要素をみてみると、「ウェルビーイングが何なのか」が見えてくるかもしれません。

ウェルビーイングの5つの要素

セリグマン教授によると、ウェルビーイングは5つの要素から構成されます。
その5つとは、「PERMA(パーマ)」です。PERMAは、ウェルビーイングに寄与する測定可能な5つの独立した要素の頭文字を示しています。

●1つめはPositive(ポジティブ感情)です。
楽しさや喜びなどのポジティブ感情は幸福に寄与するものであるため、ウェルビーイングでも重要な要素だとされています。

●2つめはEngagement(エンゲージメント)です。
エンゲージメントとは、いわゆる「フロー状態」のことで、何かに没頭して時が経つのを忘れてしまうほど素晴らしい体験をすることです。エンゲージメントは状態であり、後から「あれは素晴らしかった」と言える体験です。ちなみに、セリグマン教授によると、ポジティブ感情とエンゲージメントは個人の主観によって測定されるものされています。

●3つめはRelationship(関係性)です。
ポジティブ心理学では他者とのポジティブな関わりが重視されています。他者に感謝すること、信頼できる他者がいることは人生に喜びを与えてくれます。

●4つめの要素がMeaning(意味・意義)です。
意味があること、意義があることに取り組むのは人間にとって喜びです。人生や仕事に使命や目的を求めること、有意義であることは幸福な人生につながります。

●5つめがAccomplishment(達成)です。
人は何かを達成することを目的として活動することがあります。ゲームやギャンブルをするのはその一例です。また人生そのものを何かを達成するものとして取り組むこともあります。

セリグマン教授によると、こうした“PERMA”という5つの要素が高まることで、いっときの幸せではなく、持続的な幸福度の向上を目指すことがウェルビーイングだとされます。

ウェルビーイング(Well-being)経営は、何に取り組めばよいか?

「ウェルビーイング」が分かりづらい概念であるため、企業でウェルビーイングに取り組む担当者の方々からは「実際に何すればいいの?」という声をきくことがよくあります。

しかし、セリグマン教授の定義を採用すれば、ウェルビーイング経営は、測定可能な要素であるPERMAの5つが高まる取り組みをすればよいということになります。例えば、従業員それぞれが、前向きかつやりがいをもって仕事に取り組める環境を提供するとともに、社内に良好な人間関係を構築する取り組みを行うことだと考えられます。

また、社内だけではなく、社会に対しても“PERMA”を高めることのできる製品やサービスを提供していくことになります。モノにあふれる現代社会では、人は物質的満足よりも精神的な満足を求める傾向にあります。特にSNSなどでの人とのつながりを楽しむ傾向は現代人の傾向をよく表していると考えられるでしょう。

ウェルビーイング経営において少し難しいのが、セリグマン教授もいうように、“PERMA”には主観的な概念が含まれることです。一律の幸せというものはなく、個々人が人生での満足感や仕事でのやりがいを感じることが重要なのです。人事関係者と話していても「それぞれの幸せといっても何に取り組むのか……」というため息がもれることもあります。

近年のダイバーシティの浸透にもみられるように、そもそも一律の価値観を共有するのは難しい時代になっています。時代が変わってきていることを企業担当者は理解しなければなりません。個人が企業に合わせる時代は既に終わりを迎えています。企業は個々人の仕事のやりがいや幸せを実現できるような機会と環境を用意する努力をしなければならないのです。そして、従業員や顧客の声を定期的に聴き、生活と仕事、そして物心両面で人々が求めるものを提供できる仕組みをつくるのが現代の企業の役割なのです。
個人の幸せに寄与する企業やサービスでなければ、これからの時代は生き残っていけないでしょう。

ただし、そうは言っても具体的に何すればいいのかわからない、という課題は残ります。そこで次回からは、より具体的に何に取り組むべきか、健康経営とウェルビーイングとの違いは何か、など全4回で解説します。

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