事業継承の準備は「オーダーメイド経営」を「○○経営」にシフトさせることから
コンサルタントとして、事業継承に立ち会う際に良く感じるのは、親子など親族同士であっても、経営や仕事に対する考え方などは、人それぞれ随分違うものだということです。考えてみれば、例え家族でも別人格ですから当たり前ですが、そういった現場に立ち会う前は、やや異なるイメージや先入観を持っていました。では、事業承継のリアルな現場ではどのような事が起こるのでしょうか?

親族間の事業承継でも「考えの違い」は日常茶飯事

事業継承時はオーダーメイド経営をレディメイド経営にシフトさせる

事業継承時はオーダーメイド経営をレディメイド経営にシフトさせる
「もう3代目だったら、その組織は既に決められているルールに従って事業が継承されるのだろう」とか、「小さい頃から親の背中を見ているのだから、同じスタイルを継承するのだろう」など。親族間の事業承継は、他人同士より円滑に進むとつい想定します。
しかし実際には、「親といえども、子供である自分とは○○の部分では考え方が違う」や「自分の子供なのに、どうして○○の部分は親である自分とは考え方が違うのか不思議だ」ということが起こります。

以前フランス人の友人と、日本人とフランス人の生き方、働き方の違いについて本を出したことがあります。その際に、フランスのことわざを調べたのですが、その中に「家族とは群島である(日本語訳)」というものがありました。つまり小さい島の一つひとつが父、母、子供であり、その小さな島々が群れている状態(群島)が家族であるということです。たとえ家族でも、それぞれ一人ひとり独立した個人なのだという意味として私は理解しました。その考えに則れば、事業継承において、親から子に継承する場合も、他人同士で継承する場合も、継承の仕方は本来全く変わらないはずです。

しかし、一般的な日本人の感覚では、やはり家族というのは一つの大きな島で、その一つの島の中に家族のメンバー全員が住むというようなイメージを抱く人が多いのではないでしょうか。だから「家族であれば同じ価値観でいることが普通なのに、なぜこんなに考え方が違うのだろう……」という発想が浮かびやすく、私自身にも未だにそういう思い込みが根強く残っていたのだなと改めて気づかされました。

経営者が変わると、組織とその周りはどう変化していくのか?

事業継承時の組織の状態には二つのパターンがあります。

1.その組織に根付いている規範やルールに人間のほうが合わせていく
2.その時々の組織のトップが好きなように采配をしていく

組織の伝統に強い影響を受ける形で継承しなければいけない場合もあれば、代々その時のトップの人物が、自分の好きなように采配をして、後に引き継ぐような形もあります。1と2、それぞれのやり方に優劣はありませんが、引き継ぐ人間の「周囲(会社の人間)」にとっては、1の形のほうが、トップが変わったとしても変化を受ける影響は少なくなります。反対に2に関しては、非常に大きな影響を受けます。

2のパターンのように、新しいリーダーが前任者のやり方を抜本的に見直す場合、それによって不利益を被る既存の社員や取引先がいるとしたら、彼らは反発します。たとえばこれまでピラミッド組織だったものをフラット組織に変えようとした場合、それによって一般的には多くの役職が撤廃されます。実際に肩書を失うことになる側の多くは、組織改革に反発をするでしょう。

また、これまで社長の独断で決めていた発注先の選定の仕方を変える場合なども同様です。厳密に合い見積もりをとり、割安で質の良い発注先に変えていく、という方針転換を行うとなると、取引が打ち切りになる可能性のある発注先も反発をすることでしょう。

抜本的な見直しは、前任の経営者が属人的な経営によって赤字や経営危機に陥らせてしまった際に行われるケースが一般的です。見直しによって改善されたことを手放しで喜べばいいかというとそうではなく、後々に問題が起こる場合があります。現在の経営者の経営改革の内容のレベルが高すぎて、将来的にそれを維持しながら引き継げるレベルの後継者がなかなか出てこない……というような、人が育つのに時間を要するという状態などです。現任の経営者が引退したくてもなかなかできない、問題を引き起こすこともあります。社内のみならず、社外の取引先や投資家からも、「今日現在はそれでもいいけど数年後は本当に大丈夫だろうか」という不安も引き起こしてしまいます。

事業承継を滞りなく進めるためのコツは「レディメイド経営」への移行

業績を悪化させるような属人的経営はもちろんいけません。しかし、最高益を出すような属人的経営も、ある種将来の不安を増幅させてしまいます。例えば、後継者が見つからない、後継者がその数字を維持できないかもしれないというケース等です。

そうならないためには、「属人的経営」をやはり改める必要があるのです。経営者の全盛期には、その人しか着られないオーダーメイドのような経営をしていたとしても、事業継承を考え始めるころには「レディメイド経営」、つまり、「S,M,Lサイズ」など、ある程度常人でも着こなせるような組織体制やルールに微調整をしていくことが求められます。

そうすることで、カリスマ的な人材でなくても、問題なく事業を継承できるような組織の状態になっていきます。さらに、後継者候補も見つけやすく、育てやすくなるのです。「会社が未来永劫続いて欲しい」ということであれば、優秀な経営者の方ほど、晩節は“レディメイド経営にシフトチェンジ”していく必要があります。
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