「ハラスメント防止研修」で大事なことのひとつは、受講者が法律・指針等の理解を深めることです。ですが、せっかく研修を企画するのであれば、“法律理解”や“ハラスメントへの理解”を深めるだけでなく、更にステップアップして「働きやすい職場環境をつくる当事者意識」も深化させられるような工夫を加えることも大切です。
“パワハラ”の線はどこで引く? 法律理解だけに留まらない「ハラスメント防止研修」を企画する上でのポイントとは

ハラスメント防止研修で大切にしたいこと〜「緊張感」と「前向きさ」のバランス〜

ハラスメントを防止する上で、法律・指針等は“誰もが働きやすい環境”をつくる上で重要なルールであり、研修などで緊張感を持って扱うことにより、深い理解を促す必要があります。

ハラスメントにも様々な種類がありますが、パワーハラスメント(以下パワハラ)の理解を促進する指針として、厚生労働省によって「パワハラの行為類型」 が示されています。「精神的な攻撃」や「過少の要求」などパワハラには「6つの類型」があり、その類型に応じて「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」も解説されています。

これらの例は「限定列挙」(それ以外は認められないこと)ではなく、パワハラの内容を整理するための「典型例」であることを、指針の中で明記しています。しかし、これに限らず“法律を理解すること”だけに意識が集中する時ほど、独自の解釈に陥らないよう注意が必要です。一体どういうことなのか、「避けるべき2つの解釈例」から説明します。

【避けるべき解釈:その1】自らの解釈でパワハラの線引きをしてしまう

特に「これまで自身が厳しい指導を経験してきた方」などが注意すべき解釈です。具体例として、6類型の「精神的な攻撃・該当すると考えられる例」にある、『他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う』で考えます。

この例にある「大声」、「威圧的」、「繰り返し」などの要素について、「ここまでだったら大丈夫だろう」と、勝手に解釈してはいけません。パワハラであるかどうかは、様々な要素により総合的に判断されるものです。どこまでが「大声」で「威圧的」なのかという明確な境界線があるわけではなく、単純に「繰り返さなければいい」ということでもありません。「線引きがないと厳しい指導ができない」と考えてしまう場合に多い解釈だと思います。

【避けるべき解釈:その2】パワハラしないことに気を取られ、何もできない

特に「慎重に物事を判断する方」などが注意すべき解釈です。具体例として、6類型の「精神的な攻撃・該当しないと考えられる例」にある『その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする』で考えます。

「どこまでが“重大”なの?」、「“一定程度強く”というのは、どれくらい?」と考えすぎて、適切な指導ができないことも問題です。会社の規律が乱れるようなことは、きちんとした指導をしなければなりません。“相手がどのように感じるか”という意識を高め、パワハラを避けようとすることは大切ですが、それに気を取られすぎて指導しないということは、また別の問題を引き起こしかねないのです。


「ハラスメントをしない」という緊張感を持つことは、とても大事なことです。そのためには法律・指針等を正しく理解することが必要です。ですが、研修を企画する際には“法律等を理解する”という緊張感を持つだけではなく、その理解を通じて「誰もが働きやすい環境をつくるために、これから何ができるか?」という前向きな気持ちをつくるための場面も考えていきましょう。

柔軟な考え方を促進するために〜「ハラスメント防止研修」を企画する3つのポイント〜

【研修のポイント:その1】気づかせよう

ハラスメントの大きなリスクのひとつは、「加害者がハラスメントをしたことに、気づかない」ことです。「気づかせる」ための工夫として、年代別・階層別に研修を行うことなどが挙げられます。該当する年代や階層別に設定すれば、ピンポイントで具体的な内容について深堀りしやすく、“例えば年齢を重ねた方が陥りやすいハラスメント”の傾向を具体的に伝えやすくなりますし、部下の立場であったとしても“上司に対してハラスメントをする場合”(リモートハラスメントなど)があることも知ってもらいやすくなります。

また、法改正のタイミングや社会情勢などを踏まえて、タイムリーな内容を取り入れた研修を実施するのもよいでしょう。例えば、育児休業の法改正に併せてマタニティハラスメントなどの研修を開催すれば、「どのような制度があるのか」、「なぜ育児休業が必要なのか」がわかり、ハラスメントをしてはいけない本質的な理由に気づくことができます。

【研修のポイント:その2】考えさせよう

厚生労働省指針などは、当然ながら誰もが共有できる「ハラスメント防止策」が明記されています。一方で、実際に働いている職場は、仕事の内容・職場の人数・従業員の年齢構成などがそれぞれであり、“まったく同じ環境の職場”はありません。厚生労働省指針だけでなく、その職場だからこそ当てはまる「ハラスメント防止策」があるはずです。研修の場を利用して、自社に応じた防止策を考える機会をつくりましょう。

例えば、グループワークなどで「ハラスメント防止指針」を作成し、「誰もが働きやすい環境にするためには?」などの柔らかいテーマで、より前向きな気持ちを醸成することを取り入れてみるのもおすすめです。

【研修のポイント:その3】実践させよう

研修で得た知識や情報を定着させるためには、「目標を立てて実践する」ことが大切です。例えば、研修翌日に自らが立てた目標を、職場の中で発表するなどの場面づくりをしてみてはいかがでしょうか。あるいは、ハラスメント防止につながる人事評価項目を設定するだけでも、研修で学んだことに対しての意識がまったく違ってくるでしょう。せっかく研修を行うのであれば、“それがきちんと実践されるような職場の仕組み”も視野に入れておくのがおすすめです。

また、従業員だけでなく、ぜひ役員・経営者などにも研修に参加してもらいましょう。“会社一丸となってハラスメントを防止する”という一体感が生まれ、会社の大きな魅力にもつながります。会社の役員・経営者・従業員全員が「ハラスメントをしない」という緊張感を高め、誰もが「知識」や「働きやすい職場環境をつくる当事者意識」を深めることがとても大切です。

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