「コロナ禍」は経営戦略の転換を促し、人材確保の考え方も変える
新型コロナウイルス感染症がいつ収束するとも予測がつかない昨今。この状況は、企業経営にも大きな影響を与えているだろう。筆者には、この「コロナ禍」という節目にあたって、優れた経営者ほど“正常性バイアス”に囚われず、ドラスティックな政策の企画・実施を迅速に進めているように見える。本稿では、この「コロナ禍」における抜本的な経営戦略がどのように転換していくのか、また「コロナ禍」はその転換をどう促しているのか、詳しく見ていきたい。

「コロナ禍」が企業文化の変革を後押し

「コロナ禍」にかかわらず、すでに日本の産業界を取り巻く経営環境は、極めて厳しいものがあった。それを後押ししたのが「コロナ禍」であろう。人々の潜在意識や、サプライヤー企業からの部品調達のひっ迫感による「需要と供給の変化」、人材確保等の困難さからくる「人材共有の一般化」、DXによる企業文化の変革、カーボン・ニュートラルによるコストアップ、SDGsの普遍化など、企業経営にはマイナスとなる要素があふれている。しかしながら、これらに的確に応えていかないと企業の「ゴーイング・コンサーン(事業継続の前提)」はおぼつかないだろう。

コロナ状況下における国民の“合理的経済行動”にどう対処するか

「世の中が節約モードになったら、さらに景気は悪化する。だから、経済を活性化させるためには誰もがお金をどんどん使った方が良い」と主張するのは経済学者だ。これは「合成の誤謬」という現象を言い表しているものであり、理屈としては間違ってはいないだろう。しかし、国民の現下の“合理的消費行動”は「節約」なのである。まして、政府から「自助が大切です」とまで言われれば、積極的にお金を使わない選択肢しか残されていないのだ。

景気が悪いのであれば、「節約」や「ダウングレード」をするのが国民の自衛策である。さらに、冷えた景気に追い打ちをかけるのが「将来への不安」であることは確かだ。「医療や介護の負担はどうなる?」、「年金だけで生活できるだろうか?」……定年を迎えた人でさえ、このような不安を口にする。若年層は“言うに及ばず”である。

「コロナ禍」を経験した国民の多くは、以下のような消費行動に転換するであろうことは想像に難くない。

1.必要な物を吟味し、不必要な物や嗜好品は買わない
2.コスパの高い、安い物の中から選択して買う
3.光熱水費を節約する
4.「安心」、「安全」、「健康」が行動基準となる
5.群れる行動が少なくなり、単独行動や少人数での行動となる
6.行動範囲が狭くなり、人の動きが緩慢になる


このように考えると、「コロナ禍」は“供給サイド(サプライサイド)”に大いなる警鐘を鳴らしていると受け止めるべきだろう。ちょっと大げさに表現すれば、第二次世界大戦後に多くの価値観が大転換したのと変わらない状況ともいえる。正常性バイアスが強ければ強いほど、過去の成功に拘泥するのが人間であろう。しかし、少なくとも経営者はそうであってはならない。消費行動の“パラダイム転換”を前に、イノベーションを起こす気概をもって改革を急がないと、厳しい試練に苛まれることになるかもしれない。

“産業人材”をどのように確保するか

さらに、地方を中心に産業人材の不足感は深刻な状況にある。ハローワークに求人を出しても“応募者がいない”状況なのである。ポストコロナの人材育成や確保は、これまでの「抱え込み発想」の転換を迫るだろう。

今年になって、一定の要件を満たした企業を対象に、「産業雇用安定助成金」が創設された。これは「在籍出向」の出向元企業及び出向先企業に対し、出向労働者に係る人件費等を手厚く助成する制度である。「コロナ禍」によって経営が悪化した企業しか活用できないが、今後は助成金の有無にかかわらず、企業では「在籍出向」を利用した人材育成(送り出し企業)や人材確保(受け入れ企業)が自然に普及するのではないだろうか。

また、労働者の副業・兼業が、テレワークの普及等も手伝って急速に拡大している。国側も、これまでの「許可制」を「届出制」に緩和する方向にシフトしたり、労働時間の管理を簡素化したりするなどの措置を示している。こちらも「在籍出向」同様、「副業・兼業」を利用した人材育成(副業・兼業元)や人材確保(副業・兼業先)が必須のものとなるに違いない。

人材を恒久的に抱えるのは、多大なコスト負担をもたらす。必要な人材を必要な期間だけ確保する、という企業間の「人材共有」を急がなければならない。

「越境学習」で企業文化の“変革”を

このように「コロナ禍」は、企業の経営戦略の転換をもたらすことがわかった。今現在の企業の「成功事業」が、未来永劫続くとは限らない。かといって、新しい分野の事業への取り組みが一朝一夕にして軌道に乗るものでもない。

イノベーションを「新結合」だと言ったのは経営学者のヨーゼフ・シュンペーター氏であるが、自社の社員を他社に修行に行かせる、あるいは自社にいない人材を他社から受け入れることを「越境学習」と呼ぶならば、「越境学習人材」の拡大によって企業文化を変革させながら、地道にイノベーションに向き合っていくべきではないだろうか。


【監修者】大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP
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