会社員にとって、最も気になる年間イベントの一つがボーナスの支給ではないでしょうか。できることなら、なるべく多くボーナスが支給される企業で働きたい。きっと多くの方が考えることだと思います。では、そもそもボーナスはどうやって決まるのでしょうか。ボーナスの支給月数が6ヵ月分以上という企業をみると、「おお!」と羨ましい気持ちになる方もいるかもしれません。しかし、そこには支給月数だけでは単純比較できない事情がありました。今回はボーナスのウラ側について考察してみます。

ボーナス(賞与)はどうやって決まるのか?

2020年に始まった新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、多くの方がボーナスの行方を気にしているのではないでしょうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表する賞与の統計情報によれば、2020年の年末賞与の平均は主要企業で78万6,460円でした。前年比-6.54%の水準となっています。大手企業では、ボーナスは前年度の業績によって決まるため、2021年も2020年末賞与と同じく前年比3〜6%の減少が予測されます。

ちなみにリーマンショック後の2009年の年末賞与は、前年比-12.64%の72万6,933円となっていました。2021年も可能性としてはリーマンショック相当の落ち込みが懸念されるものの、2019年まで続いた好景気の影響で、企業によっては充分な内部留保を抱えているため、額としてはリーマンショック後の水準以上になると考えられるでしょう。

こうしたボーナスの支給額は、どのように決まるのでしょうか。日本企業であれば、ジョブ型雇用制度が導入されつつあるとはいえ、ほぼ年功序列で賃金が決まります。また、役職に就けばボーナスの支給額は当然上がります。ただ日本企業の場合、「年功序列」を基本的な考え方にしているため、ボーナスの支給額はどの企業も世間水準を参考にするのです。

企業の給与担当者は、ボーナスの支給月数を決めるタイミングになると、様々なデータを調べます。同業界の他社の人事担当者へ電話して、その年のボーナスの支給水準のヒアリングを行い、経団連や労働組合関係者、業界団体などの団体からもデータを集めます。そして、こうしたデータから賞与の支給額や支給月数を総合的にまとめたうえで、自社の支給月数を決めます。その際、世間水準から大幅に上振れも下振れもしないように調整するのです。

たとえ企業が十分に儲かっていて、世間水準の倍以上の賞与を支給できるとしても、基本的には世間と同水準に支給額を抑えます。また比較的、賞与の支給額が高い企業であれば、新型コロナウイルスの影響など、世間では大幅に業績が低下している中で自社が儲かっている場合、なるべく前年と同額を維持しようとするでしょう。

このように、日本の大企業では世間水準を基準に、企業間で人事担当者が調整を行って支給額を決定しています。

ボーナスには各企業の思想が強く反映される

なぜ日本では横並びの賞与支給額かというと、年功序列に加えて、労働組合による団体交渉の歴史が長かったからです。現在でも、製造業を中心に企業と春闘で団体交渉を行い、ボーナスの支給月数を決めています。その際に基準になるのが、業界トップ企業の水準です。自動車業界や製造業であれば、トヨタやホンダなど完成車メーカーの水準を参考にします。ちなみに2021年の春闘では、トヨタ自動車は、平均月9,200円の賃上げ、6.0ヵ月ボーナスという組合側の要求に満額回答しています。

自動車業界であれば、労働組合も完成車メーカーを頂点として、部品メーカーや機械メーカーの組合がヒエラルキーを形成し、労働組合同士が協調して交渉を行うために、今まではトップメーカーの水準を超える支給月数を要求することが難しかったのです。しかし、近年は日本の産業も製造業中心から徐々にサービス業やITへシフトしています。90年代以降に創業した企業の中では、大手企業でも労働組合が組成されていない企業が増えています。加えて、キャリアの多様化が進み、労働者自身が給与の高い企業を見つけて転職ができるようになってきたため、「横並び一律の賞与支給」という考え方に意味がなくなってきました。企業によっては、新卒でも優秀な人材であれば年収1,000万円を支給するなど、能力に応じた支給という考え方も浸透しています。

そのため、近年は横並びの支給ではなく、世間水準や春闘の妥結状況も参考にしながら、各企業が独自の判断で賞与の支給月数を決めるケースが増えているのです。つまり各社の賞与の支払いに対する考え方が、支給月数に強く反映されます。

年収を上げたいなら、ボーナスよりも月給を追うべし

ボーナスは、この「各社独自の判断」という部分がポイントです。本当に従業員を大切にしている会社であれば、決算賞与を設けて、儲かっていれば夏季と年末の賞与以外にも賞与を支給します。一方で賞与支給月数をほぼ一定水準にして、毎年大きな変動がないようにしている企業もあります。変動がないようにしている企業は、前回ご紹介したように、そもそもの人件費総額が決まっている企業です。どんなに売り上げと利益が上がっても、人件費を抑えている限り支給月数は上がりません。

また、企業によっては平均月給を低くしたうえで、賞与を人件費の調整弁として機能させている場合もあります。業績が悪くなれば支給月数を少なくし、業績が上がれば支給月数を多くするように調整するのです。

そのため、年功序列の思想が崩れつつある現在の日本で「最も労働者が得をする」のが、年収水準が高くて賞与支給月数が一見少ない企業です。例えば賞与支給月数が4か月の企業でも、月給が高ければその分、年収が高くなります。また、企業にとって月給を下げることは、場合によっては労働条件の変更となり、なかなか難しいものです。ニュースや企業情報などで「ボーナスが7〜8ヵ月分も支給される」という情報を耳にすると、すごいなと思いがちですが、必ずしも年収が高いとは限りません。業績が悪化すると、ボーナスを調整弁として使用する企業である可能性も高いのです。

つまり、年収を上げたいのであれば、間違いなく確実に高水準の月給が支給される企業を選ぶべきでしょう。

企業の経営者にとって、「なるべく安いコストで労働力を調達して高い成果を上げる」という考え方はある意味当然と言えます。そのため、一見ボーナスの額を高くしているように見せて、実は労働力をディスカウントしている場合があります。つまり、世間水準で見ると同じ仕事でも、実はもっと高い年収で働けるという例がたくさんあるのです。

給与や賞与が支給される仕組みをよく理解すれば、本来のあなた自身の価値が見えてきます。ひょっとすると、あなたの価値は会社によってディスカウントされているかもしれません。
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