4月になり新入社員が入社する季節になりました。新入社員と接していると、何にも染まっていなかった社会人1年目の記憶がよみがえってきます。もし、あの頃に戻れるなら、あなたは自分にどんなことを言い聞かせたいでしょうか。私がもし、何か一つ新入社員の自分に教えるとしたら、それは「給料の上げ方」です。給料の上げ方をきちんと知っていれば、「正しい仕事選び」ができたと思います。実は多くの方々が、給料はどのように決まるのかご存じないのではないでしょうか。そこで今回は、給料の仕組みについて解説します。
人事が語る給料のウラ側:給料を上げるなら○○する【52】

あなたの給料は○○と○○で決まる

会社員にとって、毎月安定的に入る月給は生命線であり、モチベーションの源泉でもあります。なるべくなら多くの給料を手にしたいと願うのは、会社員の最も重要な願いでしょう。その給料を上げるためには、一体どうすればよいのでしょうか。そもそも、あなたは自分の給料がどのように決まっているかご存知ですか?

実は給料の決まり方には、重要で明確な根拠があります。そして、給料が決まる要因のほとんどが、あなたの努力と全く無関係なのです。

厚労省の「平成30年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、日本の男性の平均月額賃金は、大企業が38.7万円、中企業が32.1万円、小企業が29.2万円でした。給料は、企業規模が大きいほど高くなることがわかります。また、業界別でも大きな違いがあります。パーソル社の転職サイト「doda」によれば、もっとも平均年収が高いのはメーカーで453万円でした。ちなみに2位は金融、3位は総合商社、4位はIT通信です。

もう一つ、給料が決まる要因が「会社の配分方針」です。当然ながら給料には原資があります。原資は、企業ごとに上限が明確に決められています。例えば、大手グループの子会社や株主配当が多い企業であれば、親会社や株主への配当額が優先して決められ、人件費はなるべく抑制される場合が多いでしょう。また、常にモノやサービスを売り続けなければならないフロー型の事業を営む企業では、万が一に備えて、一定程度の予備費をプールします。そのため、人件費は常に一定程度に抑えられるように設計されています。

つまりあなたの給料は、企業規模、業界、会社の分配方針で8割~9割決まると言っても過言ではないでしょう。つまり、もしあなたが生産性の低い業界や企業にいて、特に人件費の分配方針が厳しい場合、給料を上げるには「転職すること」が最も有効な手段となるのです。

転職時の給料は○○で決まる

採用担当者であれば、誰もが「なるべく優秀な人材を採用したい」と考えるでしょう。一方で「なるべく採用コストを抑えたい」というのが本音です。そもそも年間の総額人件費は予め決まっていますし、採用費も予算をオーバーするわけにはいきません。上場企業であれば、なおさらその制限は厳しく、期中に予算を追加してまで採用することは、よほどのことがない限りはあり得ないことです。ですので、なるべく優秀な人材を、なるべくコストを抑えて手にするのが採用担当の使命とも言えます。

また、高い年収で採用した後に、もしその人材が社内で活躍しなかったとすると、採用担当者に責任が及ぶ場合もあります。そのため、特に日本企業の中途採用の場合、なるべく「同水準の社員と同等の年収水準」になるよう、採用時の年収を調整します。そして、採用時の年収は、前職の年収を基準にします。もし優秀な人材で前職の年収が高ければ、なるべく前職の年収に合わせます。ですが、面接時の評価が高くなければ、前職の年収を参考に、社内の同等水準の社員の年収に調整します。転職時の年収は、前職の年収と経歴でほぼ決まると言ってもよいでしょう。

また、前職の経歴が有名企業である場合や、面接時の評価が高い場合は、年収が高くなります。しかしその年収の上限も、日本企業であれば社内の同年代社員の水準に調整されます。つまり転職時の年収を上げたければ、現職の年収を上げつつ、同年代での平均年収をいまよりも高くすることが重要です。

ある程度スキルがある方であれば、外資系企業の方が年収水準は高くなります。外資系企業は純粋に仕事のスキル水準で年収を決めるからです。一方で注意しなければならないのが、年収が高い外資系企業の場合、年収に福利厚生費や研修費が含まれている可能性があることです。外資系企業では、本当に即戦力を求めている場合もあるため、日本企業のように入社後に十分な研修が受けられない可能性があります。実際にあるグローバル食品メーカーでは、「仕事に関する学びは自分で行うもの」という考え方に基づいて社内研修を廃止し、自己学習の費用込みで年収を高く設定しているそうです。

転職して年収を上げたければ、業界や会社選びは慎重に行うのがよいでしょう。

「給料を上げるために頑張る」は本当に正解か

企業としては、社員を「妥当性のある人件費」で「モチベーション高く働いてほしい」のが本音です。そのために評価制度をつくり、評価が高い社員にはより高い報酬で報いる仕組みになっています。

「給料を上げるために評価を上げたい。そのために頑張る」という社員は、企業にとってまさに理想的です。人事担当者は、思い通りの制度設計になっていると満足するでしょう。しかし社員視点で考えてみると、「給料を上げるために頑張る」という考え方が、必ずしも報われるとは限らないのです。

ここまでご説明したように、あなたの給料は8~9割、あなたの会社が所属する業界と、その企業の人件費配分方針で決まります。逆に言えば、あなたの頑張りが給料アップにつながるのは1~2割ぐらいしかないのが現実です。例えば、大企業であれば前年度評価に応じて定期昇給がありますが、一般社員であれば、どんなに頑張っても月額1~2万円程度しか給料が上がりません。年間で100万円以上も給料が上がるのは、給料が高く、かつ積極的にインセンティブを支払っている企業くらいです。本当に給料を上げたければ、インセンティブが多くもらえる外資系企業の営業職や投資銀行、M&A系のコンサルティング会社で働くのがよいでしょう。

例えばあなたが日系メーカーの社員であれば、頑張って月に20時間程度残業すると6~10万円程度の月収アップになります。しかし給与水準の高い業界であれば、同じ20時間が倍以上の収入につながることがあります。また、もしあなたが副業で時給1万円の仕事をすると、20時間は20万円になります。最近では、趣味を活かして副業で時給1万円以上を稼いでいる方は多くいます。もしくは、単にメルカリで不用品を売るだけでも、それなりの収入になるでしょう。

このように、頑張って会社で働いても、そもそも給与水準が低い業界では給料が思ったように上がらないのです。また、多くの企業では年収のピークを40代前半~後半に設定しています。これは子育て世代の社員が、子供を高校や大学に入学させるタイミングであるため、教育費が多く発生する年齢に合わせて年収水準を最大にしているからです。つまり、多くの企業では年収のピークが40~50代であるため、若い世代がどんなに頑張っても、思ったように給料が上がらないのは当然のことなのです。

人事担当者としては、なるべくこうした給料水準に関する事実を社員に知らせず、社員自身の評価を上げるために頑張って働いてほしいと考えていますが、もしあなたが本当に給料を上げたければ、「給与水準の高い転職する」か「副業する」かの選択肢になります。

あなたの給料は、多くの場合あなたの能力だけでは決まりません。あなたの所属する業界と会社が給料を決めています。だとしたら、あなたは給料を上げるためにどうしますか? ぜひ考えてみてはどうでしょうか。
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