障がい者雇用で専門的な支援やアドバイスがほしいときに活用したいのが、「ジョブコーチ制度」です。ジョブコーチは、障がい者が職場で働きやすい環境を整えるために障がい者と企業を支援する、障がい者雇用に携わる専門家や専門的役割を指します。ジョブコーチを活用することのメリットや、どのように活用できるのかについて見ていきます。
障がい者雇用をサポートしてくれる「ジョブコーチ」の役割と活用方法

「ジョブコーチ」を活用することのメリットとは?

「ジョブコーチ」とは、障がい者が職場で働きやすい環境を整えるために障がい者と企業を支援する、障がい者雇用に携わる専門家や専門的役割を指します。1986年に米国で「リハビリテーション法」の改正により「Supported Employment(援助付き雇用)」として制度化し、その後、日本に紹介されました。

米国における職業リハビリテーションは、身体障がい者を対象として発展してきたため、職業相談・職業評価・職業訓練など、「就職前の準備」にポイントがおかれてきました。しかし、知的障がい者や精神障がい者の就労の際、この方法では成果が見られないこともありました。そのため、実際の職場において、仕事の訓練や人間関係の調整、休憩の取り方・過ごし方など、就職して働くために必要な環境整備を整えたり、サポートしたりする役割をジョブコーチが担ってきました。

一方、日本では、厚生労働省がジョブコーチによる雇用後の支援を試験的に実施し、ジョブコーチの考え方と方法論を取り入れてきました。ジョブコーチを活用することのメリットは、障がい当事者と雇用する企業の両方にあります。

障がい当事者にとってのメリットとしては、ジョブコーチが企業や職場に出向き、障がい特性を踏まえた直接的で専門的な支援を行なうことにより、障がい者の職場適応・定着をはかる環境や体制作りができることがあげられます。

雇用する企業にとっては、社員に向けて、障がい理解促進のサポートをしてもらったり、一緒に働く職場の上司や同僚がどのように配慮を示すことができるかや、障がい特性に応じた仕事の指示の出し方について、アドバイスをもらったりすることができます。

もともと、ジョブコーチは、外部の支援機関から一時的に企業をサポートする場合が多いものでした。しかし最近では、企業内でジョブコーチを担う人も増えてきました。

●ジョブコーチの種類

「ジョブコーチ」とは、次の3種類に区分されています。

(1)配置型ジョブコーチ
地域障害者職業センターに配置されている。直接的に支援を行ったり、間接的に「訪問型ジョブコーチ」や「企業在籍型ジョブコーチ」と連携して必要なアドバイスを行ったりすることもある。

(2)訪問型ジョブコーチ
障がい者の就労支援を行う社会福祉法人といった組織に所属するジョブコーチ。下記のような人が支援を行なう。
・障がい者雇用の促進に係る事業といった、障がい者の就労支援を行う法人などに雇用されている人
・医療機関に所属しており、精神障がい者などの就労支援に係る業務を行っている人

(3)企業在籍型ジョブコーチ
サポートする障がい者と同じ企業に所属するジョブコーチ。「専任ジョブコーチ」として活動する人もいるが、管理的な業務と兼務する場合もある。

このほかにも、地方自治体が独自に開催している研修を受講して「就労支援に携わるジョブコーチ」として活動している人もいます。

例えば、東京都では、「東京ジョブコーチ職場定着支援事業」の中にジョブコーチ制度が設けられており、東京しごと財団が認定した職場適応援助者が活動しています。障がい者に対しては、就職して、新しい職場で円滑に働き続けることを可能にする目的があります。一方、障がい者を雇用する企業に対しては、スムーズに障がい者を受けいれられるように、都独自の「東京ジョブコーチ」を派遣して障がい者の作業適応支援や職場内の環境調整などを目的にしています。企業と障がい者社員の双方に対して、職場定着に向けた支援をしています。

ジョブコーチは、所属先によって担う業務が若干変わることはあるものの、基本的な活動は、障がい者が職場に適応できるように、職場に出向いて本人を支援することや、職場の環境を整えることが含まれます。

例えば、障がい者本人に対する支援としては、担当する業務を遂行できるような仕組み作りのために、スケジュール調整やマニュアル作成を行います。また、職場内での人間関係を円滑にするために、担当者を決めて「報告・連絡・相談」といったコミュニケーションの練習を行います。

職場で障がい者社員と一緒に働く従業員に対しては、障がい特性の理解を深める研修を行ったり、障がいに配慮した雇用管理や職務内容、配置などについての相談に応じたりします。

「ジョブコーチ」の活用方法

●ジョブコーチ活用を考えた際の問い合わせ先と支援の期間

企業の中でジョブコーチを活用したい場合には、「障害者職業センター」へ問い合わせをして、「配置型ジョブコーチ」を依頼することができます。障害者職業センターとは、各都道府県に1ヵ所は設置されている機関で、無料で活用することができます。

また、先に紹介した東京都が行っている「東京ジョブコーチ職場定着支援事業」のジョブコーチ制度のような「地域のジョブコーチ」がある場合には、こちらを活用することもできます。

ジョブコーチ支援は、支援を継続するものではなく、だんだんと支援回数を減らしてフェードアウトしていき、最終的には、障がい者が、企業に無理のない範囲で上司や同僚による職場内のナチュラルサポートを受けながら安定して働くことを目指すものです。

一般的にジョブコーチが入る標準的な支援期間は2~4ヵ月となっています。また、訪問型ジョブコーチが支援に入る場合には、職場適応援助促進助成金の関係上、最長1年8ヵ月まで(精神障がい者は2年8ヵ月まで)とされています。内訳は、職場適応のための課題解決をはかり支援体制を整える「集中支援期」と、企業でナチュラルサポートができる体制を整える「移行支援期」が、あわせて最長8ヵ月。そして、フォローアップ期が最長1年として設定されています。

精神障がい者の場合には、必要に応じて通常のフォローアップ期間の後に状況の確認などを行うため、追加のフォローアップ期間を設定できることになっています。職場定着が難しい場合でも状況に応じて、ある程度は調整できます。

●ジョブコーチ支援を活用するタイミングと目的

ジョブコーチ支援を考える際、タイミング別に下記のような目的に合わせて活用することができます。

【雇用する前】
・雇用前に障がい者に適した職務内容等を見極めるとき
・職場環境に慣れるために、雇用前から雇用後にかけて長期的な支援が必要なとき
※障害者委託訓練(障害者の態様に応じた多様な委託訓練)との併用はできません。

【雇用されるとき】
・福祉機関や学校等で職場実習を実施し雇用が決まったが、雇用後においてもしばらくは継続した支援が必要なとき
・雇用は決まったが、企業に障がい者雇用の経験がなく、不安があるため支援が必要なとき
※トライアル雇用との併用が可能です。

【雇用したあと】
・支援機関がフォローアップを行う中で、更に支援が必要なとき
・今まで就業支援を受けたことがないが、障がい者や企業等から支援が必要と判断されたとき

●ジョブコーチ支援を受ける際の注意点

障がい者の採用を考えるときに心配な点があれば、早めに職業センターへコンタクトをとり、ジョブコーチの導入を考えるとよいでしょう。ある程度、仕事のスタイルができあがってしまうと、その後に修正をかけるのは、はじめに教えるよりも大変なこともあります。さらに、障がい当事者と企業の担当者の双方にとっても負担が大きくなるからです。

また、ジョブコーチは障がい者の職業訓練の専門家ではありますが、それぞれの企業の状況や仕事内容を把握しきれていないところもあります。企業側が、障がい者雇用としてどのようなことを障がい者社員に期待しているのかといった点は、事前にしっかりコミュニケーションをはかり、確認するようにしておいてください。

障がい者本人が業務を行えるようになるための体制作りができたら、職場内でのナチュラルサポートに移行できるように、担当者やサポート体制を整えておくことも大切です。
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