緊急事態宣言は解除されたが、新型コロナウイルスへの対応は日常生活のあらゆる場面において続けなければならない。ワクチンや治療薬が開発・実用化されるまでは根本的な解決に至らず“新型コロナとの共存”を余儀なくされるからだ。そこで国は、感染対策を踏まえた「ニューノーマル(新しい生活様式)」への転換を提唱、その実践例を示した。「ニューノーマル」とはどのようなもので、企業はどう対応すればよいのか。具体的な内容や実践例のポイント、対策事例について紹介する。
「ニューノーマル(新しい生活様式)」とは? 具体的な内容と企業事例を紹介

「ニューノーマル」とは何か?

「ニューノーマル」とは、飛沫感染や接触感染、さらには近距離の会話などへの対策をこれまで以上に日常生活に取り入れた生活様式のことである。去る5月1日、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が提言を発表し、ウイルス対応の長丁場に備え、感染拡大を予防する「ニューノーマル」の普及と定着が求められると指摘した。

専門家の提言がベース
専門家会議はそれ以前の提言においても、感染拡大を食い止めるために徹底した「行動変容」の重要性を訴えていた。手洗いや人と人との距離の確保といった基本的な感染対策の実施、感染拡大リスクを高める「3つの密」(密閉・密集・密接)の徹底回避、「人との接触を8割減らす10のポイント」などの提案を重ねていた。

新型コロナウイルス感染症とともに生きていく社会を前提とした場合、こうした対策を日常生活により密着・持続させなければならない。そのため、同会議では続く5月4日にも「ニューノーマル」への移行に関する提言を発表。人々が「ニューノーマル」を具体的にイメージしやすいよう、その実践例をまとめ、提示した。

政府が示す「ニューノーマル」の実践例とは?

自らを感染から守るだけでなく、自らが周囲に感染を拡大させないために、従来の生活では考慮しなかったような場面においても「ニューノーマル」の実践が求められている。専門家会議が示した具体的な実践例は下記の通りだ。

(1)一人ひとりの基本的感染対策
<感染防止の3つの基本――【1】身体的距離の確保、【2】マスクの着用、【3】手洗い>
・人との間隔はできるだけ2m(最低1m)空ける
・遊びに行くなら屋内より屋外を選ぶ
・会話をする際は可能な限り真正面を避ける
・外出時、屋内にいるときや会話をするときは症状がなくてもマスクを着用
・家に帰ったらまず手や顔を洗う、できるだけすぐに着替える、シャワーを浴びる
・手洗いは30秒程度かけて水と石けんで丁寧に洗う(手指消毒薬の使用も可)
 ※高齢者や持病のあるような重症化リスクの高い人と会う際には体調管理をより厳重に

<移動に関する感染対策>
・感染が流行している地域からの移動、感染が流行している地域への移動は控える
・帰省や旅行は控えめに 出張はやむを得ない場合に
・発症したときのため誰とどこで会ったかをメモにする
・地域の感染状況に注意する

(2)日常生活を営む上での基本的生活様式
・まめに手洗い、手指消毒
・せきエチケットの徹底
・こまめに換気
・身体的距離の確保
・「3つの密」(密集 密接 密閉)の回避
・毎朝の体温測定、健康チェック
・発熱またはかぜの症状がある場合は無理せず自宅で療養

(3)日常生活の各場面別の生活様式
<買い物>
・通販も利用
・1人または少人数で空いた時間に
・電子決済の利用
・計画を立てて素早く済ます
・サンプルなど展示品への接触は控えめに
・レジに並ぶときは前後にスペース

<公共交通機関の利用>
・会話は控えめに
・混んでいる時間帯は避けて
・徒歩や自転車利用も併用する

<食事>
・持ち帰りや出前、デリバリーも
・屋外空間で気持ちよく 
・大皿は避けて、料理は個々に
・対面ではなく横並びで座ろう
・料理に集中、おしゃべりは控えめに
・お酌、グラスやお猪口の回し飲みは避けて

<娯楽、スポーツ等>
・公園は空いた時間、場所を選ぶ
・筋トレやヨガは自宅で動画を活用
・ジョギングは少人数で
・すれ違うときは距離をとるマナー
・予約制を利用してゆったりと
・狭い部屋での長居は無用
・歌や応援は、十分な距離かオンライン

<冠婚葬祭などの親族行事>
・多人数での会食は避けて
・発熱やかぜの症状がある場合は参加しない

(4)働き方の新しいスタイル
・テレワークやローテーション勤務
・時差通勤でゆったりと
・オフィスは広々と
・会議はオンライン
・名刺交換はオンライン
・対面での打ち合わせは換気とマスク

「ニューノーマル」の実践企業事例

政府は、職場においても事業者と労働者が一体となって、「ニューノーマル」の実践・定着に取り組むよう求めている。経団連も5月15日、厚生労働省からの依頼を受けて、参加団体・企業に従業員への周知徹底を促す通知を出した。企業の現場では、実際にどのような取り組みが行われているのだろうか。実践企業例を2つ紹介したい。

(1)田辺三菱製薬の「働き方カエル宣言」
田辺三菱製薬株式会社は6月22日、ニューノーマルに則した新しい働き方を実現するために「働き方カエル宣言」を発表した。同社では、緊急事態宣言の発出に伴う在宅勤務下で、毎週金曜に「Friday Survey」と呼ばれる従業員意識調査を計7回実施。調査の結果、新しい働き方に対するさまざまな意見や改善に向けた提案が寄せられたという。その結果を受け、特に要望の多い7つの項目に取り組む「働き方カエル宣言」を策定した。

【1】感染予防策の徹底
【2】会議の見直し
【3】脱ハンコ
【4】ペーパーワークの大削減
【5】拠点のサテライトオフィス化
【6】テレワーク環境の整備
【7】Friday Surveyの継続

同社はニューノーマルを踏まえ、より働きやすい職場環境づくりを目指すとしている。

(2)面白法人カヤックの「NO密オフィス」
「ニューノーマル」を踏まえながら、オフィスで仲間と一緒に楽しく働けないかという思いを形にしたのが面白法人カヤックだ。神奈川県鎌倉市内にある本社オフィスを改装し、3密回避を考えた「NO密オフィス」を実現した。

デスクのレイアウトは、横並びから個別に離れて座れるように変更。会議室では人と人とが向かい合わず、鏡を設置した壁を向いて従業員がオンライン会議を行っている。また、階段は人が行き交わないように登り専用と下り専用に分けるなどの工夫を取り入れ、社員の不安軽減に努めた。緊急事態宣言下で9割がリモートワークだった社員も、改装後の6月1日から順次出社している。
従業員を新型コロナウイルスから守るためには、企業の感染防止策の実行が欠かせない。社内で対策を講じるうえで一つの指針となるのが、「ニューノーマル」だ。Withコロナ/Afterコロナに適応する職場環境づくりに向けて、社内で今一度「ニューノーマル」の実践例をチェックしてみてはいかがだろうか。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!