組織開発ブームの変遷を探る

組織開発は、人事担当者同士でも認識が異なりながら、なんとなく「やっているとカッコいい」と思われる不思議な概念です。あるときから、部署の名前に「組織開発部」とつける企業が増え、最近では「組織・人材開発部」や「組織開発室」といった名称も主流になっています。また、「人材開発は古い、これからは組織開発の時代だ!」と豪語する方にも何回かお会いしたことがあります。

最近はやや落ち着いてきましたが、「組織開発は最新」、「組織開発はカッコいい」、「組織開発は良いイメージ」という雰囲気が漂っていたのは間違いないでしょう。そのため部署名に「組織開発」とつけることで、「うちは組織開発をやっています!」というアピールになっていたのです。

そんな組織開発は、いつどこから来たのでしょうか。中原教授の『組織開発の探求』の巻末には、その歴史をまとめた年表が付録としてついています。組織開発は、1950年前後から誕生し、1957〜58年頃にOrganization Development(OD:組織開発)という言葉が生まれたようです。日本では1960年代にQCサークルが企業に取り入れられ、徐々に浸透していきました。

その後、1970年代前半〜1980年頃に最初の組織開発ブームが勃興。小集団活動として定着していきましたが、ブームにのって組織開発を悪用した自己啓発セミナーが生まれたことにより、日本では悪いイメージが広まりました。そしてバブル崩壊とともに、日本での第一次組織開発ブームは去っていきました。

次にブームが起こったのは2000年代でした。日本では90年代後半に一橋大学で社会人向けビジネススクールが立ち上がり、グロービス社やコーチングのコーチエイ社が創業され、人材開発ブームが起こっていました。

その一方、個人の能力開発だけでは、企業成長への寄与度は限定的であるという認識が人事担当者の中で広まり、組織全体へアプローチする組織開発が再び注目され始めたのです。2005年には日本における「ファシリテーター」の先駆けであるピープル・フォーカス・コンサルティング(PFC)社から『組織開発ハンドブック』が出版され、人事でも徐々に組織開発に取り組む企業が生まれていきました。その後2010年にはOD Network Japanが設立され、今ではすっかり組織開発は日本の人事領域で主役級の存在になったのです。

私の実感としても、2010年前後から組織開発への注目が始まったと感じています。日本で再び組織開発が広まった背景には、2001年のKDDI誕生や、2010年代の「JAL破綻からの再生」といった稲盛和夫氏の理念経営への取り組み、ダイバーシティや働き方改革への取り組みがあるのではないでしょうか。どこか日本企業の閉塞感を打破したい、元気を失った大企業の組織を活性化したい、そんな思いがあるように感じます。

組織開発3.0:科学的な組織活性化へ

2010年代に定着し始めた組織開発は、今ではブームではなく、人事業務の一環として取り組まれています。しかし、継続的に従来のような「対話型組織開発」に取り組んでいる企業は多くはないように感じます。

対話型組織開発は、関係者を集めて会社の未来について話す方法が一般的です。それなりに時間も工数もとられるうえに、ディスカッションすれば、なんとなく会社が良くなったような気がする方法です。組織開発に率先して取り組んできた企業からは「もう話すネタがない」、「ややマンネリ化している」という声も聞こえてきます。こうしたことから、組織開発は、人事の現場では若干下火になりつつあると感じています。

そうした中で、最近はエンゲージメントやモチベーションなど、新たな視点から組織の状態にアプローチする方法が誕生しています。HRテックや学術研究の進歩も相まって、より科学的かつ数値的に、組織の状態を改善する機運が高まっているのです。そのため、今後はこれまでの「対話型組織開発」から、サーベイやデータを活用した「診断型組織開発」へ主流が移っていくと考えられます。これから3回目の組織開発ブーム、つまり組織開発3.0が始まる予感がします。

しかし、一度ブームが始まると、ブーム以外のことが忘れられてしまうのが日本の人事のよくないところです。既に人事界隈では、データを活用した分析的な組織開発や人材開発が主流になってきており、対話の良さが忘れられているように感じます。

とはいえ、人事が相手にしているのは常に人です。これまでなんとなく業務を進めてきた日本企業の人事部に科学的な手法はもちろん必要ですが、データ一辺倒ではなく、人の感情や機微に配慮することも必要でしょう。

今後の日本企業の組織開発は、データを活用した手法と、人と人との対話を通じて未来の会社の姿をつくっていく手法とを、組み合わせて行うべきではないでしょうか。
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