企業における障がい者雇用が進みつつあります。しかし、障がい者を雇用したものの、どのように組織の中で活躍してもらえばよいかと悩んでいる企業は少なくありません。そこで、法定雇用率を達成したことで満足するのではなく、さらに一歩進んで、雇用する障がい者をどのようにすれば戦力化できるのかについて、今回から7回連続で考えていきたいと思います。1回目として、「なぜ、障がい者雇用を組織として取り組む必要があるのか」について考えていきます。
第1回:企業の障がい者雇用は組織として対応すべき

障がい者雇用の現状と企業が組織的に取り組むべき理由

日本の障がい者雇用は、「障害者雇用促進法」によって進められてきました。そのため障がい者雇用を進めていくには、同法律を知ることが大切になってきます。

もともと日本の障がい者雇用は、傷痍軍人の雇用確保のために身体障がい者の雇用からはじまりました。その後、知的、精神と障がい種別の幅が広がり、障がい者の法定雇用率は2.2%へと上がってきました。これにともない、企業の障害者雇用率も増えており、2019年の障がい者雇用の実雇用率を見ると、2.11%となっています。

この「障害者雇用促進法」とは、どのような法律なのかを、今一度確認してみましょう。「障がい者の法定雇用率を定めている法律」という答えはもちろん正しいのですが、この法律の目的についても、合わせて知っておいていただきたいと思います。

この法律の目的は、障がい者の職業の安定をはかることであり、障がいの有無にかかわらずそれぞれの希望や能力に応じて、各地域で自立した生活を送ることができる「共生社会の実現」を目指すことです。そして、これらを実現するために、障がい者の雇用義務などにもとづく雇用の促進のための方策や、職業リハビリテーションなどが定められています。ただ単に障がい者を雇用すればよいというものではなく、個々の能力に応じた共生社会の実現を目指すことが目的なのです。

企業は当然ながら、存続するために利益をあげることが必要です。しかし、利益を得るために会社があるのではありません。企業は、顧客やマーケットから支持されることによって、利益をあげ、社会的責任を果たして社会と共存することで存続し、発展していくものだからです。

しかし、障がい者雇用に対しては「ちょっと話が違うのではないか」、「法律で定められているからおこなうのであって、企業にとってのメリットなどないのではないか」といわれるかもしれません。

確かに障がい者雇用を進める企業に、なぜ、おこなうのかを聞いてみると、「法律で障がい者雇用が定められているから」、「行政から指導を受けたくないから」、「障害者雇用納付金を払いたくないから」、「他社もとりくんでいるから」というような、ネガティブな意見が多くあがることは事実です。

そんな中でも、実際に障がい者雇用に取り組んだ企業から、ポジティブな意見が出てくることは、珍しいことではありません。障がい者雇用未達のとある企業に関わらせていただいたときに、人事部長から、次のようなお話をいただきました。これは、多くの企業でも体感していただけるはずです。

「障がい者雇用が進んだことはもちろんよかったが、その他にも障がい者が一生懸命仕事に取り組んでいる様子を目にすることで、社内の働くことに対する意識に変化があったことも、よかったと感じる。また、各拠点では、定期的に新卒社員が入社してくる状況ではないため、比較的(中堅に近い)若手の社員が、障がい者のマネジメントを担当することにより、社員の成長にもつながったように思う。障がい者雇用をおこなったことで、社内のコミュニケーションの活性化にもつながり、事業所にとって得るものがあった。」

障がい者雇用ですから、もちろん障がい者を雇い入れることは大切です。しかし、障がい者雇用という枠にとらわれず、組織全体のことを考える、例えば、既存社員が今より活躍できる体制づくりや、社員のマネジメント能力の向上、会社の活性化、組織風土の変革などのひとつの機会として捉えることによって、違った取り組み方ができるのではないかと感じています。

雇用している企業で見られる課題とその解決策

「そうはいっても、そんなに簡単にはいかない。課題がたくさんある」とおっしゃる担当者は少なくありません。課題としてあげられるのは、次のようなことです。

「障がい者雇用を進めていくにあたり、社内の理解が得られない」
「そもそも障がい者におこなってもらう仕事がない」
「欲しい人材が採用できない」
「障がいにどこまで配慮すればよいのかわからない」
「精神障がいの方の場合、どのように接すればよいのかがわからない」
「障がい者雇用でのキャリアアップはどうしたらよいのか」

もちろん、今まで障がい者雇用をおこなったことのない部署や担当者に依頼したり、協力要請することは、忙しい中にさらに業務を増やすのかと嫌な顔をされたり、現状の業務スタイルの中では、障がい者がおこなえる仕事はないといわれることもあるでしょう。

障がい者雇用を進めることが簡単なことだとは思いませんが、それでも私は多くの企業を見てきた経験から、障がい者雇用が組織を変革させたり、今までの仕事のやり方・方法を見直して再構築したり、組織を活性化したりするためのよい機会になると、実感しています。

しかし、このような理想を実現するためには、「法定雇用率のために障がい者を採用すればいい」という考えでは程遠いものがあります。社内の受け入れ態勢を整えて、必要な業務を切り出し(時には業務の方法を大幅に変更することも含めて)、そして自社に合った障がい者を採用することが必要になってくるのです。

雇用率が足りていないと、急いで障がい者を採用して問題解決をはかろうとする企業の方もいますが、社内の受け入れ態勢を整えておかないと失敗する場合が多くあります。また、一度大変な思いをすると、社内の協力も得られにくくなります。障がい者雇用は、必要なステップを踏んでおこなうことが大切なのです。

私は、障がい者雇用を効果的に進めていくためには、次のようなステップ(※)が大切だと考えています。

(1)社内の意思決定
(2)社内に適した障がい者雇用の理解推進
(3)業務の抽出と切り出し
(4)採用活動と入社時の受け入れ態勢づくり
(5)職場定着

このようなことができてくると、障がい者の戦力化や人事評価・マネジメントなどを考えていくことが現実的になってきます。

※:このステップの詳細については、著書の中で紹介していますので、関心があればこちらを読んでみていただければと思います。
『はじめての企業でもできる障害者雇用を成功させるための5つのステップ』

第1目となる今回は、「企業の障がい者雇用は、なぜ組織として対応する必要があるのか」についてお伝えしてきました。引き続き、今回を含め7回にわたり、障がい者を雇用し戦力化するために知っておきたい考え方や対応方法を扱っていきます。

第2回では、「社内の障がい者雇用に対する理解を引き出す方法」についてお伝えします。障がい者雇用は、障がい者本人の努力も必要ですが、受け入れる職場の環境も大切です。それには一緒に働く社員の協力とともに、社内全体の障がい者雇用に対する理解が必要となってきます。どのようにすれば社内全体で理解を深めることができるのか説明していきます。

第3回は、「障がい者が従事する仕事内容はどのようにしてつくり出せばよいか」という点を扱います。雇用する障がい者におこなってもらう仕事が社内で見つからないと悩んでいる企業は少なくありません。現状での業務をそのまま障がい者の業務として切り出すことは難しいかもしれませんが、少し考え方を柔軟にすると、業務全体を見直したり、手順を組み替えたりすることができるものです。社内の業務を切り出すために役立つ視点や考え方を紹介していきます。

第4回は、「障がい者を採用するときに面接で確認しておきたいポイント」についてです。面接時に何を、どこまで聞いてよいものか悩んでしまう採用担当者は多くいます。しかし、企業は合理的配慮を示す必要もあるので、面接の際に必要な情報を聞いておくのは大切なことです。どのような点を把握しておくとよいのかについて見ていきます。

第5回は、「企業と障がい者のミスマッチをなくすために必要なこと」をお伝えします。企業が配慮しているつもりでも、雇用される障がい者にそれが伝わっていなかったり、その逆に、働く障がい者側から会社に配慮してほしいことを伝えているにもかかわらず配慮されていないと感じてしまったりということが、実はかなりよく起こっています。このようなボタンの掛け違いをなくすために知っておくべきポイントを解説していきます。

第6回は、「精神障がい者と一緒に働く人が知っておきたいポイント」を扱います。近年、障がい者雇用の中で、精神障がい者の比率が増えていますが、受け入れる職場の中で、どのように接したらよいのかと不安に感じ、戸惑っている状況も見られます。精神障がい者が働いている職場に対して、人事としてはどのようなサポートができるのかを考えていきます。

最終回(第7回)は、「障がい者に戦力となってもらうために考えておきたいこと」についてお話します。障がい者の中には、もっと会社で働きたい、今よりもステップアップしたいと考えている人も少なくありません。そのような方々のために、どのようにしたらステップアップの場をつくることができるのかについて説明していきます。

どうか最後までお付き合いください。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!