イノベーションを起こす組織にはどんな人材が必要か?(第1回)

DXでイノベーションをもたらす人と組織【連載】

デジタルトランスフォーメーション(DX)が、人事戦略の重要ワードとなっている。経産省が、「DXを推進しないと、2025年に最大で12兆円の経済損失を出す」と警鐘を鳴らしたことで、DXに積極的でなかった企業も重い腰を上げざるを得なくなったのだ。しかし、そもそもDXが何なのか分からなかったり、分かっていたとしても推進できる人材がいなかったりと、いざDXに取り組もうにも進められないのが実状だろう。本連載では、人材育成コンサルティングを通して、DXとイノベーション創出を見届けてきた筆者が、DXを推進する人材とはどんな人材でどこから探してくれば良いのか、有能な人材が手腕を発揮し、イノベーションを起こす組織とはどういったものか、などDXを成功させるポイントを数回に分けて紹介しよう。
DXとは、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。この考えを基に、IDC Japanが2017年に、企業がクラウドやビッグデータ、モバイルなどのITプラットフォームを利用して「新しい製品やサービス、ビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義づけている。

さらに分かりやすくすると、「IT+イノベーション」が「社会的変革」を創出する、と言い換えられるだろう。DXはITに目が行きがちだが、イノベーションこそ重要なキーワードなのだ。

イノベーションとは、直訳すると「技術革新」となり、ビジネスにおいては「新たな何かを創り出す」ことを指す。海外では、iPhoneを世に送り出したスティーブ・ジョブズのような、天才経営者のイメージが強いのだが、日本企業ではトヨタの「トヨタ生産方式」、ソニーの「ウォークマン」といった企業や組織での事例が多い。

今回対象としたいのは、企業内でイノベーションを推進する人材(イノベーション人材やイノベーターとも呼ばれるが、以降はイノベーティブ人材で表記する)である。

イノベーションを起こすために最も重要なのは、「これまでのやり方にとらわれない想像力と行動力」であるが、それだけでは不足だと誰もが思うだろう。

実際に求められるのは、知識とアイディアが豊富で視野が広く、得意分野にとらわれない、革新的な感性の持ち主。しかも、ただのアイディアマンということではなく、そのアイディアや技術を、潜在ニーズを踏まえ、ビジネスに結び付け、アクションできる人だ。

つまり、イノベーティブ人材に必要な能力を絞ることは、非常に難しいのだ。明確な定義があるわけではなく、結果的にイノベーションを起こした人を、イノベーティブ人材と呼び、その共通点を整理したに過ぎない。

「イノベーショナブルレベル」でイノベーションのステップを把握しよう

人材開発コンサルタントとして、イノベーティブ人材について企業と意識合わせをする際に用いている独自の概念がある。それは、アイディアの扱い方で、「イノベーショナブルレベル」をわける方法だ。

イノベーショナブル(=innovation-able)とは、私が使っている造語で、イノベーションを起こす可能性を意味する。下記が、イノベーショナブルレベルの具体的な内容となる。

●レベル0:たまにアイディアが出る人
●レベル1:アイディアがあふれる人
(アイディアマンと呼ばれる想像力が豊かな人)
●レベル2:アイディアを形に(実用化)できる人
(発明家と呼ばれる、行動力が高い人)
●レベル3:アイディアを商品化出来る人
(起業家と呼ばれる、突破力のある人)
●レベル4:アイディアをヒット商品にできる人
(ヒットメーカーと呼ばれる、概念力の優れた人)
●レベル5:アイディアで変革を起こせる人
(イノベーターと呼ばれる、変革力のある人)

例えば発明王エジソンで考えてみよう。実に1,300もの発明をしたエジソンだが、特に白熱電球ではGE社を設立するなど事業的にも成功しただけでなく、人々の生活を大きく変えるイノベーションを起こした。

まず、白熱電球実用化のアイディアをまとめ(レベル1)、実験を繰り返し実用化に成功し(レベル2)、出資者をつのり商品化(レベル3)、他社との競争の中を勝ち抜き(レベル4)、世の中の夜を昼のように生活できる改革に成功した(レベル5)。細かい話をすると発電・送電システムまで事業化したところは、競争に敗れてしまっているが、割愛させていただく。

ここからわかることは、イノベーショナブルレベルと私が呼んでいるものは、「イノベーションステップ」ともいえるということである。

個人の発明と違って、企業におけるイノベーティブ人材を定義するときは、まずどのステップでイノベーティブなスキルが必要なのかを、検討することが重要なのである。

通常は、これまでにない新たな商品やサービスを創ろうという話から始まるのであり、ニーズ発掘的なアイディアをまとめ企画書を作成するスキル(レベル1)が重要。

逆に、メーカーなどでは、研究が先行して、使い道が決まっていない素晴らしい素材が出来上がり、何に応用できるか、商品化を後から考えるという例もある。例えばどんな衝撃も吸収できる板が、研究部門でできあがり、どのような商品に応用できるかアイディアを募集されるなど、商品化(レベル3)にあたる部分だ。

イノベーティブ人材を、一言で表せないのは、このように企業や組織によって適用範囲が違うからである。

もし、DXを推進するうえで、イノベーションが必要という状況であるならば、せめてどのプロセスで、どのレベルが必要かを先に明らかにすることをお勧めする。

さて実際、今後ITやデジタル化の技術を活かして、DXを実現するには、イノベーショナブルレベルを踏まえたうえで、どのような人材が必要でどのように育てればいいのだろうか? 次回はこの疑問に答えるべくイノベーティブ人材育成のポイントについて取り上げたいと思う。
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著者プロフィール

富士 翔大郎

主にIT系企業の人材開発コンサルタントを担当。訪問販売からWebまで幅広い分野で営業職を経験。その後、デジタル技術の黎明期から変革期にSEを約10年経験。同時に人材育成にも携わり、現在に至る。法学部卒ながら教員免許を3種取得。

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