第10回 「健康経営」の持続に必要な「効果の見える化」

企業にはびこる名ばかり産業医

第1回目のコラムで、健康経営とは「従業員の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する」ことと述べました。その上で、「中小事業所×嘱託産業医」というかたちで、有効な健康経営・産業保健活動を行っていくときに大切になるのが、活動の「効果を明確にする」ことです。しかし、事業においては効果を明確にすることが当たり前であっても、健康経営・産業保健活動となると、それができている企業は多くはありません。

※本稿は、鈴木友紀夫『企業にはびこる名ばかり産業医』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
一般的なビジネス活動を戦略的に行っていこうというとき、どのような取り組みをするかといえば、「目標設定」をして「実践」し、一定期間の後に「効果測定・分析」を行って、改善点があれば見直し・再検討をして次なる「戦略立案」につなげる。そういう手順をとるのではないでしょうか。いわゆるPDCA(Plan―Do―Check―Action)サイクルを回すというものです。

けれども、多くの事業所のうち健康経営・産業保健活動において、そこまで戦略的に≠ナきている事業所は決して多くありません。どうしても法律で義務付けられている定期健康診断やストレスチェックを「ただやっているだけ」に留まりがちです。

私たちの知るなかでも、休職者数などの勤怠情報の管理者と、ストレスチェックの集団分析結果を管理している担当者が異なっていて、集団分析の結果を職場環境や働き方の改善にまったくつなげられていない、といった例も少なくありませんでした。

そして、せっかく産業医を選任しても効果がいまいちわからない、ストレスチェックを実施しても目に見える成果が感じられないとなると、結局「効果のわからないものに費用をかけられない」「法令に違反しない範囲で、最低限のことだけしていればいい」となって、活動が尻すぼみに縮小してしまう事業所もあります。

しかし、健康経営・産業保健活動である程度の成果が得られるようになるまでには、やはり一定の時間が必要です。一過性の取り組みではなく、活動を継続していくことが不可欠です。そして、そのためには従業員の健康増進、労働生産性の向上といった「目標」に対して、Check=「総合的な効果測定」をしっかり行い、それを改善や次の施策につなげていく必要があるのです。
ただ、通常のビジネス活動の売り上げや利益などに比べれば、産業保健は成果を客観的かつ具体的に評価するのがむずかしいのも事実です。今後、中小事業所が効果測定の指標として使いやすいツールの開発なども、検討されていく必要があります。

当社でも、事業所の産業保健活動の「総合的成果指標」を現在、まさに開発しているところです。人事労務担当者向けと従業員向けの、2種類のアンケートに回答してもらうことにより、定期的に産業保健活動の成果を見える化≠オ、それを課題解決のための施策に反映させていくことを目的にしています。

将来的には、この指標を用いて同業他社や同規模事業所との比較分析ができるようにし、事業所のタイプに応じて課題と最善の施策がわかるようなモデル構築をしたいと考えています。

さらに、もっと簡単に産業保健活動の効果を確認できる方法もあります。それは、経済産業省が行っている「健康経営優良法人認定制度」の認定申請書を参照してみることです。

健康経営優良法人認定制度とは、経済団体、医療保険者、自治体、医療関係団体などからなる「日本健康会議」の認定制度で、健保組合や自治体の進めている健康宣言に取り組んでいる法人を認定・顕彰するものです。本章の最初に述べた「健康経営銘柄」は上場企業を対象にしたものでしたが、こちらは上場企業に限らず、中小事業所も含めた認定制度として、2017年にスタートしています。

経済産業省のホームページには以下のような説明があります(一部抜粋)。

「健康経営優良法人認定制度とは、地域の健康課題に即した取組や日本健康会議が進める健康増進の取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度です。健康経営に取り組む優良な法人を『見える化』することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから『従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人』として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目的としています。
(中略)第2回目となる今回、『健康経営優良法人2018』として、「大規模法人部門」に541法人、「中小規模法人部門」に776法人が認定されました」

この健康経営優良法人認定制度の認定申請書は、経済産業省のホームページからもダウンロードできます。これに記入をしてみると、その事業所の産業保健の現状がある程度、見えてきますし、同時に国が目指している産業保健・健康経営の姿を垣間見ることもできます。

最初は「こんなにもやらなければいけないことが多いのか」と戸惑うかもしれませんが、よくよく見ていくと「当たり前のことを当たり前にやる」ということが書かれていることがわかるはずです。

具体的には「健康宣言の社内外への発信・経営者自身の健診受診」「健康づくり担当者の設置」「定期健診受診率(100%)」「受診勧奨の取組」「長時間労働者への対応に関する取組」「健康増進・過重労働防止に向けた具体的目標(計画)の設定」といった項目があり、すべてが必須というわけではありません。

健康経営・産業保健活動を進めている事業所は、最初は年に1回、この申請書をうめてみることをおすすめします。データの収集に部署をまたぐ必要がある場合などは、少々手間がかかるかもしれませんが、通常は1〜2時間もあれば記入ができると思います。慣れてきたら徐々に頻度を高め、半年に1回、四半期ごとに1回と期間を短くしていくと、より早いサイクルで産業保健のPDCAを回すことができます。

たとえば運動促進施策を実施して、運動習慣のある人が増えたのかどうかをチェックする。ノー残業デー施策を行って、平均労働時間数が減ったのか、あるいは従業員のストレスが減ったのかなどをチェックする、などを実践してみてください。こうした取り組みが、目標を立てて施策を実行し、効果を測定して検証するという「効果の上がる産業保健システム」の第一歩になります。

特にまだ健康経営を始めたばかりという事業所では、2年後、3年後を目処に、健康経営優良法人の認定取得を目標にして、施策を進めていくのも一案です。

健康経営優良法人の認定を受け、従業員の心身の健康を大事にする企業であると社内外にアピールしていくと、働く人の士気が高まって生産性が向上する、企業イメージが良くなり採用にもプラスになるなど、さまざまな相乗効果が期待できるはずです。
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著者プロフィール

株式会社エムステージ 執行取締役 鈴木 友紀夫

1966年生まれ、福島県出身。東京理科大学にて応用微生物学を専攻。
医師の人材サービス大手に所属後、医師と医療機関をつなぐ人材マッチングサービス事業を行う株式会社エムステージの立ち上げに参画、取締役に就任。現在は同社産業保健事業部にて、企業の産業医選任・産業保健支援サービスや産業医になりたい医師向けのサポートを行う。労働者の健康を守るため、そして医師の新たな働き方を提案するために奔走している。
著書『企業にはびこる名ばかり産業医』(幻冬舎)
医療経営2級、健康経営アドバイザー(初級)

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