前回、従業員の両親の年齢確認が重要であることに加えて、「従業員の出身地」についても調べる必要があることを述べた。今回は突然親が倒れ、そのまま実家で在宅介護になった場合、介護休暇以外の対策として有効な対策の1つ、「ふるさとテレワーク」について解説する。
第2回 ふるさとテレワークに立ちはだかる壁
ふるさとテレワークとは、地方(東京圏と中部圏中心部、近畿圏中心部以外の地域)で暮らしながら、実家や自宅、サテライトオフィス、テレワークセンター等で、ICTを活用して都市部の仕事をする他、クラウドソーシング(※1)などで仕事をすることである。実家に戻るUターン以外にも、Iターン・Jターンをして移住する人も多い。
(※1 クラウドソーシングとはインターネットを利用して不特定多数の人に業務を発注したり、受注者の募集を行うこと。また、そのような受発注ができるWebサービスのこと)

最近ではJターン(※2)の需要も多く、転職をせずに仕事ができるかどうかを試験的に実施する、というものもある。
また、魅力的な地方に出会い、Iターンをする人も増えている。
(※2 Jターンとは生まれ故郷の近くの(元の移住先よりも)規模の小さい地方大都市圏や、中規模な都市に戻り定住すること)

ふるさとテレワークの課題とは?

では、ふるさとテレワークに立ちはだかる壁とはどのようなものだろうか。

◆通信回線の問題
在宅の場合、通信回線には光回線・ADSL・ケーブルテレビ等があるが、企業が推奨する回線は光回線であることが多い。だが、回線は個人で用意する必要があるため、光回線が通っていない、他社の回線を利用しているなど、通信速度は統一できない場合が多い。スマートフォンやWiMAX(ワイマックス)といった、広域無線ネットワーク技術を利用する人もいるが、一般的な利用には問題が無くても、業務に関しては回線速度の低下など、心理的負担を強いられることになる。

ふるさとテレワークで地方への進出を希望する企業の場合も、光回線の有無によってサテライトオフィス開設の可否が大いに左右されることから、光回線が通っていない地方での開設は敬遠される場合が多い。

◆セキュリティの問題
在宅の場合、個人情報・機密情報を扱う業務は行わせずに、業務を限定する企業が多いが、個人情報・機密情報を含むような業務をする場合は、作業内容を覗かれないような執務スペースの確保や、Web会議などを行う際の場所の確保などを誓約書に記載しているケースも多い。この問題は、ふるさとテレワークに限ってのことではなく、都心でテレワークをする場合も同様である。

サテライトオフィスの場合は、企業の求めるセキュリティを装備していることが比較的多い。だが、複数の企業で使用する共有型の場合、在宅で業務をするのと同様、Web会議用の個室を用意する他、周囲からの覗き見をプライバシーフィルターで対応し、互いに機密情報や個人情報が含む情報を見聞きした場合でも、外部に漏らさないよう、機密保持契約書等で担保する必要も出てくるので注意したい。

◆生活直結サービスの問題
社員にとっては生活に関わることであり、ふるさとテレワークでは常に上がる問題だ。
実家に戻るなど、今まで居住していたことがある場合を除き、初めての移住先でまず問題となるのが、居住・ATM・スーバーなどのライフラインの問題である。
居住は、使用できる状態の家がすぐ見つかれば問題ないが、改修を加えなくてはならない住居も多いのが現状だ。
近くに銀行やATMがないことで給料の受け取りに不便を感じたり、日々の食材や日用品の買い物も、コンビニエンスストア、スーパーが近くにないことで不便を感じるということも多い。

◆教育の問題
地方に移住した場合、待機児童の問題がないことが多く、就学前の子供に関しての対応はどの自治体も手厚くサービスを提供している。だが就学後の教育については、都心で学習塾などに通っていた場合の代替として、通信教育等のサービスもあるが、都心の高校、または大学に入学させたい場合は、距離の問題で不便を感じる。さらに、子供が中学生ならば、転校させたくないなど、単身で実家に帰ることも多い。このように企業は通信回線や、セキュリティの問題、更には社員のライフスタイルが描けるような環境を考えなければ、ふるさとテレワークの壁は乗り越えられない。

その他、実家に戻って在宅勤務をする場合、サテライトオフィスで勤務をする場合、ともに共通する以下の問題については、次回以降、解説する。


◆労務管理の問題
◆人事評価の問題
◆コミュニケーションの問題

ふるさとテレワークを積極的に推進する自治体、郡上市

さて、ここで事例として、平成27年度「新たなワークスタイルの実現に資するテレワークモデルの実証」と平成28年度「ふるさとテレワーク推進事業」で採択された自治体である、岐阜県郡上市を紹介する。
郡上市は、作家の司馬遼太郎氏が「日本一美しい山城」と絶賛した郡上八幡城があるだけでなく、冬はスキー、夏は日本三大盆踊りの一つ「郡上おどり(重要無形民俗文化財)」で賑わう観光地でもある。

先に記した、ふるさとテレワークの課題である「住居の問題」については、平成27年に「テレワークのまち郡上推進事業」により、空き家を活用したモデルハウスを開設、テレワーカーの移住による産業振興と移住・定住を促進。行政出資により一般財団法人郡上八幡産業振興公社内にファンド(基金)を設定・活用し、空き家対策に取り組むプロジェクトチームとして「チームまちや」を発足させ提供した。

「通信回線の問題」については、光回線を引き、NPO法人(HUB GUJO)が元紡績工場を改修したモデルテレワークハウスを開設。無料公衆無線LANサービスを使用し、複数の人が共同利用するシェアオフィス、他業種の人とも同じスペースで働けるコワーキングスペースを設置し提供。
「セキュリティの問題」については、元々工場の設備であった電話BOXの防音性を活用したことで、安心してWeb会議ができるようになった。また、「生活直結サービスの問題」では、そもそも郡上市は、市街地でも徒歩圏内に学校・スーパー・病院・役所・銀行などの生活直結サービスがあるため、ライフスタイルを描くための条件はそろっていると言えよう。

このように郡上市では、居住や共有型のサテライトオフィスを提供することで、「新たなワークスタイルの実現に資するテレワークモデルの実証」において、育児・介護を理由としたUターン移住者による、本社・サテライトオフィス・在宅での勤務を織り交ぜた職住近接型の実証を行った。

都心での仕事との違いは、会議がWeb会議になること、他社の人と同じ部屋を共有して業務を行うことから異業種の交流ができること、ウッドデッキからの吉田川・郡上八幡城の眺めにより心が癒されること、定時で帰れることだ。その結果、そこではたらく社員の心や体をリラックスさせ、更には営業効率と生産性の向上につなげることができた。

郡上市では、「町家にオフィスを移したい」、「自然豊かな環境の中でテレワークを行いたい」という企業に、町家をオフィスとして提供している。今後、地方へ進出を考えている企業にとっては、有効的に活用できる環境が整っていると言えよう。

トライアル移住事業をスタートさせる自治体、茨城県

茨城県は東京に近接し、鉄道・バス等交通ネットワークが充実している。また、二地域居住(※3)を推進している自治体でもあることから、教育の問題も不便は感じないであろう。

同県では2016年度より、東京圏でのテレワーク・フレックスタイム制度導入企業と人材流出に課題を抱えている企業の社員を対象とした「トライアル移住事業」をスタートさせている。

住宅は「空家バンク制度」などを利用して自ら住居を決めた後、一定期間居住する。
東京通勤圏でのトライアルということで、企業にとってもメリットは多く、国の地方創生推進交付金を積極的に活用した事業として今後の動向に注目したい。
(※3 都市住民が農山漁村などの地域にも同時に生活拠点を持つこと)

国土交通省が推進する二地域居住・地域活性化の一つである「ライフスタイルに合った働き方」が浸透することで、介護離職をすることなく、働き続けられるようになる時代も遠くないだろう。

このように、ふるさとテレワークは自治体の協力と、その地方を選択する企業が重要であると同時に、そこではたらく社員の心理的負担を取り除くことや、不便を感じさせないための環境づくりも不可欠であると言えよう。

さて、ふるさとテレワークに限らず、テレワークの課題として人事評価・労務管理があるが、これについては、次回以降、失敗事例も織り交ぜてご紹介していく。
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