HR総合調査研究所(HRプロ)は、2012年12月7日~20日にかけて「人事のキャリアに関するアンケート調査」を行った。回答を得たのは332社(1001名以上82社, 301~1000名97社, 300名以下153社)である。
アンケート調査の結果を2回に分け、第1回は人事のキャリアと意識に関する調査を重点的に紹介し、第2回は人事自身の研鑽の状況や人事の役割について報告したい。

現職への最多パターンは「他部門を経て人事部門」

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【1】

人事部門への配属だが、どの企業規模でももっとも多いのは「他部門を経て人事部門」というパターンであり、半数に近い。人事部門は企業の中枢だが、中枢に配属する前に現場を知ってもらおうという考えに基づく施策だと思う。

「人事→他部門→人事」というローテーションもあるが、これは少なく、「1001名以上」では4%、「301名~1000名」では2%と皆無に等しい。「300名以下」では7%と少し多いが、中小規模では配属がイレギュラーになっている企業があるからだろう。
興味深いのは「入社時から一貫して人事部門」と「専門職として中途採用」が企業規模によって正反対の傾向を示していることだ。
「入社時から一貫して人事部門」は「1001名以上」では37%とかなり高いが、「301名~1000名」や「300名以下」では24%と低くなっている。

逆に「専門職として中途採用」は、「300名以下」で24%、「301名~1000名」で22%だが、「1001名以上」では12%にとどまっている。
つまり大規模企業は人事部門にプロパー社員を配属し、育成しているが、中堅中小企業は専門性の高い人事人材を自社内で育てにくく、外部から調達する傾向が強いことがわかる。
グラフを掲載していないが、とくに個性が目立つのは「1001名以上」のメーカーだ。「1001名以上」の大手メーカーだけが「他の部門を経て人事部門」ではなく、「入社時から一貫して人事部門」が最も多く50%である。突出している。人事の調査データは業種の差はほとんどないが、人事の異動パターンだけ特異である。
次項で紹介する人事の転職経験でも「1001名以上」の大手メーカーは際立っている。

図表1:人事部門の最も多い異動パターン

人事職での転職経験者が少ない大手メーカー

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【1】

今回のアンケート調査では人事職での転職経験を問うてみた。人事職に限った転職であり、人事職でなければ「ない」と回答してもらった。
「ある」と答えた人事は全体では29%だが、これをメーカー、非メーカー別、企業規模別に分けてみると、違いが見えてくる。
非メーカーは企業規模にかかわらず20%後半から30%とあまり変わらない。ところがメーカーになると規模の差が目立つ。
「301名~1000名」と「300名以下」はともに34%だが、「1001名以上」では15%と中堅中小の半分以下になる。先ほどの人事の異動パターンでも「1001名以上」のメーカーは「入社時から一貫して人事部門」が50%と突出していたが、転職経験でも違う数字になっている。
これまで長らく日本経済の屋台骨を支えてきた大手メーカーはこれまで変化にさらされにくい環境にあったため、人事部門も変化を好まなかったということができるかもしれない。

図表2:人事職での転職経験の有無(メーカー、規模別)

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【1】

図表3:人事職での転職経験の有無(非メーカー、規模別)

ほとんどの人事は現職が「好き」

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【1】

人事という現職に対しては「好き」である人が圧倒的多数だ。「嫌い」は全体の1%に過ぎない。「好き」には企業規模の違いはなく、どの規模でも「とても好き」「好き」を合わせると7割を超えている。細かく見ると、「300名以下」が8割を超えているので、規模が小さいほど「好き」度が高いと言えるかもしれない。
「好き」な理由をコメントから紹介しよう。「自由裁量」「組織と自分の成長」「経営に大きく関われる部門」「人生に深く関与する重要なミッション」「他の事務職と比べ外部との接点を持つ機会が多く、自身の幅を広げられる」「新しい制度構築に携わり楽しい」「会社全体を見ることができる」「苦労も多い分、ダイナミズムもある」「仕事の範囲がとてつもなく広く、面白い」など、人事業務を通じて自分自身が成長していけることを上げる人が多い。
また「人の成長を実感できる」「採用に関わった若手社員が活躍する様子を見ると嬉しくなる」など若手社員に関わるものも多い。
「どちらともいえない」のコメントを見ると、「現在の仕事は教育だが、実施内容に自信が持てない。受講生もその場限りの対応が目に付き、何のために実施しているのか分からなくなってくることがある」「楽しくやりがいもあるが、人の触れられたくないところにも触れざるを得ない場面がある」「人事の言葉で経営を語れる風土ではないから」「経営陣の認識が甘いため、人事部門の改善提案が認可されにくい」と書かれている。どうやら企業風土や経営者の認識不足が人事の「好き」度を低下させているように読める。
「嫌い」と書いた人のコメントは3つしかないが、印象的なものをひとつ紹介する。「採用になった新卒者が、2年~3年でやめていく環境が私には耐えられません」。これは採用担当者ならだれしも同感するだろう。

図表4:現在の人事部門の仕事は好きか?

中堅中小企業では「好き」より低い「能力活用」

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【1】

「人事の仕事が好きか」という設問とは別に「自分の能力が活かされているか」についても訊いた。2つの設問には相関があるはずだ。そして確かに相関している。ただし企業規模によって微妙な差がある。
まず「1001名以上」の場合、「とても好き」と「好き」を合わせると73%だが。「とても活かされている」と「活かされている」を合わせると80%と増えている。自分の能力は活かされていると回答する者が多いのだ。
「301名~1000名」と「300名以下」は違う傾向を示している。両者ともに「好き」は8割前後に達し、「1001名以上」よりもかなり高い。ところが「能力を活かされているか」との設問では下がってしまう。
「とても活かされている」と「活かされている」を合わせると、「301名~1000名」は68%、「300名以下」は71%であり、「好き」よりも10ポイント低い数字になっている。また「活かされていない」と回答した者も「301名~1000名」で7%、「300名以下」で5%いる。「仕事は好きだが、自分の能力は活かされていない」と考える者が大企業よりも多いことがわかる。

図表5:現在の部門で自分の能力が活かされていると思うか?

むずかしい人事部門人材の評価・昇進

人事部門に属する人材の評価はむずかしい。評価は人事部門の重要業務だが、人事自身に対する評価や昇進のあり方について定まったルールはない。そこで今回は人事自身がこの問題についてどう考えているかを訊いてみた。
予測されたことだが、多くの人事が「評価はむずかしい」と回答している。その理由は「長期的な成果に対する評価を明確にすべきであるが、因果関係の測定が困難。(商社(専門)、101名~300名)であり、「人事だけに関わらず、事務職全般に言えるのは、成績が具体的な数字で表せないので、人事評価、昇進においては数値化できるような評価システムの構築が必要である」(建築・土木・設計、301名~500名)というコメントもあるが、このコメント自体が「成績が具体的な数字で表せない」ことを認めている。
「いくら頑張ったとしても、自らが昇格するのは冷たい視線を浴びることになるので、人事を担当する間の昇格は難しい」(旅行・ホテル、101~300名)と人事在任中の昇格を控える声もあるし、「評価は経営層が直接行うべき。昇進に関しては常に裏方に徹する」(機械、51名~100名)と経営に評価を委ねるという意見もある。

「人事業務」の再定義が必要になっている

人事部門人材の人事評価や昇進は悩ましい課題だが、いくつかのヒントもある。まず他部門での経験を重視する声が多い。

「人事部門内における評価・昇進よりも、むしろ他部門を含めたローテーションが必要」(ビジネスコンサルタント・シンクタンク、1001名~5000名)

「専門職であるため、組織が硬直化しやすい傾向があると思っている。人事部門に一定期間所属したあとで、他部門で勉強させるべき」(医薬品、1001名~5000名)

「自社の人事戦略を継承する少数の専門職と、幅広い見方考え方を取り入れる目的で、他部署とのローテーションを行う社員とが融合すべき」(化学、1001名~5000名)

また外部機関によるアセスメントを求める意見もある。

「現状社内評価で評価昇進が行われているが、一部外部の評価やアセスメントを取り入れてもよろしいのではないか。グローバル化、ダイバーシティ化が進んでいる中、自社だけの評価での人事評価や昇進は行き詰まるのではないか」(精密機器、1001名~5000名)

これらの意見を読んで思うのは、現代の人事業務は拡大・拡散しているので、再定義が必要であることだ。その定義は企業によって異なるだろう。

人事の専門家としてのキャリア形成に9割近くが前向き

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【1】

「人事の専門家としてキャリアを積んでいきたいか」との設問では人事担当者の前向きな姿勢が目立つ。企業規模にかかわらず「ライフキャリアとしたい」が5割前後を占めている。「ある程度のキャリアを積みたい」を合わせると9割に近い。

それに対し「ジョブローテーションの一環でいい」は10%前後にとどまり、「できれば他部門に転出したい」「直ちに他部門に転出したい」は皆無に等しい。
人事は企業内のエリート職であり、優秀人材が配属になることが多いからなのだろうが、仕事への高い満足度と積極性に驚かされる。

「ライフキャリアとしたい」と「ある程度のキャリアを積みたい」と回答した人のコメントを読むと、言葉が明確で強い。キャリアビジョンが明確だ。いくつかを紹介しよう。

「社外で通用する知識経験、考え方などを自分で勉強する。セミナーへの参加、読書などは常時行い、何よりも現場に最前線で出ていく時間を惜しまないことに留意している。そのうえで社内での採用、教育に関する啓蒙活動、発言機会で上層部へ働きかける機会を持つようにしている」(その他サービス、1001名~5000名)

「キャリアカウンセラーの資格を取得。活動の場を広げていきたい。コーチングなどにも興味がある。社会保険労務士の資格取得に向けて勉強中。将来的には独立も視野に入れている」(フードサービス、1001名~5000名)

「自己啓発として社外資格(CDA,産業カウンセラーなど)を取得することでキャリアを高めたいし、社外人脈もできる」(情報処理・ソフトウェア、1001名~5000名)

「社内のキャリアとしては、まずは人事の担当者として一人前(制度の企画・運用が独力でできる)のレベルになった上で、他部門(現場)での経験を積みたい。その後、現場の経験を踏まえた上で再度人事部門に戻り、人事のスペシャリストもしくはマネージャーとして活躍したい。また自己啓発として社労士合格に向けた勉強を行い、資格取得を目指す」(食品、1001名~5000名)

「採用計画立案、人事諸制度設計・改定、評価制度設計・改定、教育体系構築、退職基準設定等、HRマネジメントのサイクルは一通り経験済み。今後は、教育体系の中でも、コンテンツ開発とインストラクター育成の分野で、経験値を高めたい」(通信、1001名~5000名)

「新卒採用担当者としての知識、経験を積み、人事全般に関わる業務、労務管理なども経験し、社内環境の改善に取り組んでいきたい」(マスコミ関連、101名~300名)

会社からの押し付け教育ではなく、自らが求めて学ぶ姿勢が印象的だ。

図表6:人事分野の専門家としてキャリアを積んでいきたいか?

人事の業務別に必要な能力・スキルを初めて調査

今回の調査では、人事の業務別に必要な能力・スキルを訊いた。たぶんこのような調査は初めてのことだろうと思う。人事の仕事を採用、教育・研修、人事・労務管理、人事戦略、海外人事の5つに分け、それぞれ経験者に答えてもらった。その結果を集計したものが下図である。

人事戦略を除く業務で1位と2位になった能力が「コミュニケーション能力」。人事はヒト相手の仕事だから、当たり前のことかもしれない。またどの業務でも「社内人脈」が上位に入っているが、人事の仕事は社内根回しが多いのでこれも当然。
その他の業務では特徴的な能力が求められている。「プレゼン力」は学生相手の採用でも社員相手の教育・研修でも重要だが、他の業務ではあまり必要とされない。
学生を奪い合う採用では採用戦線の動きが重要であり「情報感度」が2位になっている。しかし長期的な人材育成を行う教育・研修では「企画・戦略立案力」が2位だ。

法律による手続きが決まっている人事・労務管理で1位の能力は「専門知識の高さ」。他に「コミュニケーション能力」「社内人脈」「事務処理能力」「トラブル処理能力」も必要になる。
人事戦略に必要な能力は1位が「企画・戦略立案力」、2位が「経営感覚」。「コミュニケーション能力」は8位であり、他の業務に比べるとかなり低い。「経営感覚」は他の業務では10位に位置しており、人事戦略でとくに高い。

海外戦略では「コミュニケーション能力」が1位だが、他の業務で低い位置づけの「異文化理解力」が2位と高い。また他のすべての業務で最低の「語学力」が5位と高い。
業務と能力の相関について推測で語られることはあったが、今回の調査によって推測が裏付けられる結果になった。

図表7:人事業務別 必要な能力・スキル

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【1】

【調査概要】

調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2012年12月7日~12月20日
有効回答:332社(1001名以上 82社, 301~1000名 97社, 300名以下 153社)

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