テレワークをする従業員が増えることで、運動不足やメンタル面での不調など、
個人の健康管理における新たな課題も見られる中、企業はどのようにウェルビーイングや健康経営に取り組んでいるのだろうか。
HR総研では、各企業におけるウェルビーイングや健康経営に向けた取り組みや課題、成果等に関するアンケートを実施した。その結果を2回に分けて報告する。今回は「ウェルビーイング」について以下に報告する。
<概要>
●ウェルビーイングの認知度、大企業で8割近く、中小企業では4割
●重視度はパーパス浸透企業で7割、パーパス浸透との関係性に注目
●ウェルビーイングの実施、大企業で8割
●ウェルビーイングの経営戦略等での位置付け、3割未満にとどまる
●推進の目的は「社員のモチベーション・エンゲージメント向上」が7割近く
●取組み施策に「多様な働き方の推進」「健康経営の推進」が半数
●ウェルビーイング推進の社員浸透度は4分の1、「(あまり)浸透していない」は4割
●ウェルビーイング推進に関する課題に「効果の可視化」が圧倒的
●ウェルビーイング推進の効果に「社員のエンゲージメント・モチベーション向上」が過半数
●ウェルビーイングの推進情報、「効果の状況」の情報公開に消極的か
●定量評価が進まない現状、効果の可視化を困難に
●ウェルビーイングの推進意向は大企業で過半数、中堅・中小企業では「取り組む予定はない」が3割
★記事下部に、株式会社人財研究所 代表取締役社長 曽和 利光氏(HR総研 客員研究員)の分析コメントがございます。
ぜひ最後までご覧ください。
ウェルビーイングの認知度、大企業で8割近く、中小企業では4割
まず、「ウェルビーイング」の認知度について企業規模別に見てみる。
従業員数が1,001名以上の大企業では、「以前から意味も知っている」が最多で75%と8割近くが認知していることが分かる。
301~1,000名の中堅企業では「以前から意味も知っている」が最多で63%と6割、300名以下の中小企業では「以前から意味も知っている」が42%で4割の認知度となっている。この結果から、企業規模が大きいほどウェルビーイングの認知度が高いことが分かる(図表1)。
ただし、「以前から名前だけは知っている」は大企業で11%、中堅企業で31%、中小企業で42%となり、少なくとも名前は知っている割合としては企業規模に関わらず9割程度に上り、ウェルビーイングの認知度は高まりつつあることがうかがえる。
【図表1】企業規模別 「ウェルビーイング」の認知度
重視度はパーパス浸透企業で7割、パーパス浸透との関係性に注目
「ウェルビーイング」の重視度については、大企業では「重視している」が25%、「やや重視している」が24%で、これらを合計した「重視している派」(以下同じ)は49%とほぼ半数を占めている。一方、中堅・中小企業での「重視している派」の割合を見ると、中堅企業では27%、中小企業では32%と3割前後にとどまっている(図表2-1)。
これを、パーパスの社員浸透度別に見てみると、「浸透している」企業群ではウェルビーイングを「重視している派」が65%と7割近くとなり、「どちらとも言えない」企業群では34%、「浸透していない」企業群では僅か9%にとどまっている(図表2-2)。ウェルビーイングの重視の背景には、企業規模の大小よりパーパス社員浸透度の方が強く影響していることがうかがえる。
【図表2-1】企業規模別 「ウェルビーイング」の重視度
【図表2-2】パーパス社員浸透度別 「ウェルビーイング」の重視度
ウェルビーイングの実施、大企業で8割
ウェルビーイングの実施状況について見てみると、すでに「実施している」としている割合は、大企業では40%、中堅企業では17%、中小企業では12%となり、最も割合の高い大企業でも半数に満たず4割にとどまっている。ただし、「実施に向け準備中/検討中」まで含めると、大企業では78%、中堅企業では50%、中小企業では41%と一気に割合が高まっており、今後の実施企業の拡大が期待される(図表3-1)。
【図表3-1】企業規模別 「ウェルビーイング」の実施状況
これについてもパーパスの社員浸透度別に見てみると、「実施している」と「実施に向け準備中/検討中」を含めた「実施に前向きな意向」の割合は、「浸透している」企業群で76%、「どちらとも言えない」企業群で52%、「浸透していない」企業群で32%となり、浸透している企業ほどウェルビーイング実施に前向きであることが推測される(図表3-2)。
【図表3-2】パーパス社員浸透度別 「ウェルビーイング」の実施状況
ウェルビーイングの経営戦略等での位置付け、3割未満にとどまる
健康経営と同様に、ウェルビーイングについても経営戦略や経営方針に明確に位置づけられているか聞いてみたところ、「位置づけられている」とする企業の割合は27%と3割未満で、「位置づけられる予定である」が42%、「位置づけられていない」が31%となっている(図表4)。
現時点では「位置づけられている」は少数派であるものの、今後、ウェルビーイングの取組みを開始する企業が増加することで、「位置づけられる予定」から「位置づけられている」にボリューム層が移行していくだろう。
【図表4】「ウェルビーイング」の経営戦略等での位置付け
ウェルビーイング推進の目的は「社員のモチベーション・エンゲージメント向上」が7割近く
ウェルビーイングへの取り組みの目的については、「社員のモチベーションの向上」が最多で68%、次いで「社員のエンゲージメントの向上」が66%、「会社全体の生産性の向上」が49%などとなっている(図表5)。
従業員のウェルビーイングを実現することで、従業員の仕事や会社に対する向き合い方が変わり、ひいては会社全体の生産性・価値の向上へと繋がることが期待されているようである。
【図表5】「ウェルビーイング」の実現に向けた施策実施の目的
取組み施策に「多様な働き方の推進」「健康経営の推進」が半数
それでは、従業員のウェルビーイングの実現に向けてどのような取り組みを実施しているのだろうか。
最も多いのは「多様な働き方の推進」で50%、次いで「健康経営の推進」が49%、「社内コミュニケーション活性化」と「長時間労働の是正」がともに47%などとなっている(図表6)。
働き方に自由度を持たせ選択肢の幅を広げることで、個々人がより良い状態で働きやすくするとともに、ウェルビーイングという概念の中で健康経営に取り組むことにより、心身の健康維持だけでなく幸福度にも繋がる健康経営にする狙いがあると推測される。
【図表6】 「ウェルビーイング」の実現に向けた取組み施策(実施予定含む)
ウェルビーイング推進の社員浸透度は4分の1、「(あまり)浸透していない」は4割
ここで、企業としてのウェルビーイングへの取り組み状況に対する「社員の浸透度」を見てみる。
全体では「どちらとも言えない」が最多で36%、「浸透している」は僅か4%、「やや浸透している」が21%、これらを合計して「浸透している派」(以下同じ)は25%と4分の1となっている。一方、「浸透していない」は8%、「あまり浸透していない」は31%で、これらを合計した「浸透していない派」(以下同じ)は39%と4割近くに上っている(図表7-1)。「浸透している派」より「浸透していない派」の方が14ポイント多く、社員浸透が十分に進んでいない企業が多数派であることがうかがえる。
【図表7-1】「ウェルビーイング」推進の社員浸透度
パーパスの社員浸透度別に「(ウェルビーイングが)浸透している派」の割合を見てみると、パーパスが「浸透している」企業群では41%、「どちらとも言えない」企業群では11%、「浸透していない」企業群では13%となっている。また、パーパスが「浸透していない」企業群での「(ウェルビーイングが)浸透していない派」の割合は67%で、これらの企業では組織文化の面での課題も懸念される。このように、パーパスの社内浸透が進んでいる企業群でこそ、ウェルビーイングも社員に浸透している状況が顕著となっている(図表7-2)。
【図表7-2】パーパス社員浸透度別 「ウェルビーイング」推進の社員浸透度
社員浸透している企業において、浸透への働きかけでどのような工夫をしているのか、フリーコメントで寄せられた意見について主なものを一部抜粋し、以下に紹介する(図表7-3)。
【図表7-3】「ウェルビーイング」の社員浸透に向けた働きかけ(一部抜粋)
「ウェルビーイング」の浸透に向けて実施している働きかけ | 従業員規模 | 業種 |
---|---|---|
テレワークと家庭両立 | 1,001名以上 | メーカー |
動画などの視聴 | 1,001名以上 | サービス |
社内報等で継続的にメッセージを発信 | 1,001名以上 | 商社・流通 |
Eラーニングの配信 | 1,001名以上 | メーカー |
働き方の見直し、裁量労働時間 | 301~1,000名 | サービス |
管理本部に所属する一員として、世間の平均的企業と比較した場合、非常に恵まれていると思います。ただ、中途入社以外の社員は、このような環境が当たり前だと感じているところもあります。 | 301~1,000名 | メーカー |
健康経営の申請など全員参加で対応するので共通する行動が多くなる | 300名以下 | サービス |
雇用延長制度の改善・改革 | 300名以下 | マスコミ・コンサル |
定例打合せ会議において、指導 | 300名以下 | サービス |
復職プログラム、健康管理システム導入 | 300名以下 | 情報・通信 |
ウェルビーイングの推進に関する課題に「効果の可視化」が圧倒的
続いて、「ウェルビーイング」の推進に関する課題について見てみる。
「効果の可視化方法がわからない」が圧倒的で52%と過半数が挙げており、次いで「実践に関するノウハウがない」と「効果を得られにくい」がともに28%、「人的負担が大きい」が21%などとなっている(図表8-1)。
効果の可視化については、ウェルビーイングを実施する中で良く課題として挙がるものであり、この結果からも概念の実現を効果として計測することの難しさを感じさせられる。
【図表8-1】「ウェルビーイング」の推進に関する課題
「ウェルビーイング」の推進に関する課題について「ウェルビーイング」の社員浸透度別に見てみると、やはり「効果の可視化方法がわからない」は、浸透度に関わらず課題として挙げる割合が最も高くなっている。ただし、いずれの課題についても「浸透している」企業群の割合が最も低くなっており、「ウェルビーイング」の推進において「社員への浸透」と「課題の解決」には、少なからず何らかの関係性があることがうかがえる(図表8-2)。
【図表8-2】「ウェルビーイング」の社員浸透度 「ウェルビーイング」の推進に関する課題
ウェルビーイング推進の効果に「社員のエンゲージメント・モチベーション向上」が過半数
「ウェルビーイング」の推進で得られている効果については、「社員のエンゲージメントの向上」が最多で57%、次いで「社員のモチベーションの向上」が50%、「社内コミュニケーションの活性化」と「会社全体の生産性の向上」がともに33%などと目的の上位に挙がっていた項目と同様のものが得られている効果の上位にも挙がっていることが分かる(図表9)。
これらの効果が得られていることを的確に確認するためには、効果項目に適した評価指標を設けて測定する必要がある。例えば、ウェルビーイングの取り組み内容と従業員エンゲージメントレベルの関係性を確認できるよう評価指標や尺度を設けて、取り組み実施と評価をセットで取り組んでいくことで、効果の可視化に役立てられるだろう。
【図表9】「ウェルビーイング」の推進で得られている効果
ウェルビーイングの推進情報、「効果の状況」の情報公開に消極的か
「ウェルビーイング」の推進に関する情報公開について、「関連施策の取り組み状況」と「得られている効果の状況」の2段階に分けて見てみる。
まず、「関連施策の取り組み状況」については、「社内に全体公開している」が最も高く48%と半数近くに上っており、次いで「社外に公開している」は26%と4分の1以上となっており、少なくとも社内に対しては積極的に全体公開している企業が多いことが多いことが分かる。
一方、「得られている効果の状況」については、「社内に全体公開している」が最も高く39%、「社外に公開している」は13%と1割程度にとどまっている。社内での公開に絞って見ても「全体公開」より「管理職層/経営層/担当部署内に公開」(47%)と限られた層でのみ共有している企業の方が多くなっており、効果に関する情報公開には慎重に対応する傾向がうかがえる(図表10-1)。
【図表10-1】「ウェルビーイング」の推進に関する情報公開
「関連施策の取り組み状況」と「得られている効果の状況」のそれぞれについて、「ウェルビーイング」社員浸透度別で確認してみる。
まず「関連施策の取り組み状況」については、「浸透している」企業群で30%が「社外に公開している」としており、「社内に全体公開している」は57%と6割近くにも上っている。一方、「どちらとも言えない/浸透していない」企業群では「社外に公開している」が22%、「社内に全体公開している」は39%となり、いずれも「浸透している」企業群より低い割合となっている(図表10-2)。
次に「得られている効果の状況」については、「浸透している」企業群で17%が「社外に公開している」としており、「社内に全体公開している」は43%となっている一方、「どちらとも言えない/浸透していない」企業群では「社外に公開している」が9%、「社内に全体公開している」は35%となっている(図表10-3)。
社員浸透度に関わらず、「関連施策の取り組み状況」より社外・社内ともに公開している企業の割合が低くなっているものの、やはり「浸透している」企業の方がそうでない企業より社内外に積極的に公開している傾向がうかがえ、社員浸透度と取り組みや効果に関する情報公開レベルは、少なからず影響し合う関係性があると推測される。
【図表10-2】「ウェルビーイング」社員浸透度別 「ウェルビーイング関連施策の取り組み状況」の情報公開
【図表10-3】「ウェルビーイング」社員浸透度別 「ウェルビーイング施策による効果の状況」の情報公開
定量評価が進まない現状、効果の可視化を困難に
ウェルビーイングの効果の可視化を課題に挙げる企業が多い中、効果の可視化に強く関係する「定量評価」の実施について見てみると、「全般的に定量評価している」の割合は僅か8%で、「一部、定量評価している」が20%となっており、これらを合計した「定量評価している」の割合は28%と3割未満となっている。これに対して「定量評価を準備中/検討中」は37%、「定量評価する予定はない」は35%で、これらを合計すると、現時点では定量評価できていない企業の割合は72%と7割を超えている(図表11)。この現状を踏まえると、「効果の可視化が難しい」という課題は、定量評価を上手くできていないことが影響していると考えられる。
【図表11】「ウェルビーイング」の推進効果の定量評価
ウェルビーイングの推進意向は大企業で過半数、中堅・中小企業では「取り組む予定はない」が3割
今後のウェルビーイングの推進意向について見てみる。
「現状を継続する」が企業規模に関わらず最多となる中、大企業では「ある程度、推進していく」が29%、「積極的に推進していく」が24%となり、これらを合計した「推進派」(以下同じ)は53%と過半数となっている。「推進派」の割合は、中堅企業で33%、中小企業で32%といずれも3割程度と、大企業より低い割合となっている。一方「取り組む予定はない」の割合は、中堅・中小でそれぞれ29%、30%と3割なのに対して、大企業では16%にとどまっており、今後も、大企業が先行してウェルビーイングの推進に取り組んでいくことが推測される(図表12)。
【図表12】企業規模別 今後の「ウェルビーイング」の推進意向
【HR総研 客員研究員からの分析コメント】
株式会社人材研究所 代表取締役社長/HR総研 客員研究員 曽和 利光氏
今回の調査から、企業規模によって差はあるものの、社員のウェルビーイングについての関心の高さが伺える。
ウェルビーイングとは直訳すれば「幸福」だが、このような極めて個人の内面的で主観的な領域に対して、企業が関わろうとしていることは興味深いことだ。しかも、ウェルビーイングの程度を可視化する方法もわからず(ある意味、当然だが)、そのためか受益者である社員自身にも取り組みがあまり浸透していないにも拘らず、である。一方で、ウェルビーイング推進によって、社員のエンゲージメントやモチベーションが向上しているとの回答が半数を超えており、効果は一定以上実感できているというのも面白い。「幸福」を明確に定義したり可視化したりすることは困難ではあるものの、確かに何らかの実体がそこにはあり、社員に好影響を与えているということである。ウェルビーイング=「幸福」とは個人の究極の目標である。それに企業が関心を持つという姿勢がプラスの効果を生み出しているのではないか。ウェルビーイングの本質は企業が個人の幸せを「思いやる」こと自体にあるように思う。
【調査概要】
アンケート名称:人事向け:【HR総研】「ウェルビーイングと健康経営」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年9月26~10月3日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:221件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当調査のURL記載、またはリンク設定
3)HR総研へのご連絡
・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
・引用元名称(調査レポートURL) と引用項目(図表No)
・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp
※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。
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