「キャリア・アンカー」とは、MITのエドガー・H.シャイン教授(組織心理学者)が提唱しているキャリア形成の概念です。キャリアにおけるアンカー(錨=不動点)を指しています。

個人が自らのキャリアを形成する際に最も大切で、他に譲ることのできない価値観や欲求のこと、また、周囲が変化しても、自己の内面で不動なもののことをいいます。

シャインは、犠牲にすることができない3つの要素(コンピタンス、動機、価値観)が組み合わさり、8種類のカテゴリーが形成しました。どのような職種についても基本的に該当し、ほとんどの社会人は8カテゴリーのいずれかのどれかにあてはまります。

3つの要素については以下となります。

コンピタンス・・・能力。できること
動機・・・欲求、やりたいこと
価値観・・・やるべきこと

また、8種類のカテゴリーは、

1.専門・職能別・・・自分の技能・専門性が高まり、活用できること、
2.全般管理・・・組織の中で、責任のある役割を担うこと、
3.自立・独立・・・仕事を自分のやり方で仕切っていくこと、
4.保障・安定・・・会社の雇用保障などの経済的な安定のこと、
5.独創性・・・クリエイティブに新しいことを生み出す、自身が会社や事業を起こす機会、
6.奉仕・社会貢献・・・社会に貢献したり、奉仕したりすること、
7.純粋な挑戦・・・解決困難な問題に挑むこと、
8.ライフスタイル・・・個人的な欲求と家族・仕事とのバランスを調整することとなります。

この3つの要素を8種類のカテゴリーを参考にしてあてはめていくことによって、キャリア形成の基本事項が明確になり、的確にキャリアを積んでいくことができます。

調査方法として、シャインは、著書で自己分析ツールを用意しています。質問事項に回答することによって、自分がどのカテゴリーに該当するかが見えてきます。

たとえば、1の専門・職能別のカテゴリーが高い場合には、専門分野で課題を課せられる仕事は、定収入でも幸せを感じますが、複数の職能にまたがって全体を統括する仕事には、たとえ高収入でも避けたい、
2の全般管理が高い場合は、ゼネラリストにつながる仕事に幸せを感じ、将来にわたり、職能分野が限られる仕事は避けたいと感じているという結果が出てきます。

また、友人や同僚、配偶者などに手伝ってもらい、会話を通じて、自分のキャリアを振り返り、他者の客観的な認識と合わせて、カテゴリーにあてはめていく方法もあります。

就活学生は自己分析を曖昧なままに行うことが多いですが、キャリア・アンカーを使えば、もっとリアルな自分を見つけられると言われています。また、結婚などの人生の転機、経営者が人事考察のために、従業員のキャリア・アンカーを参考にする場合もあります。