総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」によると、 AIの活用が一般化する時代において、米国では「業務遂行能力」を重要視する人が多いのに対し、日本では「対人関係能力」を重要視する人が多いそうです。そこで今回は、AI時代がやってきても、引き続きビジネスパーソンに求められるコミュニケーション技術の中から、大切なことをしっかり伝え合う自己表現「アサーション」についてお伝えします。
自分も相手も大切にするコミュニケーションの技法「アサーション」

人の考え方や行動パターン

他者との意思疎通において、人の考え方や行動は、下記の3パターンに分けられます。

(1)【我慢・非主張型】自分の考えや気持ちを抑え、相手に言わないこと

研修時、受講者に「3つのどのパターンに該当しますか?」と質問をすると、9割がこの「我慢・非主張型」だと回答します。この型は、自分を犠牲にして、その場を収めることを続けることで、ストレスを溜め、急に苛立ちを爆発させることもあります。

また、そのストレスの発散の場を弱い者に向けがちで、立場の弱い新人や、家庭では子どもにあたる人も出てきます。

特に、部下、女性、非正規、看護師、福祉サービス業、苦情処理など、人々のケアや回復、揉め事の修復や解決にあたる仕事の人は、本心とは別の表現をすること(感情労働)も多いため、ストレスを溜めやすいと言われています。

(2)【反発・主張型】自分の考えや気持ちを第一に考え、相手に主張すること

この型は、我慢するストレスはかかりませんが、自分の考えを相手に押しつけることになるため、周囲の反発を受けます。

また、自分と異なる意見やものの見方を邪魔とみなし、無視したり排除したりしようとするため、人の意見に耳を傾けようとしません。結果、自分の言い分は通っても相手から敬遠されるため、親しい関係をつくることができません。たとえ丁寧に優しく言っていても、自分の思い通りに動かそうとしている態度は、攻撃的自己表現をしていると言えるでしょう。

特に、権力や地位がある人や役割や年齢が上の人は、その立場を利用して、つい攻撃的な自己表現をしがちなので、注意が必要です。

(3)【アサーティブ】自分と相手双方の考えや気持ちを尊重して伝えること

「アサーティブ」は、“他者と違う考え方や感じ方を持つ権利”とも言われています。

違いは間違いではなく、違いを理解し合うことが大切なのです。どちらが良い、悪いと決めつけることなく、相手の状況や背景、心情に思いを巡らせた上で、自分の考えや気持ちを過度に抑え込まず、率直に伝えるのが、アサーティブな態度です。

決して、「何でも受け入れて主張する」という意味ではありません。「主張しない」と選択することもまた、アサーティブな態度と言えます。

具体的な表現方法「DESK法」

さて、具体的なアサーティブの表現方法を知る前に、押さえておきたいことがあります。

それは、「訓練すれば、アサーションはできるようになる」ということです。

コミュニケーションには「型」があります。まずはその型を覚え、練習を積み重ねることで、次第に他者とのコミュニケーションがうまくいくようになります。決して、性格やセンスのみで左右されるものではありません。

新しい言動を身につけるためには、心がけと訓練が必要です。異なった考え方やものの見方を受け入れ、互いに理解しようとする姿勢を持ち、「話す」、「聴く」を通じて、自分の視野を広げていくことが重要です。

では、いよいよ、具体的な表現方法として、「DESK法」をお伝えししょう。それは以下の4つから成ります。

【D】Describe…自分が対応しようとしている状況や、相手の行動を描写する

【E】Express,Explain,Empathize…自分の感情を表現・説明する

【S】Specify…相手に望む行動、妥協案、解決策などの特定の提案をする

【C】Choose…提案に対する肯定的・否定的結果を想像し、その結果に対する選択肢を示す

(出所:平木典子『改訂版アサーション・トレーニング』株式会社日本・精神技術研究所)

このステップを踏むと、例えば、何度注意しても誤字脱字だらけの報告書を提出する部下に注意をしたい時、以下のようなセリフをつくることができます。

【D】「何度注意しても報告書の誤字脱字が直らないよね」

【E】「私はこれ以上何度も同じことを注意したくないと思っている」

【S】「次回は提出する前に3回ほど見直してから持ってきてくれるかな」

【C】「まずは現状の誤字脱字を半分に減らせるように、迷ったら調べる癖をつけてみようか」

「D」では主観を交えず、客観的な事実を述べて、お互いに現状に対する共通基盤をつくっています。ここでの現状描写がないと、指導にはつながりません。

「E」では、自分の気持ちを「私は〜と思う」と表現します。そうすることで、相手を否定する言い方にならずにすみます。

「S」では提案を述べています。相手の行動が変わるような具体的な提案をすることが必要です。またその際、命令形ではなく疑問形で伝えることもポイントです。

「C」では、提案を相手が受け入れなかった場合に備えています。アサーションとは、双方が思いを伝え合うことなので、このような選択肢を準備しておくことが重要です。

このように1つの例を掘り下げて解説しましたが、こうした「型」はあるものの、価値観は100人いれば100通りあります。当然、型通りの対応をしても上手くいかないこともあります。

アサーションは上手に断る方法や、相手を説得・納得させる方法ではありません。分かり合うことが必要な場面できちんと話し合うための、考え方であり、方法なのです。

私たちは、誰もが自分らしくあってよいのです。生まれた環境や自分の気質、性格などによって、異なる考えや気持ちを持つことは当たり前です。ですが同時に、そうした自分らしさや個性を大切にしたいのであれば、相手の個性も大切にしてあげる必要があります。

人を「正しい」、「間違っている」と裁くことをやめ、多様な価値観を受け入れる努力をすることで、より上手に、他者とコミュニケーションを図れるようになるでしょう。
人を育てる人、を育てる。
採用定着コンサルティングOFFICE「サン&ムーン」
代表 社会保険労務士 田中亜矢子

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