公的年金の支給開始年齢の引き上げが検討される中、雇用継続を義務化している年齢が、現在の65歳から引き上げられる可能性も充分に予測される。そこで、現在の高年齢者の雇用状況と、今後65歳を超える従業員を雇う場合の注意点や対策などを考えてみた。
高年齢者雇用の現状と今後の対策について

高年齢者の雇用状況と今後気を付けるべきこと

先日、平成30年「高年齢者の雇用状況」の集計結果が公表された。それによると、従業員31人以上の企業のうち、65歳までの雇用確保措置のある企業は99.8%、また、60歳定年企業において、継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者は、わずか0.2%しかなく、希望すれば、ほぼ全ての者は65歳まで働ける環境になったと言える。

超人手不足の時代にあって、元気に働ける高齢者は、なくてはならない戦力であることは間違いない。

同時に、今年度より66歳以上働ける制度のある企業の状況も公表されたのだが、全体で27.6%(43,259社)という結果。企業別で見ると、中小企業では28.2%、大企業では21.8%であった。

また、希望者全員が66歳以上も働ける企業となると、全体の10.6%。大企業に至っては3.5%しかなく、高年齢者雇用安定法で定められた65歳を境に急激に企業数は減少している。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が行った調査において、「65歳を超えた社員に期待する役割は何か」と尋ねたところ、「知識・スキル・ノウハウを伝承すること(61.9%)」、「後輩を指導すること(59.8%)」、「担当者として成果を出すこと(46.2%)」の順であった。中小企業の製造業などが、ベテラン社員の持つ長年培った熟練の技やノウハウを活かしながら、次世代の社員に継承していくことを望んでいると推測される。

採用難の企業にとっては、66歳以降も働くことを望んでくれる社員の存在は、ありがたく感じることだろう。一方で、「定年延長にあたっての課題」を尋ねると、「高年齢社員の賃金の設定(30.9%)」、「組織の若返り(28.5%)」、「社員の健康管理支援(24.7%)」の順であった。

こうした結果を見ていくと、実務の面で今後気を付けていかなければいけない点は、やはり働き方改革関連で求められる「同一労働同一賃金」への対応であろう。

大企業では2020年から、中小企業では2021年から、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な賃金の賃金などの待遇差を解消していく必要があるが、現在提示されている『同一労働同一賃金ガイドライン案』では、以下のように記されている。

「基本給について、労働者の業績・成果に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の業績・成果を出している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、業績・成果に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。」

これをきちんと実施するには、能力の高い高年齢者従業員の賃金をどう設定していくかが、大きな課題になってくるかも知れない。

人事担当者は、ガイドライン案が今後どのように確定されていくか、注視していく必要があるだろう。その点において、2018年6月の長澤運輸事件の判例は、ひとつの指針になり得る。

この裁判では、定年後に再雇用された嘱託社員が同じ仕事をしているのに正社員と賃金項目に差があるのは、労働契約法20条にある不合理な格差と認められるか否か、が争われた。判決では、精勤手当と時間外手当の算定方法は不合理であるとしたものの、能率給・職務給・住宅手当・家族手当・役付手当・賞与については不合理ではないとされた。

労働契約法20条においては、「仕事内容や責任の程度」、「配置転換の範囲」、「その他の事情」を考慮して不合理であってはならないと定められているのだが、本件では、正社員が定年後に再雇用されたこと、条件を満たせば厚生年金が支給されることなどが、「その他の事情」に当たると判断されたからである。

助成金を活用してみる

定年延長にあたっての課題として最も多くあげられた「高年齢社員の賃金の設定」については、「65歳超雇用推進助成金」(65歳超継続雇用促進コース・高年齢雇用環境整備支援コース)など、高年齢者を雇用した事業主を支援する助成金もあるので、それらを活用する手もあるだろう。

また、もし65歳を超える従業員を雇用する時の制度設計や環境の整備について分からないことや不安に思うことがあれば、社会保険労務士や、各地にある独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構などが、相談窓口になってくれる。

人口が減少し、労働力人口も少なくなっていく中、高年齢者を積極的に活用することは一段と重要になってくる。高年齢者が働きやすい雇用環境を早めに整えることが、企業にとって生き残りの条件の一つになるのではないだろうか。


スリープロス社会保険労務士事務所
代表者/社会保険労務士
葉名尻 英一

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