ハラスメント防止に取り組もうとするとき、社内研修の開催は必須である。多くの企業で研修の講師を務めているが、打合せ等で担当者からよく、「本当に受けて欲しい人はなかなか受講してくれない」といった嘆きの声を聞く。確かに、「仕事の都合でどうしてもその日は出られない」と言われると、なかなか無理を押して出席してもらうのは難しいものだ。そんな悩める担当者のために、社内におけるハラスメント防止研修を“本当に必要な人”に受講してもらうための方策を、いくつか提案してみたい。
全員受講させたいハラスメント防止研修、効果的な方法とは

会社の本気度を示して出席を促す

まず考えられるのは、受講機会を増やすことだ。同じ内容で何回か開催し、そのうちどれかに出席してもらう方法である。

2回であれば、「どちらもダメ」ということはできるかも知れないが、3回、4回と開催しているのに、それらに全て出席できないというのは、あえて避けていると見られても仕方がない。そのような社員がいれば、当然ながら、上長などに指導してもらうべきだろう。

また、単純に回数を増やすだけではなく、研修用DVDや、オンライン研修、eラーニングを利用するのもよい方法だ。

次に考えられるのは、外せない会議や行事と抱き合わせにする方法である。研修を、何があろうと都合をつけて出ざるを得ない重要な会議の前か後に開催するのである。

会議だけではなく、キックオフミーティングや会社の創立記念日など、基本全員参加の行事の中に、ハラスメント防止研修を入れ込んでしまうのもよい。

また、普段バラバラの拠点で仕事をしている社員が一同に集まるような、会社主催の忘年会の前や、新年最初の出勤日に研修を開催、という手もあるだろう。このような場は、企業トップ以下、経営陣も全て参加するため、「出席してください」と担当者から言いにくい相手に対して特に有効だ。

行事などと抱き合わせではなくても、ハラスメント防止研修には、必ず企業トップが出席するようにして欲ほしい。トップ個人の研鑽という面もあるが、それよりも、社員に与える「この会社はハラスメント防止に本気だ」というメッセージの効果が大きいのだ。

筆者はハラスメント防止研修のご依頼があると、「社長さんが参加されると、従業員に対して本気度が伝わりますので、同じ研修費用を使うのであれば、研修効果がより高まるということをお話しして参加してもらってください」と、よくお願いしている。

前述した受講できる回数を増やすという方法にも、実はこれと同様、全社員に会社の本気度を印象づけるという意味がある。

受講せざるを得ない仕組みにしてしまう

次に、少し別の観点から、出席してもらう方法を考えてみる。部署内のハラスメントを防止することは、いまや管理職にとって重要な役割のひとつ。そこに着目し、ハラスメント防止研修の受講を、昇任・昇格の条件とするのもよい方法だ。

また、既存の管理職・職場リーダーについては、研修を受講しているかどうかを、評価項目のひとつとして入れるのもよいだろう。

一般の社員に、そこまでするのは馴染まないかもしれないが、管理職に限っていえば、そこまでする価値も、必要もある。なぜなら、ハラスメント防止に消極的な管理職は、“ハラッサー(ハラスメント行為を行う者)”になりやすいという点で、経営にとって大きなリスク要因になるからだ。

さらに一歩進んで、研修を受けた後は、一人ひとりがどのようにハラスメント防止に関わっていくのか、行動目標を立てるようにして欲しい。

30分程度の短時間でよいので、そのための話し合いの場や勉強会を設けるようにする。そしてその際、受講に消極的な社員をあえてそのリーダーに任命するのもよいだろう。その人物に研修後のフォローの責任を負わせてしまうのだ。

せっかく研修を開催しても、開催したという事実だけに満足してしまう、「もったいない」研修になっていないだろうか。

研修の目的は、研修後の行動変容だ。それを織り込んだプログラムにするのが本来の形だが、残念ながらハラスメント防止研修は、1時間2時間という短時間のものが多く、知識の伝達だけで精一杯ということになりがちだ。

せっかくの研修を実りあるものにするためにも、その後の行動を振り返り、変化を促す仕組みが必要であるし、同時に、それを利用して、“本当に必要な人”に受講を促すことができることを知っておくといいだろう。そうすれば、まさに“一石二鳥”なのである。

ハラスメント防止対策は、一度やって終わりではなく、毎年計画を立て、業務の中に組み込んでいくのが基本だ。特にハラスメント防止研修については、その必要性も効果も大きい。担当者の方には、ぜひさまざまな工夫を凝らして全員受講を目指していただきたい。


メンタルサポートろうむ代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー
李怜香(り れいか)

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