職場作りのヒントは法律にあり?安衛則のユニーク規定あれこれ

社長「新年度にあたり、職場の大掃除を実施する!新人を気持ち良く迎えよう!」
社員A「はい!(納期が近いんですけど…)」
社員B「いいですね!(やれやれ、また社長の思いつきが始まった…)」
社員C「やりましょう!(掃除なんて仕事じゃないよな…)

「社内清掃」と聞くと、皆さんはどのような印象を持たれるだろうか。自発的にするものだろうか。それとも仕事の一部だろうか。後述するが、実は、社内清掃の実施は労働安全衛生規則という法律上の義務とされている。この労働安全衛生規則(以下、安衛則)では、この他にも、職場に関する意外な義務が色々と定められており、興味深い法律の一つといえる。今回は、そのうちのいくつかを紹介したい。

@清掃の実施の義務(安衛則619条)

事業者は、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
一、日常行う清掃のほか、大掃除を、六月以内ごとに一回、定期的に、統一的に行うこと。(以下略)


まずは、先に述べた社内清掃から。ご覧の通り、社内清掃は、法律上の義務となっている。さらに条文に「統一的に」とあることから、全社的な取り組みとして行うべきものであると考えられる。つまり、冒頭の社長の言う“新年度の大掃除”は、立派に仕事となり得る事柄なのである。

私がかつて働いていた外食業界では「トイレを見ればその店の実力がわかる」という格言があった。確かに、いちばん汚れる場所の掃除が行き届いていれば、厨房で働く人も清潔で、食器などもピカピカに違いないと思わせる。職場環境とはそこで働く人の心を映すもの。だとすると、「オフィスを見ればその会社の実力がわかる」という見方もできるかもしれない。

実際に職場環境をきれいに保つことは、仕事の効率化やストレスの軽減にも効果があると聞く。法律に言われるまでもなく、清掃には積極的に取り組みたいところだ。ちなみに、会社のトイレ清掃も、法律上の義務である。(同規則628条2項)

A室内の明るさを適切にする義務(安衛則604条)

事業者は、労働者を常時就業させる場所の作業面の照度を、(中略)に掲げる基準に適合させなければならない。(以下略)

このように、職場の明るさについても基準がある。これは実際にあった話だが、以前、私が仕事である事務所を訪問したところ、真っ暗だった。留守かと思ったら中から人が。聞けば、節電に気を遣い、昼間の日が差し込む時間帯は太陽光のみで仕事をしているのだという。この取り組みの是非はともかく、傍目には少々異様な光景であった。

職場の明るさは、従業員の健康被害(眼精疲労、視力低下)や効率低下(作業ミス、ストレス増)と密接に関係しているという指摘もある。働きやすい明るさにも気を配りたいものである。なお、同規則によると「普通の作業」については150ルクス以上と定められているが、実際に測ってみると、150ルクスというのは存外暗い。法律の基準はあくまでも最低基準のものであるから、それにとらわれることなく、仕事内容等に適した明るさを設定することが望ましいだろう。

B給水の義務(安衛則627条)

事業者は、労働者の飲用に供する水その他の飲料を、十分供給するようにしなければならない。(以下略)

会社は従業員に水を提供しなくてはならない、という規定である。給湯室などを設置している職場は多いだろう。ひとまず飲用として利用できる水道が整備されていれば、同規則違反に問われることはなさそうであるが、ここはもう一歩踏み込んで、福利厚生の充実の観点から考えてみてはどうだろうか。

職場にウォーターサーバーを設置しているケースも時々見かけるが、概ね好評のようである。また、ある人はウォーターサーバーについて「お茶を沸かすよりも時間がかからないのが良い」と評価していた。時間がかからない分、それだけ仕事にかかれる時間が増えるとも言える。ひょっとすると、こんなところにも効率化の効果が期待できるかもしれない。

C休憩設備の義務(安衛則613条)

事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければならない。

このように休憩設備についても定めがある。努力義務ではあるが、従業員満足向上の観点から、休憩室等リラックスできる空間や設備は注目すべき存在である。「あそこの休憩室はすごく綺麗よ」とか「快適な仮眠室があるよ」とか「社員食堂が滅茶苦茶おいしい」などといった口コミの効果は侮れず、正規、非正規問わず、採用や定着に影響があると思われる。人手不足時代の今、休憩設備の充実は充分に検討に値するかもしれない。

なお、一定の事業者(常時50人以上又は常時女性30人以上)は「休養室(所)」の設置義務がある。(同規則618条)休養室とは、急病人やけが人を横になって休ませる場所のことである。こちらは休憩室と異なり“義務”であるので注意したい。


「労働法」と聞くと、守らなければならないもの、破ると罰せられるもの、といった具合に消極的に順守するというイメージで受け取られがちかもしれない。しかし、例えば上記の@〜Cなどの規定は、今の職場環境を見直す上で一つの切り口となるものではないだろうか。今回ピックアップした安衛則のほかにも、いろいろと参考になりそうな法律がある。

“守らなければならないもの”から“労務管理のヒント集”という考え方への転換により、いろいろなアイディアが湧いてくるかもしれない。ぜひ、食わず嫌いをなさらずに、労働法と向かい合ってみてはいかがだろうか。

出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

著者プロフィール

HRプロ編集部

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