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おさえておきたいタバコに関する労務管理上のポイント

HRプロ編集部
2018/01/11

2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、受動喫煙防止対策を含めた健康増進法の改正作業が政府内で進められていることは周知のとおりである。報道等によると細かい点の調整は何かと対立があり遅れているようであるが、多くの施設での喫煙が原則禁止になる見込のようである。
一方、職場においてもタバコを禁止する動きが広がりつつある。最近の出来事としては、すかいらーくグループが本社の全面禁煙と通勤途中の禁煙、及び休憩時の周辺コンビニ前での喫煙を禁止して話題になった。

すでに企業の2割超が全面禁煙を実施しているというデータもあり(帝国データバンク「企業における喫煙に関する意識調査」2017.10)、今後も職場でタバコを制限する動きは広がっていきそうである。読者の皆様がお勤めの職場でも「タバコを禁止します!」という大号令がいつ出ても不思議ではない。そうなったとき、労務管理上注意する点としてはどのような点が挙げられるだろうか。

(1)労働者のタバコを禁止する法的根拠は?
そもそも、会社は労働者に対して「タバコを吸うな」などと言える権利があるのだろうか。あるとすればその根拠は何か。そこのところをまず明確にしておく必要があろう。労使間のルールについて定めたものは言うまでもなく「就業規則」である。だとすると、「合理的な就業規則」を根拠としてタバコを制限することが可能である、と考えられそうだ。新たにタバコについて社内ルールを作る際には、まずこの就業規則の合理性(変更の必要性、内容の相当性、労働者の不利益の程度、周知など)についてしっかりと吟味したい。そうでなければ労働契約法第10条に反して無効、となるリスクもある。

(2)タバコを吸う人は採用しません!は可能か?
いっそ喫煙者を採用しないことを考える会社もあるだろう。星野リゾートグループなどは堂々と自社採用サイトで「喫煙者は採用していません」と謳っている。些かやり過ぎ感もあるかもしれないが、一般的に会社には採用の自由があるとされていて、例えば、思想や信条を理由に不採用としても違法ではない。(「三菱樹脂事件」S48.12.12最高裁判決)だとすれば、タバコを理由に不採用としても問題ないものと考えられる。むしろ今の社会の流れからすると、今後も喫煙者NGの求人は増えていくかもしれない。

(3)忘年会等、業務外の時間もタバコを制限できるか?
業務に直接関係があることについては、会社側に命令権があることについては論を俟たない。同時に、業務外の行動については命令権がないことも論を俟たない。しかし、昨年SCSKが、親睦会の場での喫煙を禁止する項目を就業規則に追加して話題になった。同社は健康経営に力を入れていることでも有名な会社で、これもその取り組みの一環であった。社員の健康を守るという会社の理念に則っていて、合理的な制限だと判断したようである。就業規則は経営者の思いを表現する場でもあり、合理的な内容であるならば、一定の制限は可能であるとも言える。公明正大にその理由を説明できるのであれば、十分に説得力が生まれそうだ。

(4)タバコを吸ったら懲戒処分は可能か?
以上(1)(2)(3)より、企業が労働者に対してタバコを制限することは可能である。しかし現実にはそれでも吸う人は出てくるだろう。そのような場合、懲戒処分等何らかの処分をすることは可能なのだろうか。結論から述べると、「懲戒処分は困難」と考えられる。労働契約法第15条に懲戒について『客観的に合理的な理由を書き、社会通念上相当であると認められない場合は無効』と明記されているからである。禁煙を推進する部門のトップが自らルールを破った場合などは重大な企業秩序違反として一定の懲戒処分はあり得るかもしれないが、一般的な喫煙でこの労働契約法第15条をクリアできるケースは極めて限られるのではなかろうか。とは言っても、企業として違反者に何のアクションも起こさないのでは、折角の取り組みが水の泡である。実務上の落としどころとしては、口頭又は文書による軽い注意、というところになるかもしれない。

「タバコの一服休憩は不公平だ」
「室内がタバコ臭くて職場に行きたくない」
「飲み会がタバコの煙まみれで気分が悪くなった」

これらは社労士として労務相談をお受けしていて実際にあった苦情である。禁煙者と喫煙者の間には決定的な価値観の対立があり、それが問題解決を困難にしている。しかしながら、タバコが健康を害するという点においては、客観的な事実と言えよう。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」とも言われ、なんといっても健康第一、元気な体が全ての根本である。人手不足のこの時代、社員一人ひとりの健康は重要な経営テーマだろう。今こそ、職場とタバコの関係について真剣に考えるべき時なのかもしれない。


出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

プロフィール

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