今、政府の「働き方改革」の一環で副業・兼業が推奨され始めており、副業・兼業を志向するビジネスパーソンが少なくないという。ところで、副業をしたことにより得る収入というのは、本業の収入が増加した場合と比べて、まったく同じ収入増の効果を持つものだろうか。
「副業による収入」は「本業の収入増」と同じ意味を持つのか

副業は「現在の収入」、本業は「現在と将来の収入」

副業・兼業を始める目的はさまざまだが、最も大きな目的は収入の増加であろう。かつてのような経済成長が見込めず、定期昇給やベースアップも期待しづらい環境の中で、少しでも収入を増やしたいという思いから、平日夜や土日に「何か収入を得る活動ができないか」と考える人が多いといわれている。それでは、仮に副業で1ヵ月当たり5万円の収入があるとした場合、この月5万円の副業収入は、本業の給与が5万円増えるのと全く同じことを意味するのだろうか。

企業にフルタイムで勤務する場合には、厚生年金に加入しながらの勤務となる。厚生年金に加入している場合には、支払われる給与の額に応じて、将来受け取る老後の年金額も変わってくる。つまり、給与が増えれば、その分、将来もらう老後の年金も増えるわけである。そのため、本業の給与が増えることは、単に「現在の収入」が増えることを意味するだけでなく、年金という「将来の収入」が増えることをも意味している。もしも、本業の給与が5万円増えたのであれば、「現在の収入」が5万円増えただけではなく、一般的には年金という「将来の収入」もそれに応じて増えることを意味しているのである。

それでは、副業で毎月5万円の収入を得られる場合はどうか。この場合には、もちろん「現在の収入」が増えることには変わりがないが、年金という「将来の収入」が増える効果は存在しない。つまり、本業の給与と異なり、副業収入は将来の年金収入の増加には全く繋がらないのである。副業による収入は公的年金制度に加入して得た収入ではないからである。

副業では年金は増えない

副業と年金収入の関係について、具体的にご説明しよう。ビジネスパーソンが平日夜や土日に副業を行う場合には、大きく2つの形態が考えられる。ひとつは「企業と雇用契約を結んでの副業」、もうひとつは「個人事業主としての副業」である。

「企業と雇用契約を結んでの副業」とは、(自身のとっての)副業業務を運営する企業に社員として所属し、給与として副業収入を得る方法である。社員として勤務する場合には、勤務時間数や勤務日数によっては厚生年金に加入して勤務することになる。しかしながら、平日夜および土日限定の勤務の場合には、厚生年金の加入が必要になるほどの勤務時間数・勤務日数にはなりにくいため、厚生年金に加入しないでの勤務が一般的である。そのため、副業で得る収入は公的年金制度への加入なしに得る収入となり、年金という「将来の収入」の増加には全く貢献しないことになる。

また、「個人事業主としての副業」とは、副業のために企業には所属せず、個人で業務の依頼を受ける方法である。この場合、フルタイムで厚生年金に加入して会社勤めをしている人が新たに平日夜や土日に個人事業主として働いても、加入中の厚生年金に加えてさらに何らかの公的年金制度に加入するということはない。したがって、個人事業主として得られる副業収入は公的年金制度への加入なしに得る収入となり、年金という「将来の収入」には全く結び付かないことになる。

「副業で収入が増えたのだから、年金も増える」とはならない現実がある。「副業による収入」は「本業の収入増」を完全に代替する機能を持ち合わせておらず、残念ながら副業で得る5万円と本業で得る5万円は同じ価値ではない。

もちろん、「本業の給与」が増えれば支払うべき厚生年金保険料が増えるが、「副業の収入」には支払いを求められる年金保険料が存在しない。そのため、年金保険料をとられない「副業の収入」のほうが有利との考え方もないではない。しかしながら、日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳であり(平成28年簡易生命表/厚生労働省)、リタイア後の人生は思いのほか長い。国の年金は生涯受け取れることをも考え合わせると、年金保険料をとられない「副業の収入」のほうが有利とは必ずしも言い切れない。その意味では、収入増を目指すにあたっては「どうすれば本業の収入増が実現できるか」という視点も忘れてはならないであろう。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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