全6回にわたり、日本企業が今後労働市場から求められる「働きやすさ」をどのように「見える化」し、持続的な企業価値向上につなげていくべきかを考察・提案する連載コラムの第2回目。

 今回は、いま日本企業が健康経営に取り組むべき理由とその効果について、論じていきたい。
働きやすさの「見える化」(2)健康経営で社員も会社も元気になる!

なぜ、いま、健康経営なのか。

*前回記事はこちら

 なぜ「健康」が経営戦略に役立つのか、経営戦略と「健康」とがどのようにして結びつくのか―その答えは主に次の3つに集約される。

≪健康経営に取り組むべき理由(1)~生産年齢人口の減少と人材不足≫

 国立社会保障・人口問題研究所の人口推計によると、2060年には生産年齢人口(15~64歳人口)の全人口に占める割合は約半数までに落ち込むと予測されている。
※平成24年1月時点における出生中位・死亡中位想定での10月1日現在人口推計

 この傾向に歯止めがかからない以上、労働者一人当たりの生産性を高め続けなければ、持続的な経済発展は望めない。
 そうなると、従業員一人ひとりの働き方や働く環境を見直し、改善するという取り組みが全社的に必要になってくることは明白であり、ここに健康経営の目指す企業のあり方が重なることになる。

 一方で、人材不足という側面からも、健康経営の視点は欠かせない。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によると、2015年の有効求人倍率は1.20倍(全産業年平均)となり、今後ますます人材獲得競争が激しさを増すだろう。
労働市場からの新規採用はもちろんのこと、従業員の健康管理に積極的な姿勢は在職者の離職防止にもつながる。社内で確かなキャリアを築いてきた人材を守っていくことで、競争に淘汰されず成長を続ける企業体質が期待できる。

≪健康経営に取り組むべき理由(2)~従業員の高齢化≫

 先の国立社会保障・人口問題研究所の人口推計によれば、同じく2060年の推計高齢化率(全人口に占める65歳以上人口の割合)では、およそ5人に2人は高齢者という将来を予測している。
従業員全体の年齢層が上がっていく中で、加齢にともなう心身の機能低下という課題を抱えながら働いていかねばならない人材が今後ますます増えていく。

 医療技術が進歩した今なお、傷病等により医療機関にかかっている者の割合(通院率)は、40代で27.3%、50代で41.9%、60代で57.7%という(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」)。

 つまり、それだけのリスク(病欠・介護・長期休職・パフォーマンスの低下など)を抱えた従業員の健康をいかにしてマネジメントし、どれだけ健康寿命の延伸に貢献できるかが企業に問われている。

≪健康経営に取り組むべき理由(3)政策・法制度による要請≫

 言わずもがな、現政権の標榜する「働き方改革」の旗印のもと、このところ矢継ぎ早に労働関係法令の改正や各種ガイドラインの策定、助成金の新設・拡充が進んでいる。
これらの推進要因もあって、政府主導の政策や法制度も整えられており、健康経営普及にはずみがついている。詳細は本連載の最終回でまとめて紹介する。

個人管理の“体調管理”から企業主導の健康経営へ。

 「健康でない状態」に起因する労働損失といえば、病欠や休暇・休職などはイメージしやすく、その機会費用も高額に及ぶものと想像されることだろう。
このような、労働力の全部を直接に損なう状態を“アブセンティーイズム”と呼ぶことに対し、出勤はしているものの生産性が落ちている状態(労働力が一部ないし間接に損なわれている状態)を“プレゼンティーイズム”と呼ぶ(ex.抑うつ・腰痛・頭痛・花粉症など)。

 実際、その損失は想像を超えた数値として現実に示されつつある。
 アメリカの研究成果によると、このプレゼンティーイズムによる労働損失は、社会にとっての医療コストの実に63%もの割合を占めていると指摘されている(Paul.H“Presenteeism:At Work-But Out of It”,Harverd Business Review,2004)。

 この数値が示唆するところは、身近な、これまで特に配慮もせず、個々の従業員の自己管理に委ねていたような、いわば“体調不良”といえる健康状態にこそ潜在的な労務リスクが存在しているということである。
 そして、健康経営はそれを最小限にとどめるためのアプローチであり、身近な健康管理の徹底から将来の成長余力を生み出す動力源ともなるのである。

 定義にもとづいた経営的な視点からも、健康経営の有効性を示すことができる。

次の図表は経済産業省・東京証券取引所「健康経営銘柄2016選定企業紹介レポート」より引用したものである。



この図表から読み取れることは、株価指数を比べた際、TOPIXに比べ、当該銘柄に選定された企業群、あるいは非選定の高評価企業群の方が明らかに上回っているということである。

このほかにも健康経営についての実証研究が諸外国で複数報告されている。国内での直接的な成果報告は、今後の調査研究を待たなければならず、いまだ確固としたベンチマークが示せるわけではない。

しかしながら、少なくとも健康経営と企業業績との正の相関関係を否定することはできないだろう。
だが、国内でも今後、数値に必ずしも表現できない成果も、個々の従業員や職場の人間関係、社風といったものに時間をかけて現れてくることだろう。

健康経営はその実践を中長期で継続することに価値があり、企業の体質改善・血流促進ともいえる経営の基盤を強固にするためのものとご認識いただきたい。

次回は具体的な実践方法について、実際の事例を交えながらご紹介する。

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です


社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー
代表 健康経営アドバイザー 楚山 和司

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