「立つ鳥跡を濁さず」ということわざがある。「故事ことわざ辞典」によると、「立つ鳥跡を濁さずとは、立ち去る者は、見苦しくないようきれいに始末をしていくべきという戒め。また、引き際は美しくあるべきだということ。」とされている。
引き際を美しく、というのは日本人らしい美徳であるように感じられる。
退職の際にもこのことわざが使われる場合があるが、最近は跡を濁す退職者も増えているようだ。

立つ鳥跡を濁す退職者達

厚生労働省の資料によると、卒業後3年以内に離職する者の割合は、中学卒で約6割、高校卒で約4割、大学卒で約3割となっている。いずれも高水準で推移しており、離職することに抵抗がなくなってきていることも原因かもしれない。
当職が相談を受けることが多いケースとして、突然辞めると言いだし、残った全ての有休を消化し、引き継ぎもろくにせず辞めていくケースがある。こういったとき、募集・採用に費やされた時間・費用、入社後の研修等に費やされた時間・費用、その従業員が突然退職することによるクレーム発生等による営業損害等、企業が被る損害は莫大となる場合がある。企業としては何か対策はできないのであろうか。

有休は、従業員に労働基準法(以下「労基法」という。)第39条により法律上認められた権利であり、従業員が有休を請求した場合、会社はそれを拒否することはできない。会社ができることといえば、労基法第39条第4項による時季変更権を行使できるくらいだ。時季変更権とは、従業員の有休取得の時季指定に対して、会社が取得時季を変更させる権利のことをいう。時季変更権を行使できるのは、申請された時季に有休を認めると事業の正常な運営の妨げになる場合に限られる。
しかし、従業員が退職日を指定して残余の有休取得を申し出た場合、会社が時季変更権を行使する余地がない場合がある。退職日を超えて時季変更権を行使することができないからだ。

立つ鳥跡を濁させない方法はあるのか

そういった場合、まず、就業規則の退職日の定めを確認したい。
民法第627条第1項により、従業員の退職については、2週間前の申し出により2週間経過後は自動的に退職となる。就業規則において退職希望日の1〜3ヵ月前に退職の申し出をしないといけないと定めてあることが多いが、この定めについては、社会通念上合理的な場合従業員は拘束される。退職希望日が就業規則に反している場合、順守するよう促し、本人の同意の上退職時期を延期して貰う事ができるのだ。
また、就業規則の定めに反して引き継ぎをしない、ということであれば、懲戒処分の対象とすることも可能であるし、退職金の減額条項を退職金規程に定めておけば、退職金の減額も可能となってくる場合がある。

退職日を延期して貰えない場合、「有給の買い取り」を検討したい。
有休の権利については、労使間で合意があっても原則これを買い上げることはできない。しかし、労基法で定める法定日数を超えて付与される部分や、退職等により消滅した日数については、買い上げが可能である。有休を買い上げることを前提に引き継ぎをして貰うことも可能である。
最後に、有休の買い上げも拒否する場合であるが、休日出勤を命令する、という方法がある。有休は、本来労働義務のある日の労働を免除する制度である。休日は労働日ではないため、有休取得の余地はない。よって、休日出勤を命じ、従わない場合は業務命令違反とし懲戒処分の対象とすることもできる。

退職の仕方があまりにも酷いと、損害賠償の請求を考える場合もあるかと思う。従業員が引き継ぎを一切行わず損害を被った場合、引き継ぎ義務違反による債務不履行、故意に引き継ぎを行わず損害を発生させたことによる不法行為に基づく損害賠償請求、労働契約に付随する信義則義務違反ということで損害賠償請求も可能であると思われる。しかし、実際は、因果関係や損害の立証等が難しい場合が多く、損害額の回収が難しいケースが多い。

「立つ鳥跡を濁さず」の実際であるが、鳥は飛び立つ時に体重を出来るだけ軽くしようと糞をするそうである。当職も幼少の頃インコを飼っていたが、必ず肩から飛び立つときはお土産を残しておいてくれたものである。従業員の突然の退職そのものを防止することは法律上不可能であるし、退職時に大なり小なりお土産を残すケースは少なくはない。
そうなると、一番の対策は、退職時にトラブりそうな傾向のある人を採用しない、ということに尽きる。転職回数が多い人を採用しない、としている企業も多いが、転職回数が多い人は転職する際に自分の利益を優先し転職する傾向にあるので、退職時にトラブる場合も多いようだ。採用の際に過去の転職回数や転職理由も確認した上で、人間性を見極め採用することが重要といえる。
                      


松田社労士事務所
特定社会保険労務士 松田 法子