第186回国会(常会)で、多くの改正法案が提出されたが、その中で、企業の人事部に関係が深い改正は、以下の部分と思われる。労働関係の法改正は多く、そのたびに企業は対応に悩まされることも少なくないが、幸い今回の法改正案では、派遣業以外の会社にとっては、それほど悩ましいものはないようである。
平成26年の労働関係の法改正まとめ

【雇用保険法】(平成26年4月1日施行)
・育児休業給付の充実
 育児休業給付(休業開始前賃金の50%を支給)について、1歳未満の子を養育するための育児休業をする場合の休業開始後6ヶ月につき、休業開始前の賃金に対する給付割合を67%に引き上げ。

 最初の半年だけ割合が上がり、7ヶ月目からは従来の50%に戻るため、妻が最初の半年間取得し、その後は夫に交代すると、ずっと67%もらえることになる。男性の育児休業取得を促進するための改正と言われている。とは言え、割増率だけで育児休業を取得するわけでもないでだろうから、実際に取得率を上げるには、企業側の体制整備も必須である。働き盛りの社員に半年間の休業を与えることができる企業は、まだまだ少ないのが現実かもしれない。

【厚生年金保険法】(平成26年4月1日施行)
・産前産後休業期間中の保険料免除
 平成26年4月1日から、産前産後休業期間中(産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間)の保険料が免除。保険料が免除された期間は、それまでの保険料額を納めたとみなして、将来の年金額が計算される。
・産前産後休業を終了した際の標準報酬の改定
 産前産後休業終了後に報酬が下がった場合は、産前産後休業終了後の3ヶ月間の報酬額をもとに、新しい標準報酬月額を決定し、その翌月から改定。

 以前から育児休業中の社会保険料免除があったが、それが産前産後にも広がった。従業員も会社も負担が減るので、該当者が出たら忘れず手続をしたい。厚生年金法とあるが、健康保険についても同様である。

【パートタイム労働法】(公布から1年以内に施行)
・短時間労働者の均等・均衡待遇の確保
 通常の労働者と差別的取扱いが禁止される「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」の範囲を拡大。改正前は、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」は、(1)職務の内容が通常の労働者と同一、(2)人材活用の仕組みが通常の労働者と同一、(3)無期労働契約を締結している、の3点の条件が必要だったが、(3)が削除され、(1)(2)が同一であれば、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当し、差別的取扱いが禁止された。
・短時間労働者の納得性を高めるための措置
 短時間労働者を雇い入れたときは、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置の内容について、事業主が説明する義務を導入。

 通常の労働者との差別禁止に加え、短時間勤務の労働者を雇うときの説明義務が追加された。元々、短時間労働者を雇うときの労働条件明示が義務化されている事項は、通常の労働者に比べて少し多い。これも含めて、社内で対応できているかの確認は必要である。

【労働安全衛生法】(平成27年4月1日予定)
・ストレスチェック制度の創設
 労働者の心理的な負担の程度を把握するための、医師、保健師等による検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務付け。ただし、従業員50人未満の事業場については当分の間努力義務。労働者側の受診は義務化されていない。

 メンタルヘルス対策として注目されている改正である。受診した労働者の申し出があれば医師の面談を受けさせ、必要に応じた措置を講じなければならない。

【有期雇用の特別措置法】(平成27年4月1日予定)
 昨年4月に施行された改正労働契約法において、同一職場で5年以上働いている有期契約社員が無期契約への転換を申し出れば、企業側は拒否できない「5年超ルール」ができたが、そのルールについて「有期の業務に就く高度専門的知識を有する有期雇用労働者等」を対象に特例を設けるもの。
 「有期の業務に就く高度専門的知識を有する有期雇用労働者等」とは、
(1)一定の期間内に完了する業務に従事する高収入かつ高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者(上限10年)
(2)定年後に有期契約で継続雇用される高齢者

 定年後の再雇用の高齢者も5年ルールで無期雇用になるのかと議論されていたが、この改正で決着した。ただ、いずれにしても有期契約社員を雇用している会社は、就業規則の変更は必要になるかもしれない。

*平成26年4月20日時点の情報で、まだ審議中のものも含まれています。実際の施行時の情報をご確認ください。


社会保険労務士法人日本人事 織田 純代

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