現代はストレス社会と呼ばれるほど、多くの人々が日々ストレスを感じ、仕事に集中できなかったり、身体の不調を抱えていたりする。そのため、従業員の心身に対するサポートに注力する企業が多くなっている。そこで、推奨したいのが「マインドフルネス」だ。このところ、ビジネスのジャンルでも話題になっており、社員研修のメニューとして導入する企業が増えている。「マインドフルネス」とは何か、どのような効果があるのか、どんなステップで行うのか、実際に導入した企業の事例も交えて詳細に説明していきたい。
「マインドフルネス」の意味や効果とは? 瞑想のやり方や導入事例も紹介

「マインドフルネス」とは

「マインドフルネス」とは、心配事や不安、先入観などの雑念を取り払い、“今・この瞬間”における身体の五感に集中し、目の前にある現実・現状をあるがままに受け入れる実践技法を言う。手法としては、瞑想が一般的だ。意識を集中させることで高いパフォーマンスを発揮できるとあって、組織開発や人材育成などビジネスシーンでも活用されている。

「マインドフルネス」が注目される背景

今なぜ「マインドフルネス」が注目されるのであろうか。その背景を紐解いてみたい。

●労働人口の減少

少子高齢化により、日本の労働人口は減少傾向にある。それだけに、どの企業も人材不足に悩まされている。新規採用が難しいのであれば、今在籍している従業員のパフォーマンスを最大限に引き上げるしかない。そのための手法として、「マインドフルネス」が注目されている。

●メンタルヘルス問題の増加

昨今は、従業員のメンタルヘルス問題もクローズアップされている。原因は、人材不足に伴う労働過多もあるが、働く目的や仕事の意味が見出せずモチベーションが維持できない従業員が増えていることも挙げられる。

●有名企業が導入している

「マインドフルネス」は、世界を席巻する企業であるGoogleやアップルがいち早く実践し、成果を導いた。その取り組みが取り上げらたことで注目度が一気に高まった。また、トヨタやYahoo!などの日本法人でも社員教育の一環として導入されている。

「マインドフルネス」で期待できる効果

では、実際に「マインドフルネス」によって期待できる効果には、どのようなものがあるのであろうか。「マインドフルネス」に関する研究では、その有用性が科学的に実証されているものは多くはないが、限定的に有用性が報告された例も含めて紹介する。

●集中力の向上

「マインドフルネス」を行うことで、集中力が自ずと高まる。過去や未来を考えすぎなくなると仕事に取り組む際の雑念を取り払えるので、目の前のことに集中できるからだ。また、「ミスをしたら困る」などという不安にも陥りにくい。仕事のパフォーマンスは自ずと高まるはずだ。

●自己認識力(セルフアウェアネス)の向上

自己認識力(セルフアウェアネス)とは、自分の内面と向き合い理解を深めることを指す。「マインドフルネス」によって、この能力が高まり、自分の感情を制御しやすくなる。結果的に、自分がすべきことが明確になるので、仕事のパフォーマンスを上げることができる。

●ストレスや不安、抑うつの軽減

ストレスや不安は、過去や未来のできごとに対して抱くとされている。「マインドフルネス」を実践することで、目の前に意識を向けられるようになれば、過去や未来ばかりを考えなくなる。

事実、2018年に米国国立補完統合衛生センターがサポートした解析によれば、「マインドフルネス瞑想」が、不安症やうつ病の症状がある人に効果があるとの研究成果が報告されている。また、その他の研究ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状軽減にも効果があるとの結果も出ている。さらに「マインドフルネス」による行動抑制の向上が抑うつ症状の減少につながることもわかっている。

●相手を思いやる余裕が生まれる

瞑想を続けることで自身の精神状態が維持できると、心に余裕が生まれるので相手により一層注意を向けやすくなる。その分、相手に気配りをしたり、思いやったりするようになるのでコミュニケーションが円滑に進められる。

●睡眠の質向上

「マインドフルネス」を実践すると、心身共にリラックスした状態になれる。また、呼吸が深くなるので睡眠の質向上も期待できる。実際、「マインドフルネス」を行ったことで教育に基づく治療よりも睡眠の質が向上したという研究報告も見られる。

●血圧の低下

2020年のいくつかの研究では、マインドフルな瞑想プログラムであるマインドフルネス・ストレス軽減法が、高血圧症に罹患している人の血圧低下に関連しているとの研究報告が寄せられている。

ただし「マインドフルネス」が血圧に及ぼす影響を調査した質の高い研究がないのが現状で、米国心臓協会によれば、瞑想が有用である可能性はあるが、血圧への具体的な効果が確定しているわけではないとされている。

●急性・慢性疼痛の軽減

「マインドフルネス」や瞑想が疼痛に対して有用であるという研究結果がある。2020年に米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)が支援した研究では、急性・慢性疼痛で医療用麻薬を用いている人が瞑想を実践したところ、症状が軽減したという。また、マインドフルネス・ストレス軽減法が6カ月未満の腰痛にも効果があるとの報告も見られる。

もっとも、なかには頭痛の頻度や強さは減少しないことや維筋痛症の痛みの改善には作用しないことが報告されるなど、限定的なエビデンスも少なくないため、確実に有用性があるとは言い切れない。

「マインドフルネス瞑想」のフレームワークとやり方

次に、「マインドフルネス瞑想」のフレームワークとそのやり方を紹介しよう。

●呼吸瞑想法(マインドフルネス瞑想)

呼吸瞑想法、別名「マインドフルネス瞑想」とは「マインドフルネス」と瞑想を組み合わせた概念だ。基本姿勢は以下の流れとなる。

(1)椅子に座り、姿勢を正す。
(2)軽く目を閉じ、深呼吸を行う。
(3)呼吸することに意識を集中させる。
(4)10分程度、繰り返す。

●葉っぱのワーク

葉っぱのワークは、自動思考に対する「マインドフルネス」だ。やり方は、以下のようになる。

(1)目の前に大きな川が流れていて、上流から葉っぱが1枚ずつ流れる場面を思い浮かべる。
(2)その場面から浮かんでくる言葉を一つずつ葉っぱに乗せてみる。
(3)自然と葉っぱが流れていくイメージを大切にして自然と消えるのを待つ。

●レーズンエクササイズ

レーズンエクササイズは、自分の行動を細分化し吟味し直すための手法だ。やり方は以下のようになる。

(1)レーズンを1粒手に取る。
(2)そのレーズンを食べながら、見た目や匂い、感触、風味を味わう。
(3)上記のステップを踏むなかで、感じたこと・気づいたことを自然体で受容する。
(4)その際に思考したことも受け入れる。

●ジャーナリング

ジャーナリングとは、10分弱ほどの時間で頭の中に思い浮かんだ事柄を順番に書き出していく手法を言う。「脳の排水」と称されることもある。実際に行う際には、以下の点に注意を要する。
・特定のテーマを設け、設定した時間内ではずっと書き出していく。
・とにかく手を動かす。
・プライベートな空間で行う。
・アレンジせず、そのままの気持ちを書き出す。

「マインドフルネス瞑想」のポイント

ここでは、「マインドフルネス瞑想」を行う際のポイントを整理したい。

●目的意識を持つ

まずは、「マインドフルネス瞑想」を行う目的を明確化させることだ。それによって、効果が一段と高められる。「不安な気持ちを和らげたい」「心を鎮めたい」「頭をすっきりさせたい」など、何のために実施するのかを意識することだ。

●雑念を流す

「マインドフルネス瞑想」では、雑音や雑念を取り払う必要がある。それらに意識が捉われてしまうと効果が低減してしまうからだ。もし、意識が向いてしまった場合には、改めて深呼吸しそれらを川に流してしまうイメージで、再度瞑想をすることが望まれる。

●良い・悪いの判断をしない

「マインドフルネス瞑想」を行う上では、良い・悪いの評価や判断をしないようにしたい。それらを行うことで集中が途切れてしまうからだ。ありのままに感じて受け入れる。それに徹することが重要となる。

●継続的に行う

毎日継続し、習慣化させることも「マインドフルネス瞑想」の効果を高めるコツと言える。短い時間であっても問題はない。この時間は瞑想タイムだと設定し、それをルーティン化させれば良いのである。継続していくうちに、少なからず効果を実感できれば実践すること自体が楽しくなってくるはずだ。

企業が「マインドフルネス」を取り入れるメリット

企業が「マインドフルネス」を取り入れるとどのようなメリットが得られるのかを整理しておこう。

●従業員のメンタルヘルスケア

「マインドフルネス」は、従業員のメンタルヘルスケアに効果があると指摘されている。なぜなら、さまざまな問題やストレスが生じた際に呼吸に意識を向けることで、あるがままを受け入れられ、自分の感情をコントロールできるからだ。

●パフォーマンス向上

「マインドフルネス」は、従業員のパフォーマンス向上につながると言われている。思考力や集中力を高めてくれるからだ。ヤフーの社内調査でも、「マインドフルネス」を実施した後にプレゼンティーズが40%ほど改善したと報告されている。

●リーダー育成

「マインドフルネス」はリーダー育成にも役立つ。リーダーに求められるEQという能力を磨き、リーダーシップを向上させるからである。

●レジリエンス向上

「マインドフルネス」はレジリエンスを向上させてくれる。なぜなら、自分の内面と向き合い、自己認識することで感情をコントロールしやすくなるからだ。

●チームワーク向上

「マインドフルネス」を実践することで、チームワークを向上させられる。自己肯定感が高まるだけに、他のメンバーに対する理解や共感力を醸成されるからだ。チームの志気が上がり、パートナーシップも強固なものとなると言って良い。

●クリエイティブ能力向上

「マインドフルネス」は、クリエイティブ能力の向上をもたらす。なぜなら、気持ちがリラックスするので副交感神経が優位となり、直感や想像力が活発に働くからだ。よって、「マインドフルネス」を継続することで、質の高いアウトプットが期待できる。

「マインドフルネス」導入の企業事例

最後に、「マインドフルネス」の導入事例を取り上げたい。

●Google

Googleでは、社内エンジニアであったチャディー・メン・タン氏が2007年に開発した「Search Inside Yourself」というマインドフルネスの研修プログラムを導入したことをきっかけに社内で広がっていった。これは、自己認識や自己制御、モチベーション、共感、コミュニケーションという5つの要素に着目し、心と思考力を強化するプログラムであった。導入した目的は、ストレスの低減や集中力の向上、創造性の向上などだ。当初は自主参加であったが、多くの参加者がその効果を絶賛したため、世界的に話題となった。

●Sansan

Sansanは、名刺交換ツールで名高い日本企業だ。従業員の生産性向上を目的として、2018年1月国内で初めて「マインドフルネス」を研修に採用した。目的は生産性の向上だ。当初、全マネージャーを対象に実践したところ、80%がリーダーシップやモチベーションにおいてその効果を実感。以後は、全従業員を対象として行っている。

まとめ

「マインドフルネス」と聞くと、瞑想を連想しがちなので精神世界に根付いたものと考える人もいる。実は、人間の脳に対して科学的にアプローチする手法と言われている。その効果も年々立証されてきており、さまざまな企業で導入されている。期待されているメリットは、従業員のメンタルヘルスや、パフォーマンス向上による生産性のアップと組織力の強化だ。それらを課題としている企業にとっては、研修の導入を検討するに値すると言えよう。現代は激動の時代である。その荒波を乗り越えていくためには、何よりも従業員における心身の健康が欠かせない。改めて、「マインドフルネス」の重要性を捉え直したいものだ。

よくある質問

●「マインドフルネス」をやってはいけない人は?

重度のうつ病を抱えている人やネガティブな感情を抱えている状態では、「マインドフルネス」によって、さらに症状が悪化したり、不安感がさらに増大したりしてしまう危険性がある。精神疾患を抱えている人や不安定な精神状態にある人は必ず医師に相談してから行ってほしい。

●「マインドフルネス」瞑想で期待できる効果は?

「マインドフルネス」は、その有用性が科学的に実証されているものもあるが、なかには限定的なエビデンスに基づくものもある。そのためすべてが確証されているわけではないが、期待できる効果には、「集中力の向上」、「自己認識力(セルフアウェアネス)の向上」、「ストレスや不安、抑うつの軽減」、「相手を思いやる余裕が生まれる」、「睡眠の質向上」、「血圧の低下」、「急性・慢性疼痛の軽減」などが挙げられる。

●「マインドフルネス」導入による企業のメリットは?

「マインドフルネス」の研修などを導入することで企業は、「従業員のメンタルヘルスケア」、「パフォーマンス向上」、「リーダー育成」、「レジリエンス向上」、「チームワーク向上」、「クリエイティブ能力向上」などのメリットを享受することができる。
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