「ナレッジ」とは、書籍や新聞などから得られる知識や情報を指す。生産性の向上が叫ばれる今日、社員各自が持ち得る「ナレッジ」を会社全体で共有していくことが求められている。そこで、本記事では「ナレッジ」やノウハウの違いとは何か。社内で共有したり、蓄積したりするために知っておくべきツールやマネジメントの考え方を解説していきたい。
「ナレッジ」の意味やノウハウとの違いとは? 社内で共有や蓄積するために知っておきたいツールやマネジメントの考え方なども解説

「ナレッジ」の意味やノウハウとの違い

最初に、「ナレッジ」とは何か、ノウハウなどの類語とどう違うのを解説していこう。「ナレッジ」とは、書籍や新聞などから得られる知識や情報を意味する。加えて、ビジネスシーンにおける「ナレッジ」は、企業や組織が培ってきた過去の事例や付加価値のある経験、技術、技能などを含めて言うことが多い。いずれも、人に伝えやすく、かつ蓄積できるものなので、上手く活用することで業務に活かすことができる。

●「ナレッジ」がビジネスで注目されている背景

近年、「ナレッジ」がなぜビジネスシーンで注目されているのか。その背景には生産性の向上が急務となってきていることがある。人手不足がますます加速しているだけに、現有の戦力をいかに最大活用するかが問われている。そのためには、社内に散在する優れた知識を全員で共有できるようにして、業務の改善や利益の創出につなげていかなければならない。

●「ナレッジ」を蓄積する重要性

・業務効率化・生産性向上
企業として「ナレッジ」を蓄積・運用することで、業務効率化や生産性向上につなげられる。どうしても社員の能力や知識、スキルには差がある。「ナレッジ」を用いれば、業務における無駄もなくなり、業務品質のばらつきをなくすこともできる。

・顧客満足度の向上
顧客とのやりとりを蓄積することで、顧客対応のばらつきがなくなる。また、顧客のニーズやクレームに対してどう対応すれば良いかが明確にもなるため、結果的に顧客満足度を向上させることができる。

・人材育成のサポート
「ナレッジ」が体系化されていると、マニュアルのレベルが格段に向上するので、研修やOJTにおいても教材として利用できる。それを社員が事前に自習しておけば、理解度も高まり、教育担当の負担を軽減することが可能だ。

・業務の属人化防止
業務の「ナレッジ」が社内に蓄積・共有されていると、業務を自分一人で抱え込むのは難しくなる。いわゆる、属人化を防止することができる。もし、業務が属人化してしまうと、担当者以外は誰もその業務に関してわからなくなり、何かあった時に対応できなくなってしまう。

●ノウハウやスキル、ハウツーとの違

・ノウハウとの違い
ノウハウは、現場での体験から得られる知見や方法論を指す。ビジネスシーンでは、手続き的知識というニュアンスを持ち合わせる。「ナレッジ」が言葉や文字から得られる有益な知識や情報、付加価値のある経験を意味するのに対し、ノウハウは「ナレッジ」を実際の業務の中で試してみて培われた知恵という点で違いがある。また、「ナレッジ」は共有しやすいが、ノウハウは経験から得られないので、共有が難しいとされている。

・スキルとの違い
スキルとは、個人が仕事やスポーツなどを実体験する中で身に付けた専門的な技術・技能を表わす。ノウハウは基本的な知識や技術のイメージが強い一方、スキルはそれ以上に深い理解が必要となってくる。また、ノウハウと同様に経験から得られるものであって、共有は困難と言える。

・ハウツーとの違い
ハウツーは、実用的なやり方を説いた手引きを意味する。誰かに教えられることで身に付く基礎レベルの技術というニュアンスが強い。「ナレッジ」にはより広範囲な知識かつ高度な知見が含まれる。

社内での構築や共有に向けて知っておきたい「ナレッジベース」や「ナレッジマネジメント」とは何か

次に、「ナレッジ」に関連する用語の「ナレッジベース」や「ナレッジマネジメント」などについても理解しておきたい。

●ナレッジベース

「ナレッジベース」とは、業務に役立つ社員の知識や経験を網羅したデータベースのことを言う。特定の個人が自分だけで知識を使うのではなく、組織内のメンバーが全員そのデータベースにアクセスし、自由に取り出すことができるようになっている。

・「ナレッジベース」のメリット
「ナレッジベース」には3つのメリットがある。

(1)情報共有の円滑化
「ナレッジベース」が構築されていると、メンバーは業務遂行に必要な情報や知識をスピーディーに入手できる。また、随時アップデートしておけば、いつでも最新の情報や知識を得ることが可能だ。しかも、メンバーがそれぞれデータベースに直接アクセスできるので、伝達ミスをなくせる。

(2)業務の効率化
良く使用する定型文書や業務フローも「ナレッジベース」にストックしておけば、それをベースに資料をスピーディーに作成することが可能となる。組織内で新たなメンバーが加わったとしても、「ナレッジベース」に蓄積された知識や情報を活用することで業務を効率的に進めていける。

(3)業務スピードの向上
情報共有と業務効率化が進むと、自ずと業務スピードを高めることができる。例えば、顧客からの問い合わせやクレームに関する情報も「ナレッジベース」に集約し、メンバー間で共有しておくと対処の仕方に齟齬がなくなるので、顧客への対応力も一段と高められる。

・「ナレッジベース」の構築ツール
「ナレッジベース」を構築する際に便利なツールがいくつかある。それらも併せて紹介しよう。

(1)データベース型
これは、知識情報検索型とも称される。大量のデータを蓄え、必要に応じて簡単に検索や抽出ができるタイプだ。目的に合わせてさまざまな使い方が可能なので、応用性に優れたツールと言える。

(2)ヘルプデスク型
文書ファイルをメインに扱うタイプである。回数の多い質問に関するFAQを作成したり、社内や顧客からのクレームや問い合わせ内容を自動的にデータ化したりする際に良く用いられる。

(3)グループウェア型
ネットワークを活用した情報共有に便利なタイプだ。具体的にはメールやチャット、ファイル共有やスケジュール管理などの機能を備え、メンバー間でコミュニケーションを図ったり、進捗状況を確認したりできる。

(4)社内wiki型
インターネット上の百科事典である「Wikipedia(ウィキペディア)」の社内版と言える。アクセス権を持ったメンバーが仕事に役立つ情報を検索・閲覧できるだけでなく、自ら書き込んだり、編集したりできる。知識や情報の共有がよりスムーズになるので、組織全体の業務効率が格段にアップする。

●ナレッジワーカー

「ナレッジワーカー」とは、著名な経営学者・社会学者であるピーター・ドラッカーが提唱した用語である。自らの豊富な知識を活かして、新たなアイデアを生み出し企業価値を向上させてくれる知識労働者を意味する。ネットワーク技術の進展とともに、その働きぶりがますます注目されている。

・「ナレッジワーカー」の主な職種
次に、具体的に「ナレッジワーカー」がどのような職種を指すのかを解説したい。

(1)コンサルタント
コンサルタントとは、特定の分野に関する豊富な知見や経験を活かして顧客に対してコンサルティングを行う人を言う。代表的な分野としては、経営や投資、人事、医業経営などが挙げられる。

(2)金融アナリスト、金融ディーラー
金融アナリストとは、国内外でのさまざまなマーケット情報を収集したり、政治・経済などの動向を分析したりしながら、資産運用を専門的にサポートする人を指す。また、金融ディーラーとは、金融機関が顧客から預かった債券や株、為替などの資金を運用する仕事である。

(3)ITエンジニア
ITエンジニアとは、情報技術に関する専門知識を持った技術者を言う。主にコンピュータのシステム設計に携わっている。

・ナレッジワーカーに求められる主な能力

(1)コミュニケーション力
「ナレッジワーカー」には、必要な情報を引き出すコミュニケーション力が欠かせない。時間も無限にあるわけではなく、こちらが欲しい情報を相手が次々と語ってくれるはずもない。単に聞いているだけでなく、相手にフィードバックするようにしなければ、より上質な情報は得られないと言って良い。

(2)情報収集力
「ナレッジワーカー」にとって情報は最強の武器となり得る。単に聞き出すだけでは十分ではない。集めた情報を取捨選択し、足りない情報があれば、さらにアクションを起こす。場合によっては専門外の情報や知識を求められるケースもあるかもしれない。そんな場合でも、誰からどんな方法で収集するかを考える能力も重要となってくる。

●ナレッジマネジメント

「ナレッジマネジメント」とは、社員が業務を通じて得た「ナレッジ」を管理しながら、業務を効率化したり、企業価値を高めたりしていく経営手法だ。社員が個人レベルで得た知識を暗黙知として個人の中で蓄積するのではなく、データベースとして蓄積・共有し、組織の形式知へと昇華させるマネジメントと言い換えても良い。

・ナレッジマネジメントのメリット

(1)組織内の連携がスムーズになる
「ナレッジマネジメント」を行うと、メンバー同士が連絡を取り合う頻度が高まり、組織内の連携が強化される。これに伴い、部署間の情報共有や意見交換も活発化する。「ナレッジ」が全体に行き渡ることで提案力や発想力も底上げされ、イノベ―ティブなアイデアが生まれやすくなるだろう。

(2)生産性の向上
特定のメンバーだけが占有していた仕事に役立つ情報やコツを組織全体で共有できると生産性の向上につながりやすい。これまでは、その情報やコツを知らないがゆえに、仕事が度々滞ることがあったかもしれないが、解消の一助となるだろう。

(3)業務の属人化をなくす
特定のメンバーがある業務に関する情報や知識を抱え込んでしまうと、もし当人が病気や怪我で会社を長期に休んだリ、場合によっては退職してしまったりすると、誰もその業務を引き継げなくなってしまう。下手をすると事業に大きな影響をもたらすことも予想される。

(4)人材教育・人材育成の効率化
「ナレッジマネジメント」は人材教育・育成においても効果がある。新入社員や新たな業務に取り組む社員に向けて必要なノウハウを、「ナレッジ」として的確に伝えやすくなるからだ。

・「ナレッジマネジメント」を形成する概念
「ナレッジマネジメント」を形成する概念は、以下の3つに大別される。

(1)暗黙知
「暗黙知」とは、個人の主観的な知識である。言語化されていない、あるいは言語化できない知識とも言い換えられる。職人気質や職人技はその最たるものだ。第三者に伝えるのはかなり難易度が高い。

(2)形式知
「形式知」とは、個人の主観に基づく「暗黙知」を文章や図表を交えて、全員が共有・活用できるよう「ナレッジ」へと置き換えたものを言う。客観的な知識、言語化された知識とも表現できる。

(3)SECIモデル
個人が独自で持っている「暗黙知」を「形式知」へと変換・移転した上で、新たなアイデアや気づきを得るためのプロセスを「SECI(セキ)モデル」と言う。このモデルは以下の4つのプロセスから構成されている。

・共同化(Socialization):先輩社員と共に業務をしながら知識や技術を身に付けるなど、経験を通じて「暗黙知」を「形式知」へと移転させるプロセス。
・表出化(Externalization):言語や図表を駆使して「暗黙知」を「形式知」に変換するプロセス。
・連結化(Combination):新たに生み出された「形式知」と既存の「形式知」を組み合わせて、これまでにない知識を形成していくプロセス。
・内面化(Internalization):新たに形成された「形式知」を蓄積・熟成させて、より使い勝手を良くするプロセス。

・「ナレッジマネジメント」が上手くいっていない理由
実際のところ、多くの企業では「ナレッジマネジメント」が上手くいっていない。その理由としては、「目的をしっかり定めていない」「最初から一気に全社レベルで導入してしまい運用が回らなくなった」「ナレッジマネジメントを行うための運用ルールや仕組みが整っていない」などが指摘されている。
今回は、「ナレッジ」とノウハウの違いを解説した。シンプルに言えば「ナレッジは」は知識、ノウハウは実体験を通じて「ナレッジ」を昇華させた知恵となる。間違いなく、いずれも組織にとって重要なものだ。日々、社員一人ひとりが業務を通じてさまざまな「ナレッジ」を得る。それを個人の中だけで埋もれさせてしまうのはもったいない。全体で共有し、全員で活用していく。その先に、生産性のアップ、顧客満足度の向上、人材育成のサポート、ひいては企業価値の向上が待っている。今、クローズアップされる人的資本経営という観点からも、重要な取り組みとなってくるだろう。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!