2023年4月から実行に移される「第14次労働災害防止計画」では、新たに「転倒による労働災害」への対策が加えられ、重点的に取り扱っているのが特徴です。なぜ今、転倒が問題になっているのでしょうか。今回は、その背景を説明するとともに、“転倒の予防”についてもお話しいたします。
2023年4月以降は「職場での転倒」による労災に改めて注意を! 「労働災害防止計画」を参考に“自社でできる対策”を紹介

「転倒による労災」は増加の傾向

皆さんは「労働災害防止計画」をご存じでしょうか。

日本がまさに高度経済成長期に入ろうとする昭和30年代当時、労働災害が多発していました。年間に6,000人近い死者を含め、70万人が労災の犠牲になり、しかもその数は年々増加の傾向にありました。

そこで1958年(昭和33年)、岸伸介内閣の下で「(第一次)労働災害防止5カ年計画」が立てられました。なお、「労働災害防止計画」は個々の企業を規制するものではなく、これに従って新たな政策を打ち立てるためのものとされています。この取り組みは功を奏し、労災での死傷者数は減少傾向に転じました。労働災害防止計画は5年おきに見直されて新たな政策を生み、1996年(平成8年)には、ついに労働災害による死者が1,000人を切るに至りました。そして2023年4月、第14次の労働災害防止計画が実行に移されます。

労働に関して近年課題となっているのは、「高年齢労働者対策」、「外国人労働者対策」、「メンタルヘルス対策」です。新しい「第14次労働災害防止計画」では、これらに加えて新たに「転倒による労働災害」を挙げた上で、これを重点的に取り扱っていることが特徴です。転倒は労働災害の約4分の1を占め、年々増加傾向にあります。その上、転倒によるケガの約4割が休業1ヵ月以上のケガです。

こうした転倒による労働災害の増加は、「高年齢労働者の増加」と密接な関係があります。高齢者は筋力や反射神経が衰えている上、特に女性は骨粗しょう症などにより骨折しやすい傾向があります。このため、若いころに比べて転倒しやすく、また転んだ際に大きなけがにつながりやすいのです。

また、高齢になると重量物を運ぶような作業は難しいため、サービス業などの第3次産業に就く傾向があり、就職先も中小事業者が多くなります。しかし、第3次産業と中小事業者は安全衛生対策の取り組みが遅れている職域です。そのため、安全衛生対策が十分でない職場環境で高齢者が働くことが、転倒事故の増加につながっています。実際「働いている人数」に対し、「転倒して労働災害となった人数」の割合は、40代から50代を境に急増し、特に60代女性は20代女性の約16倍の発生率となっていることが示されています。

自社でできる転倒防止策は?

事業者には、従業員を安全に働かせる安全配慮義務があります。転倒防止対策は比較的安価な方法で取り組むことができるため、まずは職場の転倒予防に取り組みましょう。転倒災害の原因は、「滑り」、「つまずき」、「踏み外し」の3つに大きく分けられます。その防止策として有効なのは、「(1)整理整頓」、「(2)清掃」、「(3)運動」です。



上記の転倒防止策(1)および(2)について、転倒が発生しやすい場所である「段差」、「床」、「階段」を例に挙げて対策を考えてみましょう。

●段差

段差は「つまずき」の原因になります。対策として最も簡単なのは、段差のある箇所を物理的に塞いでしまうことです。これが難しい場合は、赤や黄色のラインを引いたり、「段差注意」の警告を床面に書いたりといった方法で、転倒防止に対する意識を強めることもできます。

●床

機械のケーブルなどが通路に出ないよう、また通路に物を置かないよう、整理整頓を心がけることが大切です。また、調理場のような油を使う箇所は、床が滑りやすくなるため要注意です。こうした箇所では、「オイルパンを設置して床に直接油が落ちることを防ぐ」といった対策が考えられます。この場合、オイルパンを定期的に清掃することも大切です。

●階段

ステップの端に黄色い滑り止めテープを貼ることで、滑ることを防ぐとともに、階段の位置をわかりやすくして踏み外しを防ぐことができます。また、階段を降りる人が「残り何段か」を認識できるよう、床面などに数字を書くことも効果的です。手すりが片方しかない階段の場合、降りる人が手すり側を利用するようルールを徹底する方法もあります。

上記(3)の運動は、従業員にスクワット体操や体幹トレーニングを推奨し、足腰の衰えを予防するといった方法です。年齢層に応じた運動強度にし、無理のない長続きする内容にすることがポイントです。

また(1)~(3)のほか、正しい靴選びも転倒防止の大切なポイントです。つま先が高く滑りにくい靴を選びましょう。詳しくは上述の参考サイト『STOP! 転倒災害 3つの転倒予防』に載っていますので、ご参照ください。また、歩きスマホなどの「ながら歩き」も転倒の原因となるため、慎むよう周知することが必要です。

日ごろのヒヤリハット報告などを利用して、まずは「社内のどこに転倒しやすい場所があるか」を把握しましょう。転倒しやすい場所の地図を作成し、従業員全員の目に届きやすいよう掲示するなども有効です。従業員を業務中のケガから守るため、今回お伝えした対策を参考に、自社に適した対策を練ってみてください。


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