現在の若手社員の中には、学生時代に「国民年金の学生納付特例制度」を利用していた人も多い。この制度を利用すれば、本来、就業前の学生時代に納めることが義務付けられている国民年金の保険料を納めなくて済むためである。ところが、学生納付特例制度を利用した場合には、その後、社会人になってからの早い段階で“ある年金手続き”を済ませておかなければ、将来の年金受け取りにおいて大きなデメリットを被ることはあまり知られていない。そこで今回は、「若年社員が30歳までに済ませておきたい年金の手続き」について解説しよう。
若手社員に企業が教えたい“30歳までに済ませないと後悔する年金手続き”とは? 「国民年金保険料の追納制度」を解説

年金保険料を納めないことを認める「学生納付特例制度」とは

日本では、20歳になると学生でも国民年金への加入が義務付けられ、毎月、1万数千円の保険料を納めなければならない。保険料の納付を怠ると文書や電話などで督促が行われ、督促に応じなければ財産の差し押さえが行われることもある。

ただし、学生にはまとまった定期収入がないのが通常であることから、国民年金保険料の納付を一時的に待ってもらえる制度も存在する。これを「学生納付特例制度」といい、この制度に申し込んでいれば保険料の督促などが行われることもない。「学生時代には保険料を納付しない」ということが公式に認められるためである。

以上のような事情から、4年制大学や短期大学、専門学校を卒業して入社した新入社員の場合には、在学中に20歳を迎え、国民年金の学生納付特例制度を利用していたケースが多いようである。

しかしながら、この制度を利用することで、その後思わぬ落とし穴に落ちる可能性があることは、あまり知られていない。その落とし穴とは、「将来、満額の年金が受け取れなくなる」ことである。

「学生納付特例制度」の利用で老後の年金額が少なくなる

国民年金の加入期間は、原則として20歳から60歳になる前までの40年間である。この間に保険料を納付した月数に比例し、国民年金の老後の年金額が決定される。40年間、もれなく保険料を納めていれば満額の年金が生涯に渡って受け取れるが、保険料を納めていない月がある場合には、その月数に応じて将来の年金額も減額となる仕組みである。

確かに、国民年金の学生納付特例制度には、「保険料を納めなくても督促が行われない」などのメリットはある。しかしながら、“保険料を納付していない事実”には変わりがないため、この制度を利用した場合の老後の年金額が、保険料をもれなく納めた人と同額になることはない。保険料の納付月数が少ない分、減額された年金を受け取らなければならないのである。

例えば、「20歳から60歳になる前までの40年間のうち、2年間は学生納付特例制度を利用して国民年金保険料を納付しなかった人」がいるとしよう。40年間のうち、残りの38年間は保険料を納めたとする。この場合、2年間は保険料を納めていないのだから、将来受け取れる老後の国民年金は「満額の“40分の38”」の金額になってしまうわけである。

「追納制度」を使えば満額の年金も受け取り可能に

もちろん、上記のような状態に陥ることを回避する手段も用意されている。特例によって納めなかった学生時代の国民年金保険料を、社会人になってから納める方法である。

国民年金には、学生納付特例制度の利用によって納めなかった保険料を、事後に納められる制度が用意されており、これを「追納制度」という。追納制度を利用すれば、将来は“期限どおりに保険料を納めた人”と同じように年金額が決定されるため、満額の年金を受け取ることも可能になる。

ただし、追納制度によって保険料を事後に納めることが可能なのは、「学生納付特例制度を利用してから10年間」に限定されている。10年を過ぎると追納制度は使えないため、学生時代に納めなかった保険料を事後に納める手段がなくなることになる。

例えば、学生納付特例制度を利用して、「20歳になった月」の保険料を納めなかった場合には、追納制度を使ってその保険料を事後に納付できるのは、ちょうど10年後にあたる「30歳になる月の末日まで」とされる。その翌月からは、納めることができない。

学生納付特例制度のパンフレットには、「保険料をもれなく納めた場合よりも、将来の年金額が少なくなること」、「10年以内であれば追納制度を利用できること」が明記されている。しかしながら、多くの若者はそのような注意書きなどを覚えているはずもない。

会社から若手社員に指導したい「追納制度の利用」

学生納付特例制度を利用した若年社員が、将来の年金額で不利益を被らないためには、20代から30代初めの時期に追納制度を利用することが必要になる。

しかしながら、20代の若者が「将来の年金のために追納制度に申し込もう!」などと自ら思い立つことは極めて稀である。追納制度の利用を考えるのは、自身の将来の年金が気になり始める中高年になってからが一般的であろう。

ところがその時点では、学生納付特例制度を利用してから、10年間がとうに経過してしまっている。つまり、学生納付特例制度を利用した多くの人々が、「追納制度の存在に気付いた時には、利用期限を過ぎている」という現実に突き当たるわけである。

誰かが適切な指導をしなければ、若年社員が追納制度を利用することは困難な状況にある。そのため、若年社員に対する教育研修メニューに「国民年金保険料の追納制度の仕組み」を取り入れる意義は、決して小さくない。自社に入社した若者たちが将来、年金で不利益を被ることのないよう、ぜひ、追納制度に関する指導を実施していただきたい。

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