海外、特にヨーロッパで普及している「サバティカル休暇」。企業が定めた在職期間に達した従業員に、長期休暇を付与する制度である。日本においても、働き方改革やワーク・ライフ・バランスなどを追い風として、導入が徐々に進みつつある。中には、「初めて耳にした」、「名前は聞いたことがあるが、その実態を十分に把握できていない」という人事担当者もいるかもしれない。そこで、今回は今後さらに注目度が高まると予想される「サバティカル休暇」に注目してみたい。その意味やメリット、デメリット、日本での導入事例などを詳細に解説していく。
「サバティカル休暇」の意味や効果とは? ヤフーやソニーなど日本企業の導入事例やデメリットも解説

「サバティカル休暇」の定義や効果とは

「サバティカル休暇」とは、一定の長期勤続者に対して与えられる長期休暇制度を指す。企業によって内容や期間が異なってくるが、1年や2年以上に及ぶケースもある。その特徴は、取得理由に制限がないことだ。

●「サバティカル休暇」が注目されている背景

「サバティカル休暇」は、19世紀の米国で大学教員を対象に導入されたのがルーツと言われている。その後、1990年代頃に仕事だけでなく家族や自分自身の生活も大切にすべきであるという価値観に基づいて、特にヨーロッパの企業を中心に取り入れられた。

日本では、働き方改革やワークライフバランス、リカレント教育を重視する傾向が定着してきたなか、経済産業省が2018年3月に制度整備を呼びかけたこともあって、大企業を中心に「サバティカル休暇」を検討する動きが出てきている。

●「サバティカル休暇」の効果

「サバティカル休暇」は、従業員だけでなく企業にとってもメリットがある。その効果を紹介しよう。

・自己成長につながる貴重な経験が積める
長い間、日本企業では、理由がどうあれ長期休暇を取得することは困難であった。それこそ、休職か退職するしか道はなかったといえる。しかし、「サバティカル休暇」を取得できれば、その必要はない。何の気兼ねもなく、海外留学やボランティアなど、自己成長や新たなイノベーションにつながる貴重な経験を積める。企業としても、社員が「サバティカル休暇」を利用してキャリアアップし、復職後の業務に活かしてくれれば、今まで以上の活躍を期待できるだけにメリットが大きい。実際、「サバティカル休暇」を導入している企業では、留学や大学院進学、研究機関での勉強に対して、手当を支給するケースが増えている。

・新たな経験や知識を得ることによる能力向上
休暇が長期に渡るので、海外留学やボランティア活動、社会人インターン、資格の取得などを通じて新たな経験や知識を得ることができ、従業員の能力向上につながる。

・リフレッシュや新たなアイデアの創出
週休2日制の場合、、仕事でのストレスや疲れを完全に解消するのは難しいかもしれない。その点、「サバティカル休暇」であれば、長期の休暇を取得できるので、日頃からのストレスや疲れをリセットすることができ、リフレッシュにつながるだろう。従業員のメンタルヘルスや過労死などの対策としても有効だ。また、まとまった時間を利用して従来とは異なる環境で生活をすることによって、考え方や視点を変え、新たなアイデアを創出したり、自分を見つめ直したりするにも絶好の機会となる。

・自社への印象が良くなる
現状では、「サバティカル休暇」を導入している企業はまだまだ限られる。ほとんどの人が「長期休暇は無理ではないか」と思い込んでいるかもしれない。それだけに、「サバティカル休暇」を導入すれば、働き方の多様性を大事にしていると認識され、社外からの企業イメージを大いに高めることができる。自ずと優秀な人材も確保しやすくなってくるだろう。

また、企業の社員からすれば、福利厚生が充実することで、「自分たちを大切にしてくれている」と実感しやすく、自社に対する帰属意識やエンゲージメントが向上する。この点も、大きな効果と言える。

・従業員の離職防止
従業員の離職防止につながるのも、「サバティカル休暇」のメリットである。例えば、近年は、介護や育児を理由として離職する人が増えており、企業としても何らかの対策が求められている。また、社員が突発的な病気や事故で休業を余儀なくされることもあり得る。いずれの場合であっても、「サバティカル休暇」が利用できれば、その仕組みが安心感を生み、離職率低下が期待できる。

・業務の標準化
「サバティカル休暇」を取得するにあたっては、組織内で業務が滞らないよう仕事の棚卸しや整理、マニュアル化などが行われるのが一般的だ。言い換えれば、この機会を利用して、業務の標準化や効率化を推進していけると言って良い。業務の属人化を防げるのは、会社にとっては間違いなく大きなメリットとなってくる。

おさえておきたい「サバティカル休暇」のデメリット

メリットが多い「サバティカル休暇」だが、デメリットもないわけではない。それらについても、しっかりと解説しておきたい。

●職場の環境についていけなくなる

まずは、「サバティカル休暇」を取得した後の職場復帰を巡る問題だ。長期に現場を離れることになるので、勤続年数が長い人であっても業務内容や職場環境の変化についていけずに苦労するというケースが起こり得る。このような不安を軽減するためにも、復職後にスムーズに業務に戻れるようなフォローアップが必要になってくる。また、長期休暇を取得した結果、以前と同じ業務に戻ることができず、昇進・昇給が遅れる可能性もあるので留意したい。

●収入の減少

海外企業では「サバティカル休暇」の取得中に手当が支給される例もある。だが、日本企業の場合は、そこまで制度が整備されていないのが実態だ。当然ながら、取得期間中の収入が得られないことになってしまう。どう生活を設計していくかを、事前に慎重に練っておく必要がある。ライフプランにも関わるため、そのデメリットがあることは、企業として従業員に伝えておきたい。

●業務や現場の混乱を招く

「サバティカル休暇」の対象は一定期間勤務した従業員となる。それなりの経験と情報を持っているだけに、一定期間とは言え不在となると、業務や現場に混乱が生じる恐れがある。休暇前に、業務量を調整したり、引継ぎをしっかり行ったりしておく必要があると言えよう。

●従業員の離職につながる

「サバティカル休暇」のメリットは大きいが、一部の従業員の離職につながる可能性も否定できない。キャリアアップを目的として新しいことを学んでいく中、従業員が担当する業務とは別の分野や物事に興味を持ち、結果的に復職しないことも考えられるからである。

「サバティカル休暇」の施策に取り組むうえでのポイントとは

ここでは、「サバティカル休暇」を導入する際のポイントをいくつか指摘したい。

●休暇の取得しやすい環境整備

福祉先進国のスウェーデンやフィンランドでは、「サバティカル休暇」の取得中は代替要員として失業者を雇うことが義務付けられている。そのため、従業員が長期休暇を取得しても、業務が滞るということはない。

だが、日本ではまだまだこうした法制度が整備されていないので、自社で独自に「サバティカル休暇」を取得しやすい環境を作り上げていく必要がある。それが、導入を成功させる第一歩となってくると言って良い。

●給与や手当の支給有無の明確化

日本では、「サバティカル休暇」はまだ法律で定められた制度ではない。そのため、期間中は有給となるか、無給となるかは企業に判断が委ねられている。休暇取得の目的に応じて支給の有無を定めたり、有給休暇との組み合わせにより、休暇中の給与受け取りを可能としたりなど、運用方法を明確にしておく必要がある。

また、給与の有無に限らず、社会保険は在籍中の加入が必須となるため、休暇が長期に渡る場合は従業員との間で保険料・住民税の徴収に関して取り決めをしておかないといけない。

●制度の周知

「サバティカル休暇」の制度を整えた際には、従業員にこの制度の趣旨・内容に関する周知を徹底し、理解を促していかなければいけない。もし、これが不十分であれば、従業員間で誤解が生じ、職場における人間関係の悪化に繋がってしまうからだ。あわせて、休暇を取りやすい雰囲気づくりも心がけたい。どうしても、日本人にはまだまだ長期休暇を取得することへのためらいもあり、周囲も取得者を怠慢と見做す傾向が強い。「サバティカル休暇」を取得しやすくなるよう、従業員の意識を変えていく必要があると言えよう。

●スキルアップやリフレッシュなど目的の明確化

理由は問わないとするのではなく、スキルアップやリフレッシュなど、「サバティカル休暇」の目的を実施前に明確化しておくことも重要だ。スキルアップを目的とする企業では、レポート提出を義務づけている例もある。

●復帰しない従業員への備え

「サバティカル休暇」を終えても、従業員が出社しないケースも想定される。ただ、そうした理由のみですぐに解雇することは難しい。それだけに、休暇を取得する前に「復職後一定期間出社しない場合には、会社とその従業員との労働契約が終了する」旨を就業規則に定めておく必要がある。

●復帰する従業員へのサポート

復帰する従業員へのサポートも大切だ。できれば、休暇前と同じ業務を担当できるように配慮する必要がある。復帰してすぐに、全く新しい業務に就くのは本人にとって、負荷が大きいからだ。また、休暇中の担当者から業務状況をしっかりと引き継ぐことも心がけたい。

「サバティカル休暇」を導入している日本企業の事例を紹介

近年は、日本でも「サバティカル休暇」を導入する企業が徐々に増えつつある。具体的な事例を取り上げてみたい。

●ヤフー

ヤフー株式会社は、「サバティカル休暇」を2013年に導入した。日本ではかなり先進的な取り組みであったと言える。目的は従業員が自身のキャリアや働き方を再考し、さらなる成長に繋げること。そのため、休暇取得後のレポート提出を必須としている。対象となるのは、10年以上勤務する正社員。2ヵ月から3ヶ月以内の期間が取得可能となっており、休暇中は休暇支援金として準給与1ヶ月分が支給される。また、年次有給休暇や積立有給休暇との併用も可能ゆえ、より長期にわたって休暇を取得することもできる。

●ソニー

ソニー株式会社では、2015年に「フレキシブルキャリア休職制度」という名称の休暇制度を設け、従業員のキャリア形成に役立てている。目的が限定されるが、休暇期間が長いのが特徴だ。具体的には、私費留学のための休職は最長2年、配偶者の海外赴任や留学に同行する場合は最長5年となっている。休職中は無給ではあるものの、社会保険の本人負担分が会社支給となるほか、私費留学の初期費用が最大50万円まで支給される。さらに、2017年度からは「休職キャリアプラス」という制度も導入されており、これにより、育児や介護などで休職中の従業員に在宅勤務や研修費用の補助などを行い、休職後も安心して働ける環境を提供している。
優秀な人材の流出を防ぐためにも、企業はより働きやすい環境づくりに注力していかなければいけない。そうした中、「サバティカル休暇」はとても自由度が高い上に、企業側の導入目的によってアレンジが可能な優れた制度とあって、検討に十分値する選択肢の一つと言っても良い。事実、経済産業省では「サバティカル休暇」の導入を推奨している。まだまだ日本では導入企業が少ないだけに、慎重になりがちなのも理解できるが、メリットは多い。本記事を参考にして、働き方改革の一環として取り組んでみてはいかがだろうか。
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