前回の記事では、雇用保険法改正による「雇用保険マルチジョブホルダー制度」の開始を契機に、その概要や「副業・兼業」自体のトレンドについて触れた。今回は前編と後編に分け、副業・兼業の捉え方や有効活用、リスク管理、推進上のポイントなどを確認し、人事部門が担うべき役割を考えていく。前編では、副業・兼業の捉え方や有効活用についてお伝えしたい。
4つの視点から考える「副業・兼業」のメリットとその事例とは

「副業・兼業」の捉え方

「副業」と「兼業」を使い分ける企業もあるが、意味の違いはあまりなく、本業とは別に収入を得る活動を指す。一方で、「副業・兼業」という言葉に違和感を持ち、パラレルワークを意味する「複業」を意図的に使う方もいる。これには、「副業・兼業」という言葉にはメインとサブといった印象があり、複数の仕事全てがメインであるべきとの意志が感じられる。本連載ではその想いを尊重しながら、「副業・兼業」という言葉を使用していく。

厚生労働省が「モデル就業規則」を改定した2018年を副業元年とし、それ以降、副業・兼業を容認する企業が増えている。メディアでも多く取り上げられたサイボウズやロート製薬の他、ヤフーやNTTドコモなど、情報通信業から、みずほFGや新生銀行といった金融、ソニーやIHI、ライオン、サッポロビールといったメーカーなど、多くの企業が容認を表明している。副業・兼業は働き方改革の推進企業にとっては、良いPRになるだろう。逆に禁止する場合、従業員や求職者などからはネガティブな印象を抱かれ、人材獲得に支障を来たしたり、社員のモチベーション低下や離職を招いたりする可能性がある。

個人や組織の視点から考える「副業・兼業」の4つのメリット

そもそも企業にとって副業・兼業は有効な手段なのだろうか。「個人/組織」と「正の強化/負の解消」の視点で、その効果を考えてみたい。

(1)個人×正の強化:人材育成の促進

「副業・兼業」をすると、自社の業務では得られないスキルや人脈を獲得でき、時には経営目線も養われると言われる。それは、普段の職場を離れ、全く異なる環境に身を置き働くことで新たな視点を学べる実践的「越境学習」となり、キャリア自律を促す場ともなり得る。単純な反復作業を行う副業・兼業ではなく、相手や課題があり、自ら考え実践する取り組みであるほど、成長の観点から有効である。

最近、地方自治体や信用金庫などが、副業人材を活用し地域の発展につなげる活動をしている。例えば、このような活動を支援する「うさぎ企画(※)」主催の企業と個人のビジネスマッチングイベントでは、毎回首都圏から多くの人が参加し、地元では採用が難しい人材の獲得につながっている。就業者の成長やキャリア自律を促進すると共に、地方の活性化にも一役買っているようである。

参考
※:合同会社うさぎ企画

(2)個人×負の解消:離職の防止

コロナ禍で一部の業務が停止し、業務が十分に与えられない社員が発生した企業も多かったのではないだろうか。ある公共交通機関では施設管理を行う専門社員の業務量が一時的に大幅に減少した。彼らのモチベーションが明らかに落ちる中、会社は建設会社やビル管理会社などの業務を斡旋し、彼らの技能を活かすことができた。

当初戸惑いもあったが出向先で重宝され、本人たちの意欲も保たれ、離職者は出なかったという。一方、業務量が減り不安の中で転職者が増えた企業もある。何もできないことは人間にとって相当苦痛なのだ。

なお、副業・兼業を認めると、離職を誘発すると危惧する意見もあるが、実際は認めることで、やりがいや満足度が向上し、むしろ優秀な人材の確保や定着につながった話も聞く。

(3)組織×正の強化:社内活性化

副業・兼業で有名なエンファクトリー(※)では「専業禁止」と謳い、副業・兼業のメリットを意識的に経営活動に取り入れている。ある社員は自ら事業を興す経験を通じ、経営感覚をつかみ、自社の業務に好影響を与えているという。同社は、社員同士が互いの副業・兼業の活動を定期的に共有し、刺激を与え合い、社内の活性化につなげている。

組織は人や仕事の変化がないと慣れが生じ、保守的になり視野が狭くなる。副業・兼業をする人が出ると、周囲に業務のしわ寄せが行くと危惧する意見もいるが、副業・兼業をする人たちを起点に周囲が感化され、組織の活性化につながり、個々人の発想を広げ、事業の発展に結び付く。このように考えると有益ではないだろうか。

参考
※:株式会社エンファクトリー

(4)組織×負の解消:人員不足の解消

2022年10月の育児介護休業法改正により「出生時育児休業」、いわゆる産後パパ育休が創設される。低調な男性の育休取得の拡大が期待される一方、どう育休取得者の穴埋めをするかは多くの企業で悩みのタネとなるだろう。育休に限らず人員不足が生じた際、派遣社員に助けを求めることも多いが、専門性や経験、人脈を活かした仕事をする社員が抜けた穴は簡単には埋められない。

あるIT企業は社内副業制度を刷新し、就業時間の一部を人員不足の解消に役立てている。社内副業制度は、勤務時間のうち15%を他業務に充てる、いわゆる「15%ルール」など自主的な取り組みが多く、追加で手当を支給することはあまりない。同社では会社都合で社内副業を行うため、副業分の報酬を支給することで納得感を確保している。異なる事業主間での副業とは違い、社内副業は労働時間や健康管理を一元的にできるメリットもある。
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