「ポータブルスキル」とは、人柄、コミュニケーション能力、専門知識など個人が持っているスキル全般を指す。人材育成や人材配置にも影響をもたらすと言われており、多くの企業で取り入れられつつある。そこで、今回は「ポータブルスキル」の意味や構成要素、さらには人事の活用事例などを詳しく解説していきたい。
「ポータブルスキル」の意味や人事の活用事例とは? 3つの構成要素やテクニカルスキルとの関連性も解説

「ポータブルスキル」の意味、企業にとって必要な理由とは

「ポータブルスキル」とは、個人が仕事をしていくなかで自ずと身に付き、どの会社や部署に行っても、また業種や職種が変わっても通用する“持ち運び可能な能力”、“重要な能力”を意味する。具体的には、「専門技術・知識」、「仕事の仕方」、「人との関わり方」の3つの要素から構成されている。いずれにおいても、実務経験や資格のように明確な基準はないのが特徴である。

●「ポータブルスキル」が必要な理由

雇用の流動性が高まっている現在、企業側からすると「ポータブルスキル」を持った社員は不可欠であると言える。もし、誰かが急に退職してしまった場合、すぐに欠員を補充するのは容易ではない。それだけに、どうしても現状の人材やリソースで対応せざるを得なくなる。その点、「ポータブルスキル」に優れた社員であれば、新たな部署に異動したとしても、そこで柔軟に対応し成果を導いてくれると見込める。社会情勢や経営状態に合わせて、ダイナミックに組織再編を行うにしても、何の心配もいらないと言って良い。

また今や、どの企業もグローバルなレベルでの競争に打ち勝っていかなければ存続できなくなっている。さらに、IT化・DX化がすさまじいスピードで進展しており、もはや特定の能力があれば対応しきれるという状況ではない。こうした傾向が顕著であるだけに、人事としても「ポータブルスキル」を重視した採用活動や人事考課を取り入れていこうという動きが高まっている。

●「ポータブルスキル」の関連語であるテクニカルスキル、スタンスとは

「ポータブルスキル」の関連語には、テクニカルスキルとスタンスがある。それぞれが、「ポータブルスキル」とどう違うのかを解説しよう。

テクニカルスキルとは、特定の業種・業界や職種に欠かせない専門性の高い技術・知識・資格を指す。このスキルを持ち合わせている人材は、現場の最前線に立って活躍しやすい。そのため、特に中途採用の場では重要な項目となっており、求職者からするとアピールポイントとして位置づけられている

一方、スタンスとは基本的に物事に向き合う際に取る立場や姿勢などを言うが、ビジネスシーンではキャリアを構築する際に抱く感覚や意識を意味する。働く上での軸となる部分とも言い換えられよう。類似した言葉に、仕事の原動力であるモチベーションや、仕事における基礎的な能力を図るビジネスポテンシャルなどがある。

この「ポータルブルスキル」とテクニカルスキル、スタンスの関係性は、ピラミッド状で表すことができる。最も底辺の部分となるのがスタンス、真ん中の部分が「ポータブルスキル」、頂点となる部分がテクニカルスキルだ。

「ポータブルスキル」の3つの構成要素

先述の通り、「ポータブルスキル」は下記の3つから構成されている。それぞれについて解説していこう。

(1)専門技術・知識

「専門技術・知識」とは、業務を進める上で不可欠となってくる技術や知識を言う。実務をこなすためには、絶対に必要なスキルである。

(2)仕事の仕方

「仕事の仕方」とは、業界や職種に関わらず仕事を行う上での必要な能力である。以下の3つに分類される。

●課題を明らかにするスキル
現状の課題を分析したり、情報収集を行ったりしながら、課題を適切に設定する力を意味する。このスキルは、次の2つに分かれる。

・現状を把握するスキル
仕事に関する情報を収集するスキルを指す。具体的には、構造把握やロジカルシンキング、文献リサーチやヒアリングなどのスキルが挙げられる。

・課題を設定するスキル
さまざまなデータや情報を評価・分析し、課題を抽出するスキルである。具体的には、統計分析や会計、経営思考などのスキルが挙げられる。

●計画を立てるスキル
計画を立案するために必要な情報を収集した上で、関係者とも事前に調整を図りながら、効果的なシナリオを描いていくスキルを指す。具体的には、プロジェクトマネジメントや案件管理、企画提案、資材調達などのスキルが挙げられる。

●計画を実行するスキル
品質基準を守るとともに納期を厳守しながら、業務を柔軟に遂行していくスキルを意味する。関係者調整や品質管理などの「実際の課題遂行」と、トラブルが発生した際の対応や中止、方向性を改める判断力などの「状況の対応」に大別される。

(3)人との関わり方

「人との関わり方」は、組織内外とのコミュニケーションや教育に関するスキルを指す。以下の3つの要素から構成される。

●社内適応力
経営層や上司、関係部署などに向けて的確に伝え、お互いの利害を調整しながら自らに求められている役割を果たすスキルを言う。経営方針や会社からの期待の把握などの「社内の関わり」とモチベーション管理、稼働管理などの「部下の関わり」が含まれる。

●社外適応力
顧客やパートナーをはじめとする社外の関係者に内容を伝え、利害を調整しながら強固な関係を維持したり、新たな関係を構築したりしていくスキルを意味する。均衡力に象徴される「取引先との関わり」やサービス提供、クレーム対応などの「顧客との関わり」が含まれる。

●部下マネジメント
部下に対する動機付けや育成、評価、指導を行うスキルを指す。特に近年はコロナ禍によって、テレワークが定着していることもあって、上司と部下との関わりが希薄化しつつある。部下とどうコミュニケーションを図れば良いか、連携ミスをいかに少なくしていくかに悩んでいる上司が多いだろう。それだけに、より重要性が高まってきている。

「ポータブルスキル」は企業にどのようなメリットをもたらすか

ところで、「ポータブルスキル」は企業にとってどのようなメリットがあるのであろうか。三点ほど挙げてみたい。

●採用力の向上

まず、第一に挙げられるのが採用力の向上だ。従来の人材市場では、専門技術・知識が何よりも重視されていた。だが、それらを十分に持ち合わせているからと言って、必ずしも入社後に活躍できるとは限らない。むしろ、多少技術や知識が不足していても、人柄やコミュニケーション能力、計画性、柔軟性などといった「ポータブルスキル」を持った人材の方が活躍を期待できることもある。このように、採用活動では経験や知識・資格だけでなく、「ポータブルスキル」にも注目すると、より質の高い応募者を選別できるようになる。自ずとミスマッチや離職を防止する効果も期待できるだろう。

●人材配置の最適化

人材を配置するにあたって重視されるのが、事前に設定された基準で社員を査定・評価する人事考課である。その基準項目に、「ポータブルスキル」を組み込むと、人事担当者は実績や経験だけに限らず、社員の人柄や能力をも見極められるようになる。そうすることで、人事異動を考える際の参考資料としても活用できる。多様な評価基準に基づいて人材配置を行うことで、適材適所を実現できるようになる。

●人材育成や能力開発

「ポータブルスキル」は人材育成や能力開発にも役立つ。社員一人ひとりの「ポータブルスキル」が把握できれば、それぞれに合わせた育成計画も立てやすくなる。また、「ポータブルスキル」は特殊な技能ではないので、誰でも努力次第で伸ばしていける。社員の「ポータブルスキル」が向上すれば、より高度な目標にチャレンジできるだけに、成長意欲も伸ばしていけると言えよう。

「ポータブルスキル」を人事はどう活用していくべきか

最後に、「ポータブルスキル」を人事としてどう活用していけば良いかを説明しよう。

●採用時の評価基準

「ポータブルスキル」を採用時の選考基準に取り入れることで、自社の企業ビジョンに合致している上に、「ポータブルスキル」を持っている社員を採用しやすくなる。そうした社員は皆、成長スピードが速く、短期間で戦力となれる可能性がある。組織全体として見ても、生産性を高めていけるので業績拡大につながりやすいだろう。

●人事評価

「ポータブルスキル」は人事評価にも活用できる。社内外との関わり方や性格・能力がより具体的に見極められるので、適材適所の人材配置がしやすくなる。また、「ポータブルスキル」の観点を評価制度に落とし込んでいけば、上司との面談の際にも現状で“できていること“と“できていないこと”をレビューされやすくなる。そのアドバイスを受けて、社員が「ポータブルスキル」を身に付けていくことで、部署に捉われずさまざまな環境で活躍できる人材を増やすことができる。
技術革新がますます激しくなってきており、大手企業であっても安定、安泰という保証はもはやない。いつ経営危機に陥ってもおかしくない時代を迎えている。追い打ちを掛けているのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。こうした不安定な現代社会を乗り切るためにも、ぜひ注目していきたいのが「ポータブルスキル」だ。目まぐるしく変わり行く環境に合わせて、企業は新たな事業や部署を立ち上げている。「ポータブルスキル」は、どんな場所においても社員が活躍していくために必要な能力である。それらを持ち合わせた人材を一人でも多く育成することで、企業の未来が切り開かれやすくなるのではないだろうか。
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