2021年も2月が終わりますが、そろそろ新入社員研修や階層別研修の準備を進めている人事担当者の方も多いのではないでしょうか。例年であれば、前年度の「焼き直し」で研修を実施できましたが、今年はどうもそうはいかないようです。昨年、研修業界は大きな変革の渦に巻き込まれました。対面での「集合研修」ができなくなる中、オンライン研修に切り替える企業も多かったはずです。そこで今回は、本格的なDX(デジタルトランスフォーメーション)が起こる企業での「学び」と「人材育成」について近況をレポートします。

人材育成にも本格的なDX時代が到来

大企業では昨年から急激に業務のオンライン化が加速し、IT化が進んでいなかったメーカーでも、ほとんどの会議がZoomやTEAMSなどのオンライン会議ツールを使用したものに切り替わっています。テレワークの先進的な企業であるカルビーやリコーでは、本社オフィスに誰もいない状況がニュースで取り上げられたほどです。取引先でもオンライン化が顕著で、物理的にオフィスでの作業が必要な業種以外は、テレワークやオンライン会議がかなり浸透していると実感しています。

また、人材育成の領域でも急激なDX化が進んでいます。テレワークが中心の企業では研修をオンラインで実施するほか、先進的企業では映像配信サービスを活用した自己学習の導入を進めています。大企業の人材育成部門では、オンライン学習コンテンツ配信やリアルタイム配信機能を搭載したLMS(学習管理システム)を導入した企業も多いのではないでしょうか。多くのLMSには、出欠や受講の確認、理解度テストの実施、講師やほかの受講者とのコミュニケーションなど、従来の研修で実施してきたほとんどのことをオンライン上で完結できる機能が網羅されています。もはや、すべてを「集合研修」形式で行う必要はなくなりつつあるのです。テレワーク環境下におけるLMSを活用した人材育成のDXは、人材育成コンテンツのあり方を大きく変えようとしています。

本格的なデジタル化により「誰も育成のノウハウを持っていない」段階へ

私も教育研修担当者として、これからの時代における人材育成のデジタル化を進めるにあたり、非常に困ったことがありました。それは、デジタル時代の人材育成について、日本ではほとんど誰もノウハウを持っていないことです。いくつもの研修会社や、研修に詳しい方にお話をお伺いしてみても、出てくる答えは旧来の「集合研修」をオンライン化する方法だけでした。また、相談した研修会社の中には「Zoomを活用した研修には対応できない」と言われたケースもありました。外資系ベンダーにも問い合わせてみましたが、多くの製品は外資系企業に最適化されたもので、日本固有の人事制度を考慮していない製品ばかりだったのです。

現在の日本の人材育成は、メンバーシップ型雇用に基づいた「階層別教育」が中心です。コンテンツも、リーダーシップや会計、経営戦略など、MBAを基本とした内容が主流でした。現在の集合研修の流れは、2000年前後に勃興した「MBAブーム」によるものです。当時はグロービスが創業し、日本で初めて一橋大学にビジネススクールが創設されたタイミングでした。企業でも、ビジネススクールのやり方を取り入れたディスカッション形式の集合研修が導入され、階層別教育ではMBA関連科目を学ぶことがスタンダードになりました。研修会社にとっても、毎年必ず実施される「階層別教育を中心とした集合研修」が、大切な収益源となっていきました。

しかし急激に人材育成のDXが進むいま、どのベンダーに問い合わせても、従来の収益源であった集合研修を提案されます。テレワーク環境下でフレックス・ワークが進み、集合研修が難しい状況の中で、デジタル化へのニーズに応えられる研修ベンダーはほんの一握りです。

また、「人材育成のDX」はまだまだこれからの取り組みであるため、参考になるような他社事例もない状況です。こうなると、他社やベンダーを頼らずに、自分たちで人材育成のDXについて考え、必要に応じてベンダーを起用する方法を検討するしかありません。

組織学習・人材育成の取り組みが「生産性」を大きく左右する時代

テレワーク環境下で「集合研修」が難しい状況であるこれからの時代、どのような人材育成の取り組みを行えばよいのでしょうか。また、ジョブ型雇用の導入が進めば、そもそも「階層別教育」は時代遅れの取り組みになっていきます。

これからの時代は、従来の座学でやっていた「知識をインストールする学習」は、動画配信にどんどん置き換えられていきます。かつての「集合研修」も、短時間のオンライン研修が主流となり、内容もオンライン上でのディスカッションが中心になるでしょう。また、年単位でオンライン研修を実施していても、変化の速い現代では、知識がすぐに陳腐化します。そのため、知識のインプットよりも、「早く学んで早く知識を共有する」取り組みが重要です。「短時間」、「高頻度」、「相互共有」が、これからの人材育成における中心的手法になるでしょう。

(1)動画学習で学んだ知識を日ごろの業務で実践、(2)実践結果をチャットやオンラインミーティングで共有、(3)共有した結果をさらに実践してフィードバックを得る。人材育成担当者は、これまでの研修ではなく、「組織的な学びのデザイン」を考えていかなければなりません。

最後に、参考までにコミュニケーションツール大手のSlack社が実施した、「生産性」に関する意識調査の結果を共有します。調査結果によると、「自社の生産性は高い」と答えた人は、「自社の生産性が低い」と答えた人に比べて、「自社の人材の成長が期待できる」と回答した人の割合が2倍になりました。なお、この調査は意識調査なので、調査結果はあくまでも回答者の主観です。つまり「生産性が高い」と感じる企業には、成長の機会があるということです。

単に研修を実施するのではなく、組織的な学びの機会をデザインし、従業員のラーニングジャーニーをつくりあげる企業が、これからの時代において生産性を高め、優秀な人材を惹きつけると考えられます。

いま起きているのは単なる人材育成のDXではなく、人材育成の取り組みを通じた「次の時代の会社づくり」と言えるのではないでしょうか。
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