「ワーケーション」とは、仕事を意味する「ワーク」と休暇を意味する「バケーション」を組み合わせた言葉を指す。新型コロナウイルス感染の拡大を機に、テレワークが普及し、遠隔地でも仕事ができるようになった今、ニューノーマル時代の働き方として注目を集めている。また、国も普及に向けて積極的に動き出そうとしている。本記事では、そんな「ワーケーション」の定義やメリット・デメリット、導入や仕事に向けて知っておきたい今後の課題、企業事例などを紹介する。
テレワーク促進で注目の「ワーケーション」のメリットやデメリットとは? 導入や仕事に向けた課題のほか企業事例なども紹介

「ワーケーション」とは? 今さら人に聞けない「定義」や「テレワークとの違い」を解説

まずは、言葉の意味・定義から確認していこう。「ワーケーション」とは、読んで字の如く「ワーク(Work/仕事)」と「バケーション(Vacation/休暇)」を組み合わせた造語だ。発祥は2000年代のアメリカで、ヨーロッパに比べて有給休暇の取得率が低いという課題解決のため、「仕事をしながら休暇を取れる制度」として始まった。また、同時期に、デバイスの進化やモバイルブロードバンドの普及といった技術革新により、オフィス外でもクオリティを保ったまま業務がこなせるようになったことも影響している。

ただし、現在促進されている「ワ―ケーション」とは、単に「休暇中に仕事をする」ことではない。コロナ禍で混乱する企業と従業員個人・地域などにメリットをもたらす、Withコロナ/Afterコロナ時代の「ニューノーマルな働き方・休み方」の形であり、「ワークライフバランス」を考えるうえでも重要なキーワードといえる。

●「ワーケーション」が日本で注目されるようになった背景

「ワ―ケーション」が特に日本で注目されるようになったのは、2020年7月から開催が予定されていた「東京オリンピック」がきっかけだ。開催が1年後と迫った2019年夏頃、大量の訪日客が見込まれたオリンピック期間中に首都圏人口を分散させる対策として、国から発信されるようになったのである。また、2019年11月には、複数の自治体が情報発信を目的とした自治体連合「ワーケーション・アライアンス・ジャパン」を設立した。

Withコロナ/Afterコロナを見据える現在となっては、テレワークが主体となりつつある働き方をさらに一歩進め、「ワーケーション」をテレワークのバリエーションとしてとらえる側面もある。それでは、「ワ―ケーション」と「テレワーク」は何が違うのだろうか。

●「ワ―ケーション」と「テレワーク」の違いとは?

そもそも、オフィスもしくは決められた場所で働く以外の就業形式には、いくつかの種類がある。中でも「テレワーク」とは、厚生労働省によって定義されている言葉で、IT技術を利用して、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことである。一方、「リモートワーク」は、「オフィスから離れて仕事をする」ということ。「在宅勤務」とほとんどイコールの意味で使用されている。どちらも、オフィス以外の場所で仕事を行う働き方を意味し、「テレワーク」と「リモートワーク」は、ほぼ同義語として使用されている。

日本テレワーク協会は、オフィス外勤務について、働く場所によって下記3つに分類している。

・在宅勤務:自宅でテレワーク・リモートワークをすること。
・モバイルワーク:自宅に限らず、移動先でテレワーク・リモートワークを行うこと。
・サテライトオフィス勤務:勤務先以外のオフィススペースでテレワーク・リモートワークをすること。


つまり、「ワーケーション」が意味するところは、3番目の「サテライトオフィス勤務」に近いといえ、特に、「仕事」と「休暇」を両立させることに重きを置いている。業務を行う空間がオフィスではないというだけでなく、普段の職場から離れてリゾート地や温泉地などで「働きながら休暇を楽しむこと」も目的のひとつだ。

大手旅行会社でも「ワーケーション」や「テレワーク」に対応した宿泊プランを提供しており、実際に利用している人も多いという。「ワーケーション」を受け入れる側の地方自治体も、新しい地方活性化の手段として歓迎しており、2019年11月には全国65自治体が集まって「ワーケーション自治体協議会」が設立された。


テレワーク促進で注目の「ワーケーション」のメリットとは?

テレワーク促進で注目されている「ワーケーション」は働く場所と時間に縛られないライフスタイルであり、自由度が高まるという解釈が一番適切といえる。「ワーケーション」を行うことによるメリットは、従業員だけにもたらされるものではなく、企業側そして社会にとっても意義がある取り組みだ。

・従業員にとってのメリット

(1)休暇が取りやすくなる
休暇中でも業務を滞らせないで済むため、物理的にも心理的にも、休暇が取得しやすい環境になる。

(2)発想力や業務効率の向上が期待できる
リゾート地といった好きな場所で働くことができるため、リフレッシュ効果によってモチベーションや集中力が上がり、業務効率化が見込める。

・企業にとってのメリット:BCP対策や優秀な人材の獲得

「ワーケーション」は企業のテレワーク推進対策であることはもちろん、BCP(事業継続計画)への対策としても期待できる。「一部の時間だけの就業」という働き方を認めることで、休暇取得も促進できる。優秀な人材獲得を目標にしている企業にとっては、ターゲットの人材に、自社を「柔軟な働き方」に取り組んでいる企業としてアピールでき、インセンティブのひとつに「ワーケーション導入」を提示することも可能だろう。

・社会にとってのメリット:地方に関連する問題を解決し地域活性できる

「ワーケーション」の普及によって、地方の観光地に長期滞在しやすくなるため、定住者でも観光客でもない「関係人口」を地方で増やすことができる。また、地方では空き家や空きオフィスの問題解決も期待できるだろう。宿泊施設としては、平日やオフシーズンの稼働率向上につながる。ワ―ケーションでその地方を訪れる人にとっては、地域の方々との交流によって、越境学習の効果もある。

「ワーケーション」は仕事をするうえで、どのようなデメリットがある?

場所の自由度は高い一方、時間についてはまだ厳格な部分がある。テレワークでも「何時から何時まで働いてください」と指示し、パソコンのアクセスログなどから出退勤をチェックするケースが多い。では、ワーケーションを導入したり、実際に仕事を進めたりするうえで考慮すべきデメリットはどのようなものがあるのだろうか。

・マネジメントが困難になる

遠方で長期のテレワークとなると、管理職はワーケーション中のメンバーのマネジメントに苦労することがある。休暇先でまじめに仕事をしているのだろうか、という不安をぬぐえずフラストレーションも溜まりやすい。ワーケーションは「仕事」である以上、福利厚生と割り切ることも難しい。また、仕事と休暇の時間が曖昧になりやすく、従業員には仕事に対する自律性が求められるだろう。

・他の従業員が抱く不公平感

もし、ワーケーション先から、休暇の雰囲気をひきずってラフな服装のままWebミーティングに参加した場合、他の従業員たちが羨ましがり、心理的に不公平感を抱いてしまうことがある。

・長期間が原因となる生産性の低下

例えば、週末数日だけの「ワーケーション」といったケースであれば、生産性に大きくな影響はない。しかし、1週間以上の長期となると、企業側にワーケーションに関する規定や体制の整備が未完成だった場合、コミュニケーションの問題や、リモートでは行えない業務が出てしまい、結果として従業員の生産性が低下するだろう。

「ワーケーション」の課題を押さえて失敗しない取り組みを!

それでは、メリット/デメリットを押さえたうえで、「ワーケーション」を推進するために考えなければいけない今後の課題や、世間の声にも目を向けておこう。

・職種や業種によっては実施が難しい

そもそもテレワークに適していない職種や業種はワーケーションができない。そのため、例えば「同じ会社の中でも管理部門や研究・開発部門の人はワーケーションができるけれど、それ以外の部門に人ができない」となると導入自体が難しい。また、医療・福祉・保育関係、農林漁業、小売業のようなテレワークの実施自体が難しい業種も、導入は困難だ。

・時間管理や費用の問題

ワーケーション中の労働時間は、基本的に「自己申告」になる。「パソコンにログインしたら勤務開始」という方式をとるなど、企業側が労働時間を管理するよう規定を刷新する必要がある。また、休暇先への交通費や通信費、宿泊代などの費用負担についても新たに規定を設けなければならない。ワーケーション中の事故を労災の適用対象にするかどうかも検討する必要がある。

・リスク管理

多くの企業は、従業員が休暇先でネットに接続して重要な情報が流出してしまうリスクを懸念している。休暇先でのパソコンの置き忘れや盗難にあうリスクも存在する。ただし、自社のワーケーション施設を使用する場合はそういったリスクは低減できる。

・国の補助が未定

国も「ワーケーション」に注目しており、“働く場所を変えることで心身ともにリフレッシュができ、業務の生産性を上げながらも地方活性化に貢献できるワーケーションは、新しい働き方としてワーケーションを期待する”、という内容が「国土交通白書2018」に書かれている。

しかし、「補助制度」はまだ策定されていないのが現状で、環境省の「国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」事業に大きな予算がついたものの(2020年度 補正予算)、これは国立・国定公園、国民保養温泉地への「ワーケーションツアー」と宿泊施設のwi-fi設備に対する補助と、非常に限定的なものだ。

・「隠れワーケーター」の発生

日本企業では、「ワークライフバランス」を適切にすることが叫ばれている現在もなお、管理職をはじめとした従業員は、休暇中であっても急な対応に迫られれば出社したり、リモートで対応してしまっていたりしているケースがあとを絶たないのが実情だ。そのため、多くの労働者が「隠れワーケーター」となっている。

「ワーケーション」を成功に導く「4つのステップ」

「ワーケーション」を成功させるためには、「必要なステップ」がある。それぞれを確認していこう。

(1)準備

ポイントとしては、通常の業務からテレワーク用に「仕事を切り分ける」のではなく、「オフィス勤務と同様の業務範囲、クオリティを保った仕事」ができている状態を目指さなければならない。社内外とのコミュニケーション、適切なマネジメント管理、セキュリティ確保など、オフィス出勤時と同レベルの業務が遂行できていれば、場所が離れていても生産性が低下することはない。

(2)第一歩

(1)の準備と同時進行で、情報収集や地域が実施するモニター企画(旅費や宿泊費、サポートといった支援)などに積極的に参加することがおすすめだ。モニターは、企業としてのコストをかけずに、ワーケーションのメリットを実感できる好機でもある。また、長期有給休暇中にテレワークを1日でも実施できるワーケーションの環境を整えれば、従業員は長期休暇の申請が以前よりしやすくなるメリットも生まれる。

(3)施策

企業は、自社のワーケーションのメリット/デメリットを把握できれば、各種施策も実施しやすくなる。例えば、以下のような施策が考えられる。

・地域での社会貢献施策としてワーケーションを実施する地域に社員を派遣する
・人材育成の一環としてリゾート地で研修を実施する
・福利厚生のひとつとして宿泊費(ワークプレイス利用費)を支援する

(4)戦略

このステップまで進めば、テレワークで普段の仕事ができる社員や、企業とつながる地域も増えていることだろう。下記のような課題解決のための戦略としてワーケーションもとらえることができる。

・場所を選ばず地域の人材を広く確保でき、人材不足を解消
・ビジネスを全国展開でき、移動コストが削減
・都市近郊の高額なオフィス賃料や社員の交通費などのコスト削減


この段階ともなれば、「ワーケーション」はAfterコロナの企業戦略の一環にもなる。

このように、企業がワーケーションを成功させるポイントは、「テレワークが適切に推進できているかどうか」にある。「ワーケーション」に挑戦する社員には、連絡が滞る、コミュニケーションが取れない、結果仕事が進まない、といった問題が起きないよう、よりきっちりとした対応を求めなければならない。企業側も、「テレワーク下のマネジメントとコミュニケーション」が徹底できる環境・規則を整備したうえで、ワーケーション促進を図ることが重要なのである。

「ワ―ケーション」導入や推進に参画している「5つの企業事例」

最後に、実際に「ワ―ケーション」を導入した大手企業の事例を紹介しよう。

●JAL(日本航空)

・導入時期:2017年からワーケーション制度をスタート。
・場所:国内外でテレワークが可能な休暇先。
・就業スタイル:休暇先でテレワークを行い、パソコンにログインすると、勤務日とみなされる。

●JTB

・導入時期:2019年4月~2020年3月に、期間限定で実施。
・場所:ハワイの現地法人内に設置したワーケーション専用スペース(自社設備)を利用する(通称「ワーケーション・ハワイ」)。
・就業スタイル:ハワイでの休暇中に、現地JTB内にて就業する。

●三菱UFJ銀行

・導入時期:2019年から導入。
・場所:軽井沢の保養所内にあるワーケーション専用オフィス。もしくは、グループ企業である三菱地所が所有する和歌山県白浜町のワーケーション専用施設を使用する。
・就業スタイル:滞在期間中に1日仕事をすることを想定。

●野村綜合研究所

・導入時期:2017年から導入。
・場所:徳島県三好市のサテライトオフィス兼宿泊所(自社設備)を利用。
・就業スタイル:年に3回、1ヵ月間、従業員を派遣(通称「三好キャンプ」)。古民家を改造した宿泊所兼オフィスに複数の職員が滞在する。日中は通常業務を行い、仕事のあとは地域の人との交流の場が設けられている。

また、上記以外の事例として、三菱地所は、和歌山県白浜町と長野県軽井沢町に、ワーケーション用の施設を設置。2020年7月27日に同社はワーケーションのポータルサイト「WORK × ation(ワーケーション)」をスタートさせ、自社の施設以外のワーケーション情報も発信し始めている。
「ワーケーション」は、数年前から日本でも導入されており、経験者からは「仕事にも休養にもプラスになる」と高く評価する声も上がっている。また、ワーケーションを受け入れる地方としても、新しい地方活性化策としての期待は大きく、積極的な受け入れ態勢を取る自治体は増えている。

しかし、企業側としては、導入にあたって、従業員のワークライフバランスについての意識を高めたり、労働時間、費用、労災などをマネジメントするために労務管理規定を刷新したりする必要がある。そして、これはワーケーション単体を考えるのではなく、「リモートワークの導入方法」から見直すべき点だ。これらのハードルを越えられれば、「ワーケーション」はますます普及していく可能性があり、休暇先でテレワークができる画期的なワークスタイルとして定着していくだろう。適切なテレワークを実施できる態勢を構築したうえで導入する「ワーケーション」は、従業員の「働く」ことへの意識や、企業の労務管理規定に対する考え方を変える良い機会になり得るだろう。
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