なぜ、大企業の「希望退職」「早期退職」が止まらないのか(後編)

特別読み切り

好業績下にありながら希望・早期退職を実施する「黒字リストラ」が、大企業を中心に急拡大──2019年、黒字企業による人員削減数は9,000人を超え、18年の3倍に増えた。リストラの対象は“バブル入社組”をはじめとする中高年社員。人数が多いだけでなく、給与面でも比重が大きいこの世代の処遇は、構造改革を急ぐ企業にとって成長のバネにも、足かせにもなりかねない。

深刻な人手不足が中高年リストラを招く皮肉

帝国データバンクの調査(※1)によると、従業員の定着難や採用難による収益悪化などが要因となった倒産、いわゆる「人手不足倒産」は昨年1年間に185件発生、前年に比べ21%増加し、4年連続で過去最多を更新した。事態は深刻化する一方だが、ひとくちに「人手不足」といっても、問題の内実は業種や企業規模によって異なる。

激しいグローバル競争にさらされる大企業や先進企業でより逼迫しているのは、量的な意味での人手ではなく、質的な意味で必要な人材、若くて優秀な文字どおりの“人財”に違いない。既存の技術や発想、専門性では、急激な環境変化への適応やイノベーションの創出で遅れを取り、競争力を保てないからだ。そのため、デジタルやグローバルに強い若手や高度スキルを持つ人材の確保にあたっては、まさに“金に糸目をつけず”奪い合う構図がすでに鮮明になりつつある。以前の記事(※2)で紹介した「高額報酬インターンシップ」の増加などもその典型例といっていい。

中高年層に手厚い賃金原資をこうした新しい人材への投資へ振り向けるために、希望・早期退職を戦略的に進める企業も増えてきた。加速する「黒字リストラ」の大きな狙いは、先を見据えた人材配置の適正化にあるということだ。たとえば、NECグループでは昨年3月までの1年間に3,000人程度の中高年が退職する一方で、新入社員でも能力に応じて年収1,000万円を保障する新制度を導入した。富士通も昨年2,850人を削減したが、高度な技術を持つIT人材には30代でも年4,000万円の高額報酬を支払うという。

また、単純に働き手が採用できない、定着しない“人手”不足の部門や、パターン化された定型業務については、人工知能(AI)などテクノロジーによる自動化が今後急速に進むと見られ、その設備投資も収益に重くのしかかる。好業績の企業でも人材不足・人手不足を解消するために、年功型賃金の恩恵を受け続けてきた中高年社員のリストラを進めざるをえない──そうした皮肉な事態に直面しているのだ。

中高年人材の流動化で再活躍のチャンス拡大

皮肉といえばもう一つ、政府が主導する「70歳定年法」の導入もこうした流れを助長していると考えられる。雇用延長は、大企業にとって固定費負担が大幅に膨らむリスクとなるからだ。割り増し分を上乗せしても、業績堅調のうちに希望・早期退職を進めるのが得策と判断する企業が相次いでも不思議ではない。

5年後の2025年には労働者人口の6割が45歳以上になる。ボリュームが大きいため、すでに大企業では役職につけないまま組織内に滞留する「ヒラ中高年」がこれまで以上に増えている。定年後研究所とニッセイ基礎研究所の共同研究(※3)によると、50歳代の社員は年齢を事由とした配置転換や出向、役職定年を機に仕事へのモチベーションが著しく低下する傾向があり、これによる経済的な損失は年間1.5兆円にものぼる。個人にとっても、企業にとっても、日本社会全体にとってもきわめて不幸なことだ。

一方で近年は、中高年人材の転職市場も広がりつつある。総務省の労働力調査(※4)によると、2019年の転職者数は351万人で9年連続の増加。そのうち45歳以上は129万人にのぼり、2015年からの4年間で3割も増えた。経験豊富な中高年は、とくに即戦力として中小企業からの需要が高い。むしろ「黒字リストラ」拡大が契機となって人材の流動化が進めば、中高年層の再活躍やキャリア開発の機会もさらに増えていくのではないか。

成否のカギを握るのは、もちろん働き手自身だ。中高年になっても経験や実績に胡坐をかくことなく、つねに学び直し、スキルの更新やネットワークの拡充に努める姿勢が求められる。
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HRプロ編集部

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