2020年のHR業界を予測:今年は人材育成担当者が革命を起こす年【15】

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人材育成担当者であれば、1度はあのモヤモヤ感を感じたことがあるはずです。それは「この研修は本当に意味があるのだろうか……」というモヤモヤ感です。なかなか成果が見えない仕事だからこそ、自分の仕事が役立っているのかわからない。一方で、経営からは「研修・教育に意味はあるのか? 費用対効果を示せ」と言われることも。さらに、研修を受講した社員にアンケートを取ってみると「講師の質が良くない」、「時間が長すぎる」など、かなり好き放題に言われることもありますよね。担当者としては、きちんとあれこれ理由を考えて数カ月かけて準備してきたのに、本当に労力が報われることは案外少ないものです。
そこで、人材育成担当者が仕事で成功を確信できる1年にするという思いをこめて、今回は2020年の人材育成トピックについてまとめてみました。

人材育成担当者の力が試される年になる

これからは人材育成が会社の成長を左右することを、私は確信しています。なぜならご存じの通り、日本では有効求人倍率が上がり続けています。2020年の1月現在は1.6倍程度ですが、一説によれば今後2.0倍以上になるとも予想されています。すでに採用の現場では、求人票を出しても誰も応募してこない、紹介会社に依頼しても良い人材が見つからないうえに手数料も上がり続けているという現象が発生しています。「良い人材も採れないし、人件費も上がり続ける」。こんな時代だからこそ、我々人材育成担当者が輝くチャンスです。

こうした状況の中では、いまいる社員の能力を最大化することが必要です。限られた人員で業績を上げるには、社員のマルチスキル化や高度化が不可欠だからです。

単純に考えてみましょう。1人の社員が1.5人分の仕事をこなせるようになれば、生産性は1.5倍です。また、1時間かかっていた仕事を30分でできるようになれば生産性と効率が2倍です。仮に人手不足のために年収600万円の社員1名を紹介会社経由で採用した場合、手数料は35%で210万円の採用コストがかかります。一方、現在在籍している社員に対して新たな能力を獲得してもらうために継続的なトレーニングを行ったとすると、その費用は1人当たり数万円〜10万円で済みます。つまり、生産性を基準に考えてみると、採用コストをかけるよりも、人材育成に費用をかけた方が合理的であることがわかります。

人材育成担当者はこれまで、人材育成の合理性や重要性を論理的に示すことができなかったのではないでしょうか。経営陣から「こんなに研修をやる意味があるのか? 今年は予算削減だ!」と言われ、予算を削減されるがままに過ごしてきた方も多いかと思います。また、本当にやりたかった研修が実施できなかったといった、苦い思いもしてきました。

だからこそ、いま人材育成担当者が会社に本当に貢献できるこのチャンスに逆襲をしかけていくべきなのです。

上司の認識をアップデートさせることがますます重要に

我々人材育成担当者が活躍できる領域が最近増えてきました。その1つが「世代間ギャップ」です。

研修を実施していると、幅広い年代の社員と話す機会があります。社員に話を聞いていると、ミドル〜シニア世代と20代前後の若手層ではかなり考え方が違うことに気づかされます。ミドル〜シニア世代の方に話を聞いてみると、「自分たちが入社した時は、上司にどやされながら仕事をしていた。いまの社員は恵まれている」という声をよく聴きます。一方で、20代前後の若手社員からは「なかなか上司や先輩が仕事について具体的に教えてくれない」という声があがっています。とくに、最近の若手世代は「やりがい」や「成長実感」がキーワードだと感じています。

最近、20代の離職理由に「成長実感を得られない」という言葉がよく出てくるようになりました。実際に離職した20代社員によくよく話を聞いてみると、その原因が上司にあることがわかります。「上司がフィードバックをしてくれないので、自分が成長しているかわからない」という声をよく聴きます。彼らの上司にあたるミドル〜シニア世代は、滅多にほめることをせず、何か改善点があった時にはつい叱ってしまう傾向があります。彼らがそうやって育てられてきたからです。そんな上司が部下を叱っているシーンをたまたま見かけると、人材育成担当者としては「あんな叱り方をしていたら、モチベーションが下がってしまうだろうな」と思うこともよくあります。

「就職氷河期世代」と呼ばれる30代後半〜40歳前半の中間層がとくに少ない日本企業では、40代後半以上の上司と20代の若手をつなぐ役割が不足しています。20代社員も本当は上司に聞きたいことがあるけれど、話しかけづらいという状況にあります。20代の離職防止には、上司の認識をアップデートすることが欠かせません。この世代間ギャップを埋めるための取り組みを人材育成担当者が主導していくべきだと思います。

2020年、人材育成担当者は現場とともに成長し、活躍の場を得る

近年、人事の仕事はますます高度化していると感じています。採用環境の変化や世代間ギャップの広がりだけでなく、多くの日本企業では、IT化の急速な進展により経営環境が急激に変化しています。これまで通用していた社員の能力が通用せず、新たな能力の獲得の必要に迫られています。こんな時こそ、人材育成の担当者が活躍するタイミングです。

また、ラーニングテクノロジーの進化により人材育成の打ち手が従来の研修だけではなくなってきました。少し前までは、人材育成といえば集合研修でした。研修業務には企画から運営まで幅広い業務があります。開催日程や会場の確保、ベンダーとの折衝など、かなり手間がかかったものです。しかし最近は、オンライン学習ツールを利用すれば、必要な知識をすぐに得られるようになりました。人材育成担当者が事業部門に対して提案できることが広がっていると感じています。

こうした手段を活用するためには、我々としても研修アンケートを眺めるだけではなく、もっと現場や経営陣の悩みをヒアリングして、いま自分の会社にとって一番必要な知識や学習は何かを考えなければならないと思います。

例えば、現場でお客様への納期遅延が頻発しているのであれば、何が原因でどんな対策が有効かを人材育成の観点から考えるきっかけになるはずです。社員によくヒアリングしてみると、社内でのコミュニケーションの取り方や社員の問題解決力の低下が原因だったと気づくこともあります。原因を分析して経営陣にレポートするだけでも、社内で喜ばれることは増えています。また、最近は雇用環境が変化していますので、会社としても人材育成への感度が高まってきているようです。

一方で、変化する環境に対応して、我々人事担当者も学習し続けなければなりません。人材育成担当者が革命を起こすには、人材育成の打ち手の選択肢を増やし、問題解決力を磨き、現場から学ぶことも必要でしょう。今年は間違いなく、人材育成担当者が活躍する年になるでしょう。今年も1年頑張りましょう!
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著者プロフィール

中野 在人

大手上場大手メーカーの現役人事担当者。

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。

個人で転職メディア「転キャリ」を運営中:http://careeruptenshoku.com/
他に不定期更新で人事系ブログも運営:http://hrgate.jp/

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