AIが拡げる雇用の未来 〜テクノロジーの発達と活用が作り出す新たな仕事とは〜

HRプロ × HR Trend Lab所長・土屋裕介 - コラボコラム

AI(人工知能)に多くのデータを与えて学習させ、認識力・判断力・予測力を成長させる“ディープラーニング”の技術・手法が2010年代に入って急速に進歩した。いまでは、POSデータの分析に基づく商品管理、来店者数や売上げの予測、医療現場における問診など、さまざまなビジネスシーンでAIが活躍している。そんな中、「AIの進化は人間から仕事を奪う」とする論文が世を騒がせた。が、逆に「AIの発達が新しい雇用を生み出す」との声もある。AIと雇用の関係は今後どのようになるのかその未来について考察してみよう。

AIの進化が雇用に及ぼす影響とは?

人間の仕事の約半分が機械(AI)に奪われる――そんな論文が、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士らによって発表されたのは2013年のこと。多くの仕事がコンピューター化されるというこの主張は世界中で反響を呼び、日本のマスコミも色めき立って取り上げた。「自分の仕事もやがてはAIに奪われるのか」と青ざめた人も少なくないはずだ。
ところが2016年、日本では総務省が『情報通信白書』において、AIが雇用に及ぼす影響を以下のように分析。論文とは真逆の予測・提言を発信した。

●雇用の一部代替
AIの活用でコスト減となるタスクのみがAIに置き換えられる。仕事のすべてが奪われるわけではない。

●雇用の補完
タスク量が減少した人間によって労働力不足が補われる。

●雇用の維持・拡大
AIの利活用にいち早く取り組んだ企業は競争力を向上させ、雇用は維持・拡大される。

●就労環境の改善
AIにより生産性が向上すると、長時間労働を前提としないフレキシブルな働き方が可能となり、女性や高齢者等の活躍の場が拡がる。つまりは「労働人口の減少問題はAIによって解決する」「AIの発達によって新たな雇用が生まれる」とし、よって「積極的に投資していくことが重要」としたのだ。

実は前述の論文を著したオズボーン氏も、AIの発達が新たな雇用を生み出す可能性に言及している。2019年3月、来日したオズボーン氏は「雇用の未来〜AI(人工知能)がもたらす未来と人間との共存〜」と題するセミナーに登壇。そこで「農作業の機械化によって農業人口は劇的に減少した。が、農業から離れた人たちは都市部で別の新しい職業に就いている。AI革命においても、同じようなことが起こるのではないか」と発言したのである。

AI技術の進展が雇用を生み出す

AIの発達が生み出す新たな雇用について、「雇用の未来」セミナーでは、主催者である株式会社エクサウィザーズの代表取締役社長・石山洸氏が実例を紹介している。介護現場の動画・音声データをAIで解析し、優れたケア技能の特徴を抽出、初心者の学習に役立てる、というものだ。これまで困難だった“熟練者の技能の伝達・習得”が容易になれば、より多くの人にヘルパーや介護福祉士として活躍する機会が与えられることになるだろう。

また、大きな社会問題となっているドライバー不足を解消するための切り札として期待されているのが自動運転車(その運行においてはAIに周辺情報を機械学習させる手法が不可欠)だ。ヤマト運輸とDeNAが共同で進める自動運転宅配サービス「ロボネコヤマト」、日本郵便による郵便物輸送の実証実験、ソフトバンクが設立した自動運転バスの運行会社・SBドライブなど、自動運転車実用化へ向けての動きも活発化しつつある。そして、自動運転といえども走行中車両の監視や運行スケジュール管理のための人員は必要だ。

介護や物流の現場では、AIを活用することで新たな雇用が生み出される、という流れが作られつつあるわけだが、一方AIに対するニーズの高まりがそのまま雇用に繋がる、という流れもある。

現在、多くの企業が「ビッグデータをAIで分析し、そこから抽出された傾向をもとに新たなサービスを創出、顧客に提供する」ことに取り組んでいる。なじみ深いところでは、POSデータを用いた販売促進や仕入れ管理、ネットショッピングサイトのレコメンド機能などがあげられる。

総務省の2013年版『情報通信白書』によれば、2005年から2012年にかけて、ビッグデータの流通量は約5.5倍も増加したとのこと。同2017年版には、インターネットにおけるデータ流通量は年150%のペースで増大しているという記述もある。そこでいま求められているのは、そうしたデータの分析やAIとの連携を設計できる人材だ。また個人データ/ビジネスデータの取扱いに際して、情報セキュリティ技術者に対するニーズも高まっている。

ところが経済産業省の『IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果(2016年)』では、労働人口の減少により、現時点で先端IT人材は約1.5万人も不足しており、2020年までには不足数が4.8万人にまで達すると試算している。事実、求人・転職サイトで「AIエンジニア」「データサイエンティスト」「情報セキュリティ」などのキーワードが踊っている。需要に供給が追い付いていない様子が垣間見えており、今後もこの分野の雇用ニーズは拡大を続けるだろう。

AIと雇用の関係は次のフェーズへと進んでいる

こうした状況の中、前述の「雇用の未来」セミナーにおいて、オズボーン氏や石山氏らは、今後必要となる人材について次のように述べている。いわく「社会的な課題の中身を理解し、その解決のために必要なデータは何か、データをAIで分析することで可能になることは何かを見渡し、戦略から仕組み、プロダクトまで、全体をデザインできる能力が必要。各種プロジェクトは他分野とコラボしながら進められるため、多彩な人材をモチベートし、統合する力も必須」。いわば“AIジェネラリスト”とでも呼ぶべき人物・能力が求められているのだ。

官民の双方で、こうした人材を育成するための試みも始まっている。例えば経済産業省は、AIやデータサイエンスに関する専門的・実践的な教育訓練講座を普及させるための「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」に取り組むほか、ビッグデータから国立公園の観光宿泊者数を予測するコンテストを実施。総務省はオンライン講座「社会人のためのデータサイエンス演習』を開講し、文部科学省もデータ関連人材育成プログラム「D-DRIVE」を進めている。

また株式会社マイナビは、AI開発/データサイエンティスト人材採用/育成サービスを提供する株式会社SIGNATEと共同で「マイナビ×SIGNATE Student Cup 2018』を開催。これは、各種データからJリーグの観客動員数を予測するというコンテストで、次世代を担うデータサイエンティスト発掘・育成を目的とした、学生のためのコンペティション型インターンシップになる。

AIの発達によってもたらされる未来像を短絡的に捉えると「自分の仕事が奪われる」などと恐怖心を抱いてしまうかもしれない。また「既存の仕事をAIに置き換えることによる効率化」や「ビッグデータ収集・利用に後れを取ることのリスク」を考え、手を打とうとする経営者も多いだろう。だが現実は、その先を行っている。AIによって解決しうる社会的課題、新たに生まれるビジネスチャンスと雇用にまで目を向け、次の時代に必要な人材の確保・育成まで考慮すべきだ。AIと雇用の関係は、そんなフェーズへと既に突入しているのである。

HR Trend Lab所長・土屋 裕介 氏のコメント

HR領域においても、AIは様々なサービスに活用され始めています。
たとえば、タレントマネジメントシステムにAIを組み込むことで最適な人材配置をレコメンドする、一定期間ごとに実施するサーベイ(パルスサーベイ)の結果をAIが分析して離職予測のアラートを出すなど、活用が広がっています。
上記のような方法を含め、AIをはじめとしたテクノロジーを有効に使っていくことで、経営戦略と人事機能の連携を強めた戦略的人事の実現に繋げる事ができるでしょう。ここで忘れてならないのが、HR領域に特化したテクノロジーを使いこなせるプロフェッショナル人材へのニーズも高まると考えられることです。昨今では、シンギュラリティがもたらす2045年問題が議論されていますが、テクノロジーの活用を積極的に進めるなら、それを使いこなす人材の確保や育成もセットで考える事が重要です。
土屋 裕介 氏
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長/HR Trend Lab所長


国内大手コンサルタント会社で人材開発・組織開発の企画営業を担当し、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入した後、株式会社マイナビ入社。研修サービスの開発、「マイナビ公開研修シリーズ」の運営などに従事し、2014年にリリースした「新入社員研修ムビケーション」は日本HRチャレンジ大賞を受賞した。現在は教育研修事業部 開発部部長。またHR Trend Lab所長および日本人材マネジメント協会の執行役員、日本エンゲージメント協会の副代表理事も務める。

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著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。

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