『女性の視点で見直す人材育成 だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』 ――個人の成功体験に依拠せず、大規模リサーチから科学的にアプローチする一冊

書籍レビュー

「社内に女性のロールモデルがいない」、「とにかく女性管理職を増やさなければ」と頭を抱える人事担当者や経営者は多い。こうした方々にぜひ一読されるようお勧めしたい本がある。本書では、女性のライフステージ・キャリアステージごとの課題に対しどのような解決策が有効なのかを、7,000人超の大規模リサーチの結果を活用する新しいアプローチで解説しており、女性活躍推進の本質とは何かが説かれている。執筆は、ジェンダーの視点を取り入れた企業・組織の人材育成研究において著名な立教大学教授の中原淳氏と企業の人材育成を総合的に支援しているトーマツ イノベーションの共著。

女性活躍推進は 誰もが働きやすい職場をつくる足がかりとなる

ジェンダーに着目する理由について、本書の冒頭では、次のような仮説が提示されている。

「女性の視点で人材育成やマネジメントのあり方を見直していくことは、誰もが働きやすい職場をつくるうえで、最も確実な足がかりになる」

中原氏は、日本人・男性・正社員といった社会的属性の「職場のマジョリティ」が、職場で起こる様々な歪みに対し鈍感である、と指摘する。また、問題が起きた際に真っ先にしわ寄せを受けるのは、こうしたマジョリティではなく、育児・介護・ハンディキャップ・病気など多様な事情を抱えながら働く「職場のマイノリティ」であると指摘。

しかも後者は将来的にますます増えると予測している。そこで日本の職場において、「最もメジャーなマイノリティ」である女性の視点で職場を見直すことを、これからの働き方を考えるきっかけにしよう、と提案しているのである。同時に、大企業を中心に「女性活躍推進=女性管理職の数を増やすこと」という短絡的な認識の下、性急な人事施策が実施され、女性活躍推進の本質が見失われているのではないか、と警鐘を鳴らす。

では、現在の女性活躍推進にはどのような課題があるのだろうか。実際の職場では「昇進に消極的なのに、なぜ女性ばかり登用するのか」といった不満や怒りが生まれ、女性活躍推進が形骸化しているという。このような現状に対し著者は、女性活躍推進の本質は、「女性を含めて多様な働き方を望む人々が、長くいきいきと働き続けられる職場環境・働き方を実現していくこと」であると強調する。

先行研究の課題を克服する対象者総数7,000人超の貴重なリサーチ

本書における画期的な点は、これまで「スーパーウーマン個人の成功体験」に依拠して語られることが多かった女性活躍推進、あるいは女性人材育成について、潤沢なサンプルと男女の比較をしながら客観的な視点に軸足を置き、新たなアプローチで論じていることである。従来の女性の人材開発・人材マネジメントの先行研究に関し、筆者は2つの課題を指摘している。

1つ目は、サンプル不足である。先行研究は規模の大きな調査でも調査対象の女性の数は数十人〜数百人程度で、特にリーダーやマネジャーの女性は母数が圧倒的に少なく調査の難易度が高かった。そこで本書では、国内の中堅中小企業1万社とつながりのあるトーマツ イノベーション株式会社の協力を得て、2,523人もの働く女性にアンケート調査を実施。これは世界的な学術研究に匹敵するサンプル数の確保に成功した、貴重な調査結果であると述べている。

2つ目は、「女性ならでは」の特性に関する知見が十分に掘り下げられていなかった点だ。そこで本書では、女性特有の傾向を知るには男女それぞれに共通の調査を行い、結果を比較する必要があるとの考えから、男女合わせて7,402人にのぼる対象者に実施した大規模リサーチに基づいた意見・見解を述べている。

「女性の引き上げ役の上司がいる職場づくり」と「トランジションに応じた支援」の推進を

女性活躍推進が語られる際に頻出する「ロールモデル創出」という考え方が本当に有効なのか、と本書では疑問を投げかける。

その理由は、多くの企業が掲げるロールモデルとは、「仕事で成果を挙げている」、「結婚・出産を経験」、「育児と仕事を両立」、「マネジャーに昇進」という4つの条件を満たすスーパーウーマンであり、多くの女性社員は自分にはとても手の届かない存在と感じるのではないか、と懸念するからだ。

そもそも「女性にはロールモデルがいない」という前提についても、本書のリサーチによると女性のうち4人に3人(75.1%)が「自分にはロールモデルがいる」と回答していることを挙げ、懐疑的な姿勢を示している(※1)。

ここで読者である人事担当者や経営者は、自社で行った女性活躍推進施策を振り返ってみてほしい。女性社員を集めて外部講師の講演を聴かせるような「イベント型女性活躍推進」を実施した経験はないだろうか。

著者はこのような施策について、本質的にはロールモデル論と同じで、女性を啓発して個々の努力を促せば女性活躍が実現できるという発想で行われていると指摘。イベント直後はモチベーションが上がるものの、その後は継続性がないこと、さらに、スーパーウーマンの個人の体験談が他の女性にも広く当てはまるとは言い切れないことが問題点だとした。

では、女性活躍推進のために、何をすればいいのか。データを基にした著者の客観的なアプローチによると、「構造的要因」の存在が推測されるという。女性は入社1年目の段階で男性よりも管理職志向が低く(管理職志向の割合が男性は94.1%、女性は64.7%)、さらに、多くの女性は、2年目で昇進意欲を失うのだという。(2年目も継続して管理職志向を示す人は、男性は8.9ポイント減に対し、女性は20.6ポイント減)(※2)

これらを踏まえ、著者は、女性活躍推進のために個人の努力だけを頼りにする発想を捨てる必要があること、そのかわりに「女性の引き上げ役の上司がいる職場づくり」と「トランジション(ライフステージ・キャリアステージに応じて、女性が担う役割の変化)に応じた支援」の推進を訴えている。

特に後者は先行研究ではスポットが当たらなかった概念であり、本書ではスタッフ期、リーダー期、マネジャー期、ワーママ期という4つのトランジション・ステージごとの課題と解決策を示している。


中原氏は、本書で示される科学的知見を、「現実の鏡」として、自社の歪みを発見することや、職場のメンバー間の「対話のきっかけ」として役立ててほしいという。人事担当者や経営者のみならず、日本の職場を構成するあらゆる立場の人に対しての示唆に富んでいる本書は、きっと多様な人材がいきいきと活躍できる職場づくりの礎となることだろう。
(※1)出所:トーマツイノベーション×中原淳 女性活躍推進研究プロジェクト(2017) 「女性の働くを科学する:働く男女のキャリア調査」
https://www.ti.tohmatsu.co.jp/target/woman_activity/

(※2)出所:独立行政法人国立女性教育会館(2017) 男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査研究
https://www.nwec.jp/research/carrier/index.html
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著者プロフィール

HRプロ編集部

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