働き方改革 実現への切り札とは? 〜インセンティブ制度がもたらす企業と社員のWin-Winの関係〜第5回 インセンティブ導入のポイント(その1) | 採用、育成・研修、労務・人事に関する情報ならHRプロ

人事にプロのサポートを―新卒採用、中途採用、人材育成、研修、人材マネジメント、労務、人事システム、適性検査ならHRプロ

  • 第3回HRテクノロジー大賞<締切2018.6.14>
働き方改革 実現への切り札とは? 〜インセンティブ制度がもたらす企業と社員のWin-Winの関係〜

第5回 インセンティブ導入のポイント(その1)

株式会社ITセールスアカデミー 代表取締役 北川裕史
2018/05/11

前回は、改めて裁量労働制の意義を問うと同時に、その導入や賞与の調整などで、インセンティブの原資を確保する方法を会社側の視点で記述した。無論、会社側の視点だけでインセンティブを導入しても、それで社員の満足が得られるかどうかは、また別の話である。社員のモチベーションを向上させるには、どれだけ成果をあげればどれだけの報酬が得られるかを、明確に公表することが大前提となる。
もちろん、公表されたものが魅力的な内容でなければ、社員のモチベーションは逆に下がってしまうリスクも発生する。社員側から見た魅力的というのは、目標値に対する達成度に応じた支給額を公表する「支給テーブル」に記載されるインセンティブの支給額に他ならないが、会社側は予算との兼ね合いで十分に検討する必要がある。これには、支給額導入前の給与体系がどのようなものであったかも考慮する必要があるが、おおむね次のように考えるのがいいだろう。
まずは、今までの既得権であったもの(時間外手当や一律に支給されていた賞与)が減った額は、最低ライン(インセンティブが支給される目標達成度の下限値)に達したときには補償すべきである、と考える。それが補償されなければ、賃金カットと誤解されかねないからだ。また、天井(インセンテイブの支給上限額)に達したときは、今までの賞与を大幅に上回るものでなければ魅力的ではないだろう。そこでケチなものを公表してもモチベーションは低下するだけだ。どうせやるなら社員が驚くくらいのほうが私はいいと考える。

昔から、会社は上の2割の社員が引っ張っていると言われている。その説が正しいとするならば、上限値に達するのはおそらく全体の2割。よって、全社の利益が目標に達した場合、全体の2割が目標値の100%に達したときにどれだけ支払えるか、といった予測を立てれば、上限額の目安はおのずと見えてくる。

これを踏まえ、さらにその上を設定するか、青天井にするかは、経営者の考え方次第である。担当する業種や顧客、あるいは製品・サービスの分野によって各々の業績に大きな影響がある場合は、不公平感が生じるため、支給上限額は設定した方がいいだろう。

社員の間で最も不公平感が生じる要素が、目標設定である。これは最も慎重に検討すべきポイントだ。かつて私が外資系企業でインセンティブの企画に携わった際、当時の上司が常々言っていた。「誰がどこから見ても公平・公正なものを作らなければならない」と。それは本社の奥でただ考えているだけでは、達成できはしない。何よりも現場に出向いて意見を聞くことが重要だ。しかしながら、現場の人、特に営業の方々は声が大きいので、意見を全て聞くと成り立たなくなってしまう。そこは冷静かつ客観的な判断も必要だ。

私は、現場の意見を採り入れられなかった場合、発表前に個別に説明に行くなんてこともマメにやっていた。対象者は2,000人を超えていたので、そんなことをやっていると時間が経つのはあっという間である。私のスタッフ時代の2年間は、8時出社の終電帰宅。本当に大変だったが、今ではかけがえのない経験となっている。つまり言いたいのは、社員の給与に関わることなので、内容もさることながら、進め方や現場との合意形成が非常に重要ということだ。

さて、本題の目標設定の考え方であるが、これは職種によって変えなければならない。営業職は全業種共通で、会社の売上および利益目標を、縦割りでブレークダウンしていけばよいだろう。当然のことながら、下に落とす毎に数パーセントの上積みをしないと、全ての部門、全社員が100%達成しないと会社の目標は達成できないということになる。階層が多い外資系企業は、最下層の目標値の総計が全社目標の2倍を超えるなんてこともあるが、あまりやりすぎると達成不可能な目標になってしまう。よって、1階層毎にせいぜい5〜9%の上積みが妥当であると考える。

次に、目標設定の単位であるが、営業職の場合は、個人目標よりもグループ目標を最小単位とすることをお薦めしたい。営業職は個人の実力もさることながら、担当する市場や製品・サービス分野によって業績に影響を受ける度合いが大きいし、特に固定客を担当している場合は、業績が良かった年の翌年は、その反動を受けて悪い場合が多いからだ。私も外資系時代は年収が数百万単位で変動したものだ。このような浮き沈みや担当分野の不平等も、グループ目標にすることでかなり吸収される。これによって管理職も個人目標の設定にかかるストレスからも解放されるという訳だ。

次回は、技術職に対する目標設定の考え方について述べていきたい。
  • 1

プロフィール

株式会社ITセールスアカデミー 代表取締役 北川裕史

1985年日本アイ・ビー・エム(株)入社。保険、銀行、エネルギーなど大手企業の担当営業を歴任。また、ガースナー政権下のBPR推進スタッフとして、営業プロセス改革、スペシャリスト制度、組織編制、キャリア・パス、給与体系など、ありとあらゆる営業系の新制度導入や改善の企画を担当。
2000年から(株)独立系ITサービス企業に転職、システム開発、ソフトウェア販売、コンサルティング、BPOなどの新規事業立ち上げを担当。2004年から営業人財育成事業を立ち上げ、数多くの大手IT企業の営業力強化に尽力。
2016年にIT業界に特化した営業人財育成企業として、株式会社ITセールスアカデミーを設立。営業研修をはじめ、プロフェッショナル制度の導入、裁量労働制とインセンティブの導入による新しい働き方と給与体系の在り方をIT企業に提案。年間の登壇日数は100日を超える。

関連リンク

  • 特別読み切り

    ハラスメント防止の鍵は思いやり

    総務省の「労働力調査年報」によると、2016年の労働力人口は6,648万人。これに、翌2017年の厚労省による「将来推計人口」の結果を交えて勘案すると、2065年には2016年時点より、労働力人口が、約4割減少する見通しだ。
    労働市場が衰退していく中で、今後必要とされるのは、女性の活躍や、病気や介護者を抱えていても働ける就業環境であろう。多様な人々が、多様な働き方で、幸せに生きていける社会を目指す中、最近、巷で話題となっている、パワハラ・セクハラ事件。こうしたハラスメントは、多様性、生産性はおろか、仕事にも人生にも、何一ついいことはない。その防止対策は、日本社会において重大なテーマである。

  • 人材育成コラム-プロが教えるコツとポイント-

    働き方改革の担い手でもある「管理職」を「成果を出せるリーダー」へ

    明確なビジョンをもってリーダーシップを発揮し、個人ではなく組織として成果を出すことができる人材が管理職のあるべき姿。分かってはいても、なかなか思い通りの人材を確保できないのが実情です。今回は、組織の成果を担う管理職の育成に役立つ「管理職研修」についてご紹介します。

  • 94歳現役人事コンサルタント、梅島みよが行く

    第9回 日本企業の「女子教育」に失望、米国企業視察旅行を企画

    女性講師の有能な働きぶりを見て、機を見るに敏な社長が「ウメさん、女性講師をもっと増員しよう」と言い、早速、募集を始めました。女性教育コンサルタントは、会社での勤務経験や、社会人としての十分な良識が必要です。若過ぎても不相応なので、対象年齢は28歳以上としました。すると思いがけず素晴らしい人達から数多くの応募があり、その中からまず4名を採用し、講師として教育しました。

  • 人・組織にかかわる調査報告『人材開発白書』

    なぜ組織の成果があがらないのか〜組織マネジメントに必要な2つの側面〜

    事業成果を上げるために、どの企業も戦略を策定していることでしょう。しかし、戦略を策定するだけでは成果は上がりません。その戦略を実行することが欠かせません。現場のメンバーが実行してはじめてその果実を手にすることができるのです。その際にカギとなるものがミドルマネジャーです。ミドルマネジャーは、どうすればメンバーに戦略を実行させることができるのでしょうか。どのような組織マネジメントが必要なのでしょうか。国内企業27社、2,170 人への定量調査結果をもとに、成果志向の組織のマネジメント方法を説明します。

  • 人材育成コラム-プロが教えるコツとポイント-

    新入社員育成の在り方を考える

    当社では毎年約1,000社のクライアント企業に新入社員研修を提供し、受講者である新入社員にアンケートにご協力いただいています。今回は、新入社員4,000名のアンケート結果から浮かび上がる傾向と対策についてご紹介します。

  • 94歳現役人事コンサルタント、梅島みよが行く

    第8回 株式会社マネジメント・サービス・センター創立

    山口で順調に「一人教育コンサルタント業」をしていたある日、米軍時代の友人が「東京で一緒にコンサルタントの会社を創ろう」と誘いの電話を掛けてきました。その頃思いがけず、夫には本社へ転勤の話があったので、私は迷わず彼らと一緒に会社の創立に加わると決めました。