IT人材など理系人材に対するニーズが一層高まる中、理系大学院生はどのような活動スタイルで学生生活を送り、どのような考え方で就職活動に臨むのだろうか。
今回は、主に「活動スタイル」について考察した。「大学院進学の動機」「アルバイトの有無」「繁忙度」「学会に参加する時期」「修論や研究のテーマを仕事に活かしたいか」など学生の生活リズムや考え方について、学生のフリーコメントを含めて以下に紹介する。
<概要>
●大学院への進学動機は「より専門性を身に付けたいから」が最多
●大学院進学後、理系院生の8割以上は「イメージとのギャップはなかった」
●理系院生の9割以上が毎日使うSNSは「LINE」
●理系院生が学会に参加する月は「3月」と「9月」に集中、9割は学会に参加
●繁忙期の研究室滞在時間は「10時間以上」が半数以上、専攻による違いも見られる
●繁忙期において、理系院生の3分の2が「1時間以上」(1週間当たり)を就活に費やす
●余裕のある時期でも、理系院生の4分の3以上が「5時間以上」は研究室に滞在する
●余裕のある時期において、理系院生の6割が「5時間以上」(1週間当たり)を就活に費やす
●「アルバイトはしていない」が4分の1、研究の繁忙度も影響か
●「研究テーマを仕事に活かしたい」と希望する理系院生は半数にとどまる
●「2020年6月」までに就職活動を終了したい理系院生が9割
大学院への進学動機は「より専門性を身に付けたいから」が最多で7割
理系学生(院生)に対して「大学院に進学しようと思った理由」について聞いたところ、「より専門性を身に付けたいから」が77%で最多であり、次いで「理系では大学院への進学が主流であるから」が47%、「希望する職種での就職に有利であるから」が41%などとなっている(図表1)。これより、自主的で前向きな理由により、大学院進学を決めている理系学生が多いことが分かる。
【図表1】大学院への進学の動機
大学院の進学は、「内部進学」が8割
「大学院進学の種別(内部進学、外部進学)」については、「内部進学」が83%、「外部進学」が17%となっており、圧倒的に「内部進学」が多いことが分かる(図表2)。
【図表2】大学院進学の種別(内部進学、外部進学)
大学院進学後、理系院生の8割以上は「イメージとのギャップはなかった」
「大学院進学前に持ったイメージと進学後のギャップ」については、「ギャップがあった」は15%にとどまり、「ギャップはなかった」が85%であり、8割以上の理系院生がイメージ通りの大学院生活を送っているようである(図表3-1)。
【図表3-1】大学院進学前後におけるイメージとのギャップ
【図表3-2】ギャップの内容(一部抜粋)
「ギャップがある」と答えた学生について、具体的なギャップの内容をフリーコメントで答えてもらった。
内容 | 大学区分 | 学年 | 専攻 |
---|---|---|---|
研究だけに没頭できるわけではなく、授業や就活、研究室の雑務も行う必要があり忙しかった | 旧帝大クラス | 修士1年 | 化学 |
研究活動の忙しさが想像以上だったため、就活との両立も想像以上に困難 | 旧帝大クラス | 修士1年 | 生物・農 |
主体的に研究を進める大変さ | 旧帝大クラス | 修士1年 | 機械 |
想像よりも厳しい環境だった | 旧帝大クラス | 修士1年 | 生物・農 |
修士一年は想像以上に就活や研究室雑務など研究以外の占めるウェイトが大きく、4年生の頃より研究に集中できなかった | 上位私立大 | 修士1年 | その他 |
思ったよりも研究をしたいと思って進学している人の少なさを感じた。皆、就職に有利になるなどの理由での進学が多かった | 上位私立大 | 修士1年 | 情報 |
研究室にもよるが、普段の研究や論文の執筆、学会発表など、学部生の時と比較しても忙しい | その他国公立大 | 修士1年 | 建築・土木 |
研究に勤しむ時間が短すぎる。授業に就職活動で実際に研究できた時間は少ない | 旧帝大クラス | 修士2年 | 電気・電子 |
想像していたより研究生活が大変で、就職すればよかったと思っていた時期があった | 旧帝大クラス | 修士2年 | 化学 |
意外に忙しくて大変だったが、研究の難しさと楽しさを知ることができた | 旧帝大クラス | 修士2年 | 生物・農 |
理系院生の9割以上が毎日使うSNSは「LINE」
普段使っているSNSについて利用頻度を聞いたところ、毎日使っているSNSは「LINE」が95%で圧倒的であり、次いで「Twitter」と「Youtube」がともに69%、「Instagram」が39%などとなっている(図表4)。その他のSNSについては、毎日使っている割合は10%未満であり、理系院生に利用されるSNSには偏りが大きく出ていることが分かる。
2019年3月に実施した「楽天みん就」の会員学生を対象とした調査では、学部生も含めた理系学生の「Facebook」利用率は20%(文系:23%)にとどまっていたが、今回の調査では「毎日利用している」と「たまに利用している」の合計は54%にも及ぶ。その他のSNSについても、今回の調査結果の方が軒並み高くなっている。学部生に比べて院生の方が、SNSの利用率が高いと言えそうである。
【図表4】SNS種別の利用頻度
理系院生が学会に参加する月は「3月」と「9月」に集中、9割は学会に参加
「学会に参加する月」(複数選択)については、「9月」が37%で最多であり、次いで「3月」が34%で、この2ヶ月に集中していることがうかがえる(図表5-1)。また、「学会に参加しない」は12%であり、約9割の理系院生が何らかの学会に参加していることが分かる。
専攻別に見ると、「医学部」は年間通して一定の学会参加があり、「建築・土木」は6月に参加する院生が多いこともうかがえる(図表5-2)。
【図表5-1】学会に参加する月
【図表5-2】専攻別 学会に参加する月
繁忙期の研究室滞在時間は「10時間以上」が半数以上、専攻による違いも見られる
「繁忙期における研究室滞在時間」については、「10~15時間未満」が39%で最多であり、次いで「8~10時間未満」が28%、「5~8時間未満」「15~20時間未満」が12%などとなっている(図表6-1)。これらより、繁忙期に10時間以上も研究室に滞在している理系院生は55%と半数以上であることが分かる。
専攻別にみると、繁忙期の研究室滞在時間が10時間以上である学生が最も多い専攻は「化学」の70%で、次いで「生物・農」が69%などとなっている一方、「情報」は37%にとどまっている(図表6-2)。これらより、研究室内での実験等に基づく研究が多い専攻の理系院生は滞在時間が多くなるなど、専攻等により研究室滞在時間は異なることがうかがえる。
【図表6-1】繁忙期における研究室滞在時間(1日あたり)
【図表6-2】専攻別 繁忙期における研究室滞在時間(1日あたり)
繁忙期において、理系院生の3分の2が「1時間以上」(1週間当たり)を就活に費やす
「繁忙期において就職活動関連に使っている時間」について聞いてみると、「1時間未満」が34%で最多であり、次いで「1~3時間未満」は28%、「3~5時間未満」は17%などとなっている(図表7)。本業の繁忙期に就職活動を行う余裕は無いながらも、自分事である就職活動に1時間以上は取っている学生が3人に2人はいることが分かる。ただ、「5時間以上」となると、2割程度にとどまる。
【図表7】繁忙期における就職活動関連に費やす時間(1週間あたり)
余裕のある時期でも、理系院生の4分の3以上が「5時間以上」は研究室に滞在する
「比較的余裕のある時期の研究室滞在時間」については、「5~8時間未満」が39%で最多であり、次いで「8~10時間未満」が26%、「3~5時間未満」が14%などとなっている(図表8)。余裕のある時期の研究室滞在時間が10時間以上である理系院生の割合は12%であり、繁忙期(55%)より43ポイント低くなっている。ただし、5~10時間未満の滞在時間がある割合が65%と6割以上を占めており、余裕のある時期でも5時間以上は研究室に滞在する割合が4分の3以上に及び、理系院生にとって一般的であることがうかがえる。
【図表8】比較的余裕のある時期の研究室滞在時間(1日あたり)
余裕のある時期には、理系院生の4割が「5時間以上」(1週間当たり)を就活に費やす
「余裕のある時期において就職活動関連に使っている時間」については、「1~3時間未満」が29%で最多であり、次いで「3~5時間未満」が20%、「5~8時間未満」が15%となっている(図表9)。1週間の中で「5時間以上」を就活関連に確保している割合は40%であり、繁忙期(21%)の2倍近くになっている。逆に、「1時間未満」の割合は、繁忙期(34%)の3分の1にとどまり、余裕のある時期には就活に費やす時間が確実に増えていることが分かる。
【図表9】余裕のある時期において、就職活動関連に費やす時間(1週間あたり)
「アルバイトはしていない」が4分の1、研究の繁忙度も影響か
「アルバイトの有無とその内容」については、「アルバイトはしていない」が24%で最多であるが、逆に残りの76%は何らかのアルバイトをしていることになる。アルバイトの種類で最多は「塾講師」の21%、次いで「飲食店の店員」が17%、「家庭教師」が9%などとなっている(図表10-1)。
これを繁忙度別にみると、繁忙期の研究室滞在時間が「5時間未満」では「アルバイトをしている」理系院生は87%であり、一方「20時間以上」では59%にとどまっている。これらより、繁忙期の研究室滞在時間が長くなるほど、何らかのアルバイトをしている学生の割合は減少する傾向にあり、繁忙度の高い理系学生はアルバイトをする余裕もなく学業(研究)に勤しむ生活を送っていることがうかがえる(図表10-2)。
【図表10-1】アルバイトの内容
【図表10-2】繁忙期の研究室滞在時間とアルバイトの有無の関係
【調査概要】
アンケート名称:「HR総研」×「LabBase」理系学生(院生)の実態調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)、LabBase(株式会社POL)
調査期間:2020年1月20日~2月3日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:理系学生(修士1年生、2年生)
有効回答:1,061件(修士1年生:82.5%、2年生:17.5%)
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照をいただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当ページのURL記載、またはリンク設定
3)HRプロ運営事務局へのご連絡
・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
・引用先名称(URL) と引用項目(図表No)
・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp
※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。
この先は、会員の方だけがご覧いただけます。会員の方はログインを、会員でない方は無料会員登録をお願いします。
- 1