同じ職場環境で、同じくらいの仕事量、プレッシャーなのに、心身の不調をきたす人とそうでない人がいる。なぜそのような違いが生まれるのだろうか。今回は、その代表的な4つの要因についてご紹介したい。
どうして同じ職場なのに不調になる人とならない人がいるのか

【1.コーピング】

コーピングとは、『心理学辞典』(有斐閣)によると、「ストレスがかかった時にストレス反応を低減することを目的とした、認知的または行動的努力のプロセスのこと」を指す。つまり、ストレス対処行動である。

なにかストレスフルな状況(例えば、残業が多い等)で、ある人が気晴らしにカラオケに行くことも、あるいは、ただあきらめてしまうこともコーピングの一つとなる。

社会人として有効なコーピング方法を身につける、また、そのレパートリーを増やし適切に実施することにより、仕事のストレスをうまく乗り切ることができるようになる。

以下に、科学的に効果のあるコーピングの例をまとめた。ぜひ参考にしてほしい。
どうして同じ職場なのに不調になる人とならない人がいるのか
実施するコーピングの種類を増やすには、ほかの人を見習うのが一番である。職場でストレスに強そうな人が行っている、なにげないコーピングを参考にしてみるのもいいだろう。

【2.認知】

認知とは、心理学の世界では、ものの捉え方のことを言う。

例えば、雨が降っているという状況に対して、
・「服がぬれてしまう」と捉える人は、雨を見ていやだなと感じ
・「花粉が飛ばないな」と捉える人は、雨を見てうれしく感じる

つまり、同じ「雨が降る」という事象に対して、認知が異なると、そこから生じる感情にも変化が生じるのである。

これは仕事でも同様で、同じ状況であっても、それに対して認知が異なれば、プレッシャーに感じたり、そうでなかったりする。客観的に見てあまりにも妥当でない認知によって、本人が仕事ができなくなっている場合は、認知を修正することもよい方法であろう。

【3.セルフ・エフィカシー】

セルフ・エフィカシーとは心理学の用語で、「自己効力感」と訳される。平たく言うと「ある行動をうまく行うことができるという自信」と言える。セルフ・エフィカシーが高いと、行動の生起頻度が高くなる。つまり、仕事でいうと、バリバリと働ける状態となるのだ。

では、そのセルフ・エフィカシーは、どのようにしたら高められるのだろうか。

セルフ・エフィカシーを高めるためには、成功体験を積むことが一番である。 その面においては、新入社員などに、始めは簡単な仕事からアサインしていき、徐々に難しい仕事を任せていく、という日本の教育スタイルは合致しているといえる。

また、セルフ・エフィカシーは、成功している人を見ることでも高めることができる。つまり、会社でハイパフォーマーの人をよく見て学ぶというのが、セルフ・エフィカシーを高めるにはとてもよい方法なのだ。

会社内でいまいち消極的だという人は、このセルフ・エフィカシーが低くなっている状態なのかもしれない。そのような時は、ハイパフォーマーの行動を観察するように勧めることで、セルフ・エフィカシーが高まり、徐々に行動を起こすようになるかもしれない。

【4.認知行動理論】

認知行動理論とは、欧米のカウンセリングの主流となっている認知行動療法の基礎となる理論だ。日本でもようやく、認知行動療法によるカウンセリングが保険診療となり、徐々に普及しはじめている。

認知行動理論では、環境を含めた下記5つの領域が、互いに密接に関連していると考える。

(1)環境:過去や現在の自分のおかれている状況、ストレスのようなもの
(2)考え:自分や他人についての考え、イメージや記憶のようなもの
(3)気分:喜怒哀楽をはじめとした感情
(4)行動:実際に行う行動
(5)身体:ドキドキ、汗をかくといった体の反応

特に、考え・気分・行動・身体の4つの領域を結ぶ線は、互いが互いに強く影響を及ぼし合っている。つまり、行動の変化は気分の変化を促し、また、体の反応が変わってくると気分や考えも変わってくるということだ。

たとえば、大雨が降って歯が痛いときには、どう頑張っても良い気分や考えにはならず、行動も消極的になりがちだろう。これもまさに、体と気分と考えが連動しているからだ。

この5つの領域が理解できると、問題の整理・理解ができるようになるだろう。

よく職場での問題解決を図る場面で、考えや行動のみに焦点をあてて解決策を考えることが多いが、それ以外の要因も互いに影響し合っていることを忘れてはいけない。それらの中で、変えやすいところから変えていこうというのが、認知行動理論の基礎的な考え方である。このような視点で問題に取り組むことで、より早い解決へつながる。

Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代 表
一般社団法人 ウエルフルジャパン 理 事
産業能率大学兼任講師
植田 健太

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