HR総合調査研究所(HRプロ)が2013年3月に実施した「人材育成に関するアンケート調査」結果を基にした第2回レポートをお届けする。前回は人材育成方針、育成機会、外部委託の状況、研修の手法などについて報告した。今回は、実施した具体的な階層別、マネジメント系、ビジネススキル系研修のテーマについてフォーカスしてみた。

規模で違いが目立つ階層別研修の実施状況

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

「2012年度に実施した階層別研修」では規模別の違いが明瞭に出た。グラフは細かいのでわかりにくいが、「新入社員研修」から「経営幹部研修」までと「その他の階層別研修」のすべての階層別研修で、スコアが「1001名以上」→「301名~1000名」→「300名以下」という順になっている。しかもスコアの差が大きい。10数ポイント、中には20ポイントも違っている。
 階層別研修は体系だった人材育成メニューであり、ある意味では順序立てて教育する学校のカリキュラムに似ている。大企業は充実している。
 「1001名以上」では、「新入社員フォロー研修」76%、「若手社員研修」68%、「中堅社員研修」71%、「新任管理職研修」75%と約7割の企業が実施している。ところが「301名~1000名」では5割台に下降し、「300名以下」では3割台である。
 ミドル研修を見ても「1001名以上」は、「管理職研修(課長クラス)」56%、「管理職研修(部長クラス)」44%と半数の企業が実施している。しかし「301名~1000名」の「管理職研修(課長クラス)」は48%だが、「管理職研修(部長クラス)」は21%に過ぎない。
 そして「300名以下」になると、「管理職研修(課長クラス)」は25%であり、「管理職研修(部長クラス)」は14%しかない。

図表1:2012年度に実施した階層別研修

規模が大きいとマネジメント人材、小さいと現場リーダーの育成に軸足

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

もう一つ見てもらいたいのは「今後より強化したい階層別研修」の結果だ。「実施した階層別研修」とは異なる結果になっている。全体で見ると、もっとも強化したいのは「管理職研修(課長クラス)」だが、規模別で見ると違っている。
 「1001名以上」のトップ3は、「管理職研修(課長クラス)」51%、「経営幹部候補研修」49%、「管理職研修(部長クラス)」41%であり、いずれもマネジャークラスである。
 次に「301名~1000名」のトップ3を見ると、「中堅社員研修」48%、「管理職研修(課長クラス)」41%、「管理職研修(部長クラス)」31%である。階層別で言えば、「1001名以上」のランクより一つ下を重視しているようだ。
 「300名以下」のトップ3を見ると、「管理職研修(課長クラス)」40%、「中堅社員研修」40%、「新任管理職研修」35%になっている。この階層は、「301名~1000名」より一つ下のランクである。
 この調査から見る限り、大企業ほどマネジメント人材を養成しようとしており、規模が小さくなると現場のリーダーを育てることを人事課題にしているように思える。フリーコメントを読んでも「マネジメント」という言葉が頻出している。
「プレーヤーとマネージャに求められる役割の違いを理解。リーダーとマネージャの違いを理解」(51名~100名、情報処理・ソフトウェア)
「管理職がプレーヤーのため、マネジメントスキルに乏しい」(51名~100名、精密機器)
「ビジネススキル、マネジメントスキルを段階的に定着させるような体系的な教育カリキュラムを検討し、個々の研修機会を通じてインプットしていく。」(1001名~5000名、医療機器)

図表2:今後より強化したい階層別研修

マネジメント研修で多いのは「メンタルヘルス研修」と「評価者研修」

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

階層別研修以外の研修の中身を見てみよう。まずマネジメント系研修を紹介しよう。全体でも規模別でももっとも多いのは「メンタルヘルス研修」。全体では 36%であり、「1001名以上」では56%の企業が実施している。次に多いのは「評価者研修」で、全体では33%、「1001名以上」では58%だ。ただ「1001名以上」の規模では実施率は20ポイント以上低い。
 この2つの項目以外の研修は全体で10ポイント以上低く、「モチベーション研修」の全体は21%、「ハラスメント研修」が20%と低い。
 「ハラスメント研修」、「意識改革研修」、「コーチング研修」、「経営分析・戦略研修」の実施率は大企業で3割前後だが、中小企業では数パーセントにとどまり、差異が大きい研修だ。

図表3:2012年度に実施したマネジメント系研修

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

実施したマネジメント系研修の調査では大企業の突出ぶりが目立ち、規模が小さいと実施率が低くなっている。ただ中小企業の人事担当者が、現状をよしとしているかというと、そうではない。
 「強化したい研修」では、中小企業の回答が多く、現状はやりきれていない研修(足りないもの)はわかっており、今後強化するようだ。

図表4:今後より強化したいマネジメント系研修

ばらつきの大きいビジネススキル系研修

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

マネジメント系研修の次にビジネススキル系研修を見てみよう。これも規模によって大きなばらつきがある。まず全体のトップ10の数字を紹介しよう。
 「ビジネスマナー研修」37%、「コミュニケーション研修」28%、「コンプライアンス研修」26%、「営業研修」26%、「リーダーシップ研修」25%、「プレゼンテーション研修」25%、「語学研修」22%、「ロジカルシンキング研修」22%、「技術・技能者研修」19%、「キャリア開発研修」17%。
 ただしこれは全体の平均値。規模別に見ると、順位も数字も違っている。「1001名以上」では1位から「プレゼンテーション研修」42%、「語学研修」41%、「コンプライアンス研修」41%、「ビジネスマナー研修」37%、「ロジカルシンキング研修」37%、「営業研修」34%、「キャリア開発研修」32%が3割以上の項目だ。全体平均よりかなり高い数字である。
 ところが「301名~1000名」では3割以上の項目は、「ビジネスマナー研修」41%、「リーダーシップ研修」34%だけである。この2つの後に「コミュニケーション研修」26%、「コンプライアンス研修」26%、「プレゼンテーション研修」26%と同率で続いている。「1001名以上」より10ポイントほど低く、順番も違う。
 「300名以下」になると、3割台がトップになり、「ビジネスマナー研修」34%、続いて「コミュニケーション研修」27%、「営業研修」24%、「技術・技能者研修」23%。他の研修は20%未満の実施率だ。
 大企業と中小企業で実施率の差が大きいのは、プレゼンテーション研修、語学研修、ロジカルシンキング研修、キャリア開発研修、財務・会計研修、グローバル人材研修であり、求める人材能力要件の違いを表しているのだろう。

図表5:2012年度に実施したビジネススキル系研修

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

「今後より強化したいビジネススキル系研修」を見ると、その違いがわかる。「リーダーシップ研修」はどの企業規模でも重視されているが、差が大きい研修もある。最も違っているのは「グローバル研修」。「1001名以上」では31%と高いスコアだが、「301名~1000名」では10%と3分の1、「300名以下」では8%と4分の1になっている。
 ただし「語学研修」のスコアはどの企業規模でも似通っている。もっとも大企業では「語学研修」でやってきた土台の上に「グローバル研修」を位置づけているのだろうが、中小企業はこれから「語学研修」の強化に乗り出すと到達度の違いがあると思われる。

図表6:今後より強化したいビジネススキル系研修

効果を短期的に測定できない研修もある

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

費用も手間もかかる研修だが、効果測定が難しい。どのように測定しているのかを聞いたところ、ダントツに多いのは「受講者アンケート」76%。他の測定法を圧倒する多さだ。
 続いて「受講者ヒアリング」34%、「事前・事後テスト」24%、「上司・同僚による行動観察(360度評価)」13%。
 そもそも「効果測定をしていない」企業もあり、13%。「業務成果」で測定する企業は11%。
 このアンケート結果を見ると、正確に研修の効果を測定している企業は少なそうに思える。また「ビジネスマナー」や「語学」は測れるとしても、「リーダーシップ」や「ロジカルシンキング」が測れるものかどうかははっきりしない。というより「リーダーシップ」や「ロジカルシンキング」は1回の研修で身につく性質の能力ではない。研修は受講者に「気づき」を与えるものだから、長期的に成長を期待するしかないだろう。

図表7:研修効果の測定方法

教育研修実施上の問題点は「研修成果がはかりにくい」

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

教育研修実施上の問題点がない企業はわずか5%で、その他の企業は何らかの問題点を感じている。最も多いのが「研修成果がはかりにくい」の46%、次いで「費用負担が大きい」の40%が続く。
企業規模による差が大きい項目もある。「教育研修の時間が取れない」は、「300名以下」では45%だが、「1001名以上で」では29%と16ポイントも開きがある。逆に「現場の理解が得にくい」とするのは「1001名以上で」で多く(37%)、「300名以下」では25%と12ポイントの開きがある。「1001名以上」では研修メニューが多すぎることが、現場のブーイングを招いているのかもしれない。

図表8:教育研修実施上の問題点

8割以上の企業が自己啓発の支援を実施

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【2】

自己啓発に対する支援内容では、「受講料・図書費などの金銭的援助」が55%で最も多く、次いで「外部セミナー、通信教育等の情報提供」の50%が続く。支援の主流はこの2つで、次の「自主的勉強会等への援助」は23%と一気に少なくなる。
 「金銭的援助」の方法としては、「受講料の全額・一部補助」のほか、「資格取得御祝金(一時金)」「資格手当(毎月支給)」が多い。受講料の補助については、資格合格や通信教育の完走を条件にする例も多い。
 なお、「自己啓発への支援は実施していない」とする企業は18%しかなく、大半の企業が何らかの支援を実施しているようである。

図表9:自己啓発への支援内容

【調査概要】

調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年3月13日~3月25日
有効回答:209社(1001名以上 59社, 301~1000名 58社, 300名以下 92社)

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