あなたは「部下のことをよく知っていますか」と尋ねられたら、どう答えるだろうか?「仕事の話しかしていなくて、個人的なことはよく知りません」という答えであれば、現状をちゃんと理解しているのだろう。「毎日会っているのだから、当然よく知っていますよ」という答えであれば、二通りある。それは、「部下と親しくて本当に人となりもよく知っている場合」と、「知っていると思い込んでいるだけの場合」である。では、思い込みではなく、部下の性格や人となりを自然に深く知るには、いったいどうしたらよいのだろうか?
部下のことをよく知っていますか?

その人に対する思い込みを持っていることに気づく

「仕事の場では仕事のことだけ考えていればよい、相手の個人的なことは知らなくてよい」という考え方では、残念ながら、いいチームワークは作れない。

部下の性格や考え方を知らなければ、相手に合わせた適切な指導をすることもできない。また、介護など家庭の事情が仕事に影響する場合、上司が部下のプライベートを何も知らなければ、部下のほうから言い出しにくいということもある。

部下がプライベートなことをどのくらい上司に教えるか、上司に知られてもいいと思っているか、というのは、信頼のバロメーターであるとも言える。

一番よいのは、部下本人と直接話して相手のことを知ることだが、それ以前に、その人の属性の持つイメージに引きずられていないか、まず点検する必要があるだろう。

部下のことを知っていると思い込んでいる上司には、そういう「イメージ先行型」が多い。たとえば、次のような思い込みを持ってはいないだろうか?

・B型はマイペースだ
・九州出身の人は男尊女卑だ
・女性は機械が苦手だ

血液型についてはまったく根拠はないし、他もそうしたイメージが流布している傾向が強い、といった程度の話だ。しかし、これをまるで事実のように受けとめている人がいる。このような型にはまった考え方を「ステレオタイプ」という。

部下に対して、その人個人を見ずに、このようなステレオタイプで、人となりを判断していないだろうか。

特にこれから職場には、外国人が増えてくることが考えられるが、国籍や民族に貼り付いたステレオタイプは、かなり強固なものだ。そのような思い込みに惑わされないよう気をつけよう。

インド人全員が数学が得意なわけではないし、アフリカ系の人すべてが足が速いわけではない。この程度はまだ冗談ですませられるが、「中国人(韓国人)は反日意識が強い」というステレオタイプに至っては、最初から相手に敵意を持たれているという前提になってしまい、有害でしかない。

自然に自分のことを話してもらう工夫をする

部下に自分のことを話してもらいたいと思っても、なかなかそのような機会がない、また、プライベートなことを根掘り葉掘り聞くと、相手の気を悪くするばかりか、場合によってはハラスメントだと思われかねない、こんな悩みをもつ上司も多いだろう。

やはり、個人的に話を聞き出すというよりも、部下本人から、自分のことを語ってもらう仕組みが必要なのである。

たとえば、部署の全体ミーティングを定例で行なっているのであれば、全員が回り持ちで自己紹介プレゼンをするのもよい。「私の好きな場所」「いまハマっているもの」などのテーマを決めると、話もしやすいだろう。

また、そのようにあらたまった形ではなく、全体ミーティングの前に短時間でよいので、雑談タイムを設けるというやり方もある。まずは上司が自分から自己開示をして、誰もが気軽に話せるような雰囲気作りをするのがポイントだ。

最近では、部署全体やグループではなく、上司と部下が1対1で定例ミーティングをする“1on1ミーティング”がトレンドになっている。その中では、プライベートについても、抵抗の少なさそうな話題から少しずつ聞いていくのが、信頼関係をつくる方法として推奨されている。

たとえば、「この週末、何をしてたの?」という雑談に抵抗感を示す人はあまりいないだろう。そこから部下の趣味や日常の一端が分かれば、次には「先週も釣りにいったの?」など、自然に話をつなげることができる。そうして、好きなこと、苦手なこと、楽しいこと、苦痛なことなどを聞いていくと、その中からその人の価値観が表れてくる。

このときも、一方的に部下に話してもらうのではなく、上司のほうからも、あえて少し言いにくい話を打ち明けると、部下も安心して秘密の話をしやすくなる。

人間関係は、あくまでも双方向である。部下に話してもらいたい、部下のことを知りたい、という目的であっても、まず、上司自身のことを話そう、知ってもらおう、という回り道が、結果的に功を奏するのだ。
李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー

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