「勝ち組」として生き残るためには企業は常に「変革」し続けていかなくてはいけない。しかも、その変革のスピードは年々速くなり、そのうえ、解決しなくてはいけない課題も複雑かつ、多岐にわたってきている。しかし社内を見ると営業責任者と開発責任者が対立していて物事が前に進まない等、結局そのしわよせは現場に……と景気の良し悪しにかかわらず、経営陣から年々ハードなリクエストが続くケースは多い。
もやもや組織からすっきり組織へ ―― 信頼感を取り戻すアプローチ-

オーガニゼーションミラーリングで職場間に意識の壁を取り除く

 このような状況の中、「誰もが一生懸命仕事を進めているが、なぜか思うように進まなく報われない、何が悪いのであろうか」という‘もやもや感‘が発生している職場も多いと思う。
 ややもするとこの“もやもや感”は真綿のように職場を縛り、職場の活気と生産性を失わせてしまうことになってしまう。言わば、この状態は組織の“成人病”であり、この病にかかると、イノベーション等、新たな生き残り戦略に打ってでようとしても、組織のメンバーに悪気はないのについてこないという事態に発展してしまうリスクがあるのである。

 この停滞感は「やっているのに報われず、報われないゆえにお互いの信頼感がゆらいでしまっている」ことに起因するため、一の矢としてここに手を打つことを考えてみよう。
 こういう場合の改善の鍵はどこにあるのか。「報われない」「信頼がない」と感じている当事者にほかならない。組織の変革は特別な人が担当するというよりも、実際は「どこかがおかしい」と気づいた現場の方々がキーになる。
 リーダーであるあなたはその方々のもやもや感を解消できるような「場」の設定からアプローチするといいだろう。
 例えば、「売れる製品がつくれないのは、営業と開発の間で信頼感が欠如していることが起因」とわかったら、営業のメンバーと開発メンバーに声をかけ、お互いの仕事のやり方をじっくり観察させる場を提供する。この時に大切なのは、営業メンバーであれば営業という気持ちを一度リセットし、開発の人間になりきらせるところにある。このような意識で仕事を観察すると、実は営業の情報提供がずさんであった等の営業サイドの課題に気づくのである。
 同じように開発メンバーにも営業サイドの仕事をオブザーブさせると営業からみた開発側の課題にも気づくことになる。

 次に、開発に対して、いつ、どのように営業からの情報を伝達すれば、今までよりも市場性のある製品が開発できるのか、逆に営業にとってはどんな製品が開発され、どのタイミングでどのような情報が上がってくればいいかをそれぞれに部署に持ち帰り、改善の賛同者を募り、課題解決の試案を策定した上で、開発・営業合同で議論する「場」を提供する。
 この場面では、リーダーであるあなたはこの取り組みに対して「正当な意思」を持ってメンバーを応援することと、メンバーのスポンサーとなって支援してあげることが役割になる。私利私欲から発生したものではなく、組織を良くしようとする提案であれば周りの賛同も得られ、その輪が広がっていくことで停滞感は払拭され、「すっきり組織」へと変わっていくだろう。この手法は組織開発の「オーガニゼーションミラーリング」と呼ばれているもので、職場間に意識の壁を取り除く時には効果がある。

 その他に“もやもや感”を解消するために欠かせない手法としてキーになるのは「対話」だ。「手ごわい問題は対話で解決する」(アダム・カヘン著)には、「対話」を用いて南アパルトヘイト問題を解決したアプローチが載っている。具体的には肌の違いや貧富の差など、利害関係が対立する集団のトップを全員集め、各人が背負っている面子やプライドを全部下ろさせ、素のままの人間として尊重し、心を開いた対話を通して、同国の未来のシナリオを一緒に考えるというものだった。それを続けるうちに、他の民族や階層を排除して自分達の日頃の主張を実現させても、自分達に輝かしい未来がないということに気づき、例え先祖代々対立していた敵同士でも、相手の主張を聞き入れ、互いに譲り合い、未来を共有するようになり、最終的にはアパルトヘイトの解消につながったというのである。この方法は上記の営業や開発の課題解決会議の場でも効果的で、「対話」を用いると「開発の立場を主張したら、自分達は仕事がやりやすくなって、斬新な商品がいくつか生まれるかもしれないが、マーケット動向を外した商品を出すことにもつながりかねない。今までよりもう少し営業からの情報に耳を傾けてなくては」と、相手だけでなく自分達が変わらなければいけないということに気づかせることができるだろう。


HR総合調査研究所 客員研究員 松本利明
(人事コンサルタント)

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