平成30年10月1日から始まった厚生年金保険などの「年間報酬の平均」による随時改定について、これまで2回にわたり説明してきた。最終回となる今回は、「年間報酬の平均」による随時改定の仕組みを“利用するための条件”を整理してみよう。

『等級変動に関する3つの条件』とは

「年間報酬の平均」による随時改定は、「毎年、昇給の時期が“繁忙期”にあたるため、昇給の時期はその他の時期と比べて残業代がたくさん支払われる」というようなケースを想定して設けられた仕組みである。

そのため、次のような『等級変動に関する3つの条件』を満たしたときに利用可能となる。

【条件1】
「現在の標準報酬月額」と「従前の随時改定による標準報酬月額」との間に“2等級以上”の差があること

【条件2】
「従前の随時改定による標準報酬月額」と「年間平均額から算出した標準報酬月額」との間に“2等級以上”の差があること

【条件3】
「現在の標準報酬月額」と「年間平均額から算出した標準報酬月額」との間に“1等級以上”の差があること

それでは、前回の『平成30年10月から始まった「年間報酬の平均」による随時改定とは(第2回)』(HRプロニュース平成31年1月17日付)で紹介した以下の事例が、上記『等級変動に関する3つの条件』に当てはまるかを見てみよう。

《前回紹介した事例》
 ・1月から9月に支給した給料額  …20万円
   内訳:基本給(固定的賃金)  …19万円
      残業代(非固定的賃金) …1万円
 ・10月から12月に支給した給料額 …25万円
   内訳:基本給(固定的賃金)  …20万円(1万円アップ)
      残業代(非固定的賃金) …5万円(4万円アップ)

この事例について、『等級変動に関する3つの条件』の中で問われる「現在の標準報酬月額」、「従前の随時改定による標準報酬月額」、「年間平均額から算出した標準報酬月額」を整理すると、次の図のようになる。(標準報酬月額の算出方法も第2回を参照のこと。)
初めに、@「現在の標準報酬月額」が“14等級”、A「従前の随時改定による標準報酬月額」が“17等級”なので、“2等級以上”の差がある。よって、【条件1】を満たしていることになる。

次に、A「従前の随時改定による標準報酬月額」が“17等級”、B「年間平均額から算出した標準報酬月額」が“15等級”なので“2等級以上”の差がある。よって、【条件2】も満たしていることになる。

最後に、@「現在の標準報酬月額」が“14等級”、B「年間平均額から算出した標準報酬月額」が“15等級”なので“1等級以上”の差がある。よって、【条件3】も満たしていることになる。図で見ると次のようになる。
以上の通り、第2回で紹介したケースは、随時改定で「年間報酬の平均」を使用するための『等級変動に関する3つの条件』を全て満たしていることが分かる。

等級変動“以外”の条件もある

しかし、等級変動に関する条件を満たせば必ず「年間報酬の平均」による随時改定が行えるわけではない。それらに加え、次に記載する条件4〜6も全て満たすことが求められる。

【条件4】
「従前の随時改定による標準報酬月額」と「年間平均額から算出した標準報酬月額」との差が業務の性質上、例年、発生することが見込まれること

これはつまり、毎年、同じ時期に繁忙期を迎え、毎年、同じ時期に残業代の支払いが増える状態にあることが必要ということだ。従って、“業務の一時的な繁忙”など、必ずしも毎年発生するわけではない業務の繁忙と昇給時期が重なったようなケースでは、この改定は行うことができない。

【条件5】
報酬月額の変動も業務の性質上、例年発生することが見込まれること

「定期昇給による給料の増加」のように、固定的賃金の変動が“毎年、発生する変動”であることが必要になる。毎年の定期昇給ではなく、その年のみの特別な昇給が行われたようなケースでは、この改定は行うことができない。

【条件6】
「年間平均額から算出した標準報酬月額」で改定することに被保険者が同意していること

対象となる従業員が、「年間報酬の平均」で随時改定を行うことに対して同意していることが必須になる。会社側の一存だけでは、この改定は行うことができない。

――以上のすべての条件を満たして初めて、「年間報酬の平均」による随時改定の仕組みが利用できる。

「年間報酬の平均」による随時改定は、残業代などの“非固定的賃金”の一時的な変動を緩和でき、随時改定の“本来の趣旨”に沿った改定を可能とする優れた制度である。

ただし、利用するための条件はかなり厳しい。有効活用するためには、同制度の本質を十分に研究をする必要がありそうである。

コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)